MLB

菊池雄星が独白!メジャー挑戦を支えた最先端のデータ活用法とアナリストとの対話

昨今のスポーツはテクノロジー化が進み、データによる分析が進んでいる。アスリートの感覚的なものやジャーナリストの印象が、データアナリストによって、具体的に研究されているのだ。
野球界も例外ではなく、ボールの速さ、回転数、角度などを自動計測できる弾道測定器トラックマンデータは、プロ11球団が採用している。そのデータをもとに、研究者やアナリストたちがチームや選手たちにコンサルティングしている例は少なくない。
参考:マリナーズ菊池雄星の新球種の創り方!感覚とデータが融合する最先端の「ピッチデザイン」とは

今季からシアトル・マリナーズに移籍した菊池雄星投手は、2018年からデータによるピッチデザインに着手した。それまで彼の中に抱いていた、調子の良し悪しなどがデータ化されたことで、常に良い時の自分をイメージして取り組めたという。

今回はその菊池雄星投手がパーソナルアナリスト契約をしているネクストベース社の神事努氏、森本崚太氏と対談を行った。バイオメカニクスからの観点とさらにデータを駆使した両人とデータを基にしてピッチデザインに取り組んだ菊池雄星投手の対談からは、野球界が新しい世界に踏み込んでいることを感じずにはいられない。

対談は第1弾と第2弾の2つに分けて配信する。第1弾は、菊池投手がトラックマンデータを参考するようになった経緯、データをどう扱うことでピッチングに生かしたかを整理する。第2弾は、昨今、メジャーリーグでも多くが取り入れている「ピッチトンネル」について、菊池投手とネクストベース社がどのような考えのもとに取り組んできたかをまとめた。

聞き手:スラッガー編集部 久保田市郎、新井裕貴、ベースボールジャーナリスト・氏原英明

理想に近づくためのデータ活用

森本 「まず、菊池投手がトラックマンデータを活用するようになったきっかけを教えていただけますか」

菊池 「もともと、知りたい意欲が強い性格なんですね。数値もそうですけど、トレーニングや栄養など、いろんな分野について知りたいと思っていまして、トラックマンを西武球場(メットライフドーム)に導入したときに、すぐに興味がでました。なんとなく抑えたとか、なんで打たれるんだろう?という試合が年間に何回かあって、それをなくしたいと思ったんです。根拠がある勝ち方や負け方をしたい、と」

森本 「実際、いつのどの試合とか、例えば、だれかに打たれたとか、具体的なターニングポイントはありますか」

菊池 「打たれたことというより、ストレートの質が2017年くらいから良くなって、空振りが多くとれるようになった。それはなんでだろう?と関心を持って、そしたらトラックマンをひも解いていくといろんな要因が出てきた。スライダーも同様に良くなって三振がたくさん取れて、その根拠をもっと知りたいと」

森本 「菊池選手の中で、理想的な打者の打ち取り方や理想のピッチャー像みたいなものはありますか」

菊池 「三振です。ピッチャーの力をわかりやすく表すのは三振空振り率だと思います」

森本 「実際に、菊池選手の打ち取った2018年のデータを「リスク管理表」といって分析しているんですけど、ハイブリッドなピッチャーという印象を受けています」

菊池  「んーどうなんでしょうね。2017年の方がもっと良かったので、なんとも言えないです」

神事「完全アウトとゴロの割合でいうと、2017年と2018年はそれほど変わってないんです」

森本 「むしろゴロが増えたので、全体的にはプラスになっているんですけど、菊池投手は三振にこだわってるところがあるので、自分の思うような感じではないのかもしれませんね」

菊池 「そうですね」

森本 「メジャーリーガーでは気になる投手はいますか」

菊池 「カーショウ(ドジャース)がどんなピッチングをしているかは気になります」
参考:カーショウの球質データはこちら

神事 「(カーショウは)ゴロが多いのが特徴。彼のスライダーはゴロになっている。菊池投手がカーショウを目指すなら、スライダーは空振りをとるのと、ゴロになるものとを分ける必要があるかもしれないですね」

――カーショウが目標というのは、どういうところを見て思うんですか

菊池 「持ち球が似ていると言ったらおこがましいですけど、真っ直ぐとスライダーが軸となって、カーブ。落ちる球と言うよりも真っすぐ、スライダー、カーブで勝負しているところに、僕もああいう究極のピッチャーになりたいと思いました」

――菊池投手は2015年のオフに、ポストシーズンの観戦に行っています。カーショウを生で見て、例えば、カーショウに倣って球種をこうしようとか考えましたか

菊池 「それはなかったですね。ただ、真っすぐとスライダーの出し入れでほとんど三振をとっていた。右バッターのインコースと外のスライダーだけで三振を取ってしまうところに凄みを感じました。僕もいろんな球種を投げるピッチャーじゃないので、少ない球種をいかに磨くというところはここ2・3年の意識にはつながっていると思います

どのようにピッチデザインしていくのか

森本 「菊池投手は、2018年、ボールの質とリリースの二点について気にされている印象を受けました。トラックマンデータには膨大な数の項目があるのですが、なぜ、その二つにこだわったのですか」

菊池 「リリースに関して特にこだわったんですけど、試合によって高さが違うことが多くあったんです。リリースポイントが定まっている時はいいボールがいってるんだけど、悪い時は前後にぶれるということが顕著に出ていた。そこは直さないといけないと」

森本 「いいフォームで投げられていると、変化球が良いと話をされていましたが、リリースポイントの例のように客観的な数字でフィードバックがあるから振り返ることができるということですか」

菊池 「そうですね。仮に打たれた試合だとしても、なんで打たれたのか、なんで打たれないのかというのが、しっかり分かれば、次の一週間に繋がります。データがなかった時代は、なんで今日はボールがよかったのに打たれたのかが消化しきれないまま、次の週にいってしまっていた。そういうことが防げるようになりました」

森本 「自分のピッチングがクリアになった」

菊池 「ピッチングコーチはフォームのことを気にしますし、僕自身もどこが悪いんだろうと変な微調整をしてしまって、自分から崩れるということが起きる。ところが、数値が明らかにしてくれるようになって理由がはっきりしていれば反省ができる。切り替えられるわけです」

神事 「すごく具体的になりますよね」

――選手とアナリストのやりとりはどういう形で始まるんですか。去年は肩の疲労から回復して最初のタイガースはよくて、次週のジャイアンツ戦からリリースがよくないというのをメディアでも言いだしました。どういうやりとりがあるんですか

菊池 「レポートをいただくので、試合後、僕が気になったところをたずねます」

神事 「ディスカッションする形ですね。菊池選手から「これについてはどうでしたか?」という具体的な質問があり、「ここが前と違った」とか、「ここも違ったけど、そんなに気にする必要がない」という話をします。お互いが出し合うという形です」

菊池 「2018年は、開幕前に左肩を痛めた影響で、かかえながら投げるという癖ができてしまいまして、復帰してからもそれが抜けなくて、例年よりリリースの位置が高くなってしまった。でも、「マイナスだけではないよ」という話もしていただいたりしていました」

神事 「一番いいボールの感覚が本人自身にはあるので、自分のフォームとコンディショニングの話になる。そうするとトラックマン以外の情報が必要になる。トラックマンには出てこない部分を聞き出して、そこからトラックマンと結びつけていくんです。トラックマンデータだけを見ている人だとおそらくわからないと思います。僕の場合、筋肉の話など動作分析的なエネルギー伝達の話ができるので、そこからトラックマンデータをひも解いていくという作業をしていきます」

――そういうやりとりを繰り返していって、ピッチング自体は、シーズン後半に向けて変わった実感はありますか

菊池 「リリースポイントが高くなった影響から肩のハリや回復が遅い時期がありました。そこで神事さんに相談したら、リリースを上げるためには、身体を倒さないといけないんだけど、その時の状態は腕だけが上がっているということを教えてもらいました。だから、ケアしても繰り返してしまうので「ちょっと倒してみたら」とか、あるいは「体を倒せないなら腕を下げてみる」という話になりました」

森本 「フォームでいうと完成度は自分のなかではどれぐらいありますか」

菊池 「フォームはこれから大きく変えるところはおそらくないのかなと思います。ピッチャーって基本、あとから対処するしかないじゃないですか。バッターがこう変えたからピッチャーがこう変えなきゃ、と。その繰り返しだと思うんです。「これで完璧」ってことはたぶん引退するまでないと思います」

データを見ながらディスカッションする様子(左から菊池投手、ネクストベース神事、森本)

こうして、トラックマンデータの活用した菊池投手は、肩の疲労から始まったシーズンをうまく軌道修正して1年を乗り切った。データのない時代だと、悩みながらパフォーマンスを上げることができずに終わっていたかもしれない。そういった観点に立つと野球界に新たな手法が生まれているとも言える。

データが盛んなメジャーリーグでは、日本では考えられないほど先に進んでいる。
ここ数年、ボールに角度をつけてフライボールを意識的に打つという「フライボールレボリューション」がメジャーリーグでは巻き起こっている。2017年のワールドチャンピオンに輝いたアストロズなど多くの球団が取り入れ、キャンプ地のバッティング練習場には2メートルの壁が置いてあるチームも存在するという。
参考:フライボール革命は本当に日本人には不可能なのか?

そのフライボールレボリューションに対抗するのが「ピッチトンネル」だ。次回は、その「ピッチトンネル」について、3人の対談をお送りする。

※当引用について→ 利用規約

氏原英明 (うじはら・ひであき)
1977年生まれ 日本のプロ・アマを問わず取材するベースボールジャーナリスト。高校時代の菊池雄星のピッチングに魅了され、また、ドラフト前の涙の記者会見に野球界の未来を案じた。菊池のデビュー戦や初勝利はもとより、2014年以降はホームからビジターまで年間ほぼ全ての登板を観戦取材し、その背中を見つめ続けた。夏の甲子園は03年から16年連続取材し、近著に『甲子園という病』(新潮社)がある。
3/20に「メジャーをかなえた雄星ノート 」を発売予定。

【氏原氏のTwitterはこちら】https://twitter.com/daikon_no_ken