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感覚に惑わされるな?!情報を正しく取捨選択して競技力向上に活用する方法



目次
巷にあふれかえる野球の情報
意味のある情報って何?
プロ野球選手の感覚を理解するのは至難の業
事実に付加された主観的情報
客観的データは解釈が難しいが、活用する価値がある
主観的情報と客観的情報の間を埋めよう

巷にあふれかえる野球の情報

野球の競技力向上に関する情報の種類と数は、WEBの発展と共に爆発的に増加した。「情報は取捨選択が大事」という誰もが聞いたことがある課題は、選手の競技力向上だけでなく、チームのマネージメントにも大きな影響を及ぼしている。情報を有効活用できる情報強者と、適切な情報の活用ができない情報弱者との情報格差は、これから更に拡大し続けるだろう。

このような時代においては、様々な種類の情報源の中から必要な情報にアクセスし、アクセスした情報を正しく評価し,活用する能力「情報リテラシー」が欠かせない。
そこで今回は、競技力向上に関する情報の種類とその特徴を整理しながら、情報を取捨選択する具体的な方法を提案する。

意味のある情報って何?

まず、今回のテーマである「競技力向上に関する情報」の定義を、「発信者から何らかの媒体を通して受信者に伝えられる、一定の意味を持つ内容」とする。スポーツ現場における「事実、現象」は、それだけでは「意味を有さないデータ」である。受信者に届く情報は、この「事実、現象」データに意味を持たせて(情報化されて)、雑誌やWEBなどの様々な媒体から発信されたものである。

プロ野球選手の感覚を理解するのは至難の業

スポーツ現場における「事実、現象」データは、「感じ、意図」、「経験、記憶」、「数値、記号、映像」の3つのデータに分けられ、各データの特徴に応じて情報化される(図1)。

図1 スポーツ現場の「事実、現象」データが情報化される流れ

1つ目のデータは、選手や指導者が内的に有する「感じ、意図」である。
感覚器官に受ける刺激によって生じる反応や感覚、何かをしようと考えていること、などが該当する。これらの内的データを情報化すると、主観的情報の「言葉、イメージ」になる。「押し込む」、「カベを作る」、「開かない」などがその例である。TV、WEB動画などの媒体では、選手本人の発言や動作イメージを直接聞くことができる。
一方、第三者が本人の言葉を翻訳したり、その一部を抜粋して新聞や雑誌に掲載される場合もある。

選手本人にしかわかり得ない「感じ」と「意図」

プロ野球選手の言葉は影響が大きい。「ツイスト打法」のように、言葉が独り歩きをしたり、方法論にまで発展する場合もある。しかしながら、選手の「感じ、意図」を情報化した「言葉、イメージ」は、本人にしか理解できないこと、本人が有する「感じ」を修正する「意図」であること、別の効果があることを本人も気づいていないことが多いと思われる。従って、情報受信者である選手や指導者が、その情報を理解して活用するのはかなり難しいと考えられる。

もちろん、プロ野球選手の「言葉、イメージ」情報には、唯一無二の高い価値がある。この情報は、異国や未開の地に関する情報に似ている。従って、「言葉、イメージ」情報は、旅行記や体験記を読むように、「そういった感じもあるのだな」というように受信することをお勧めしたい。もし自分の「感じ、意図」に近い「言葉、イメージ」があれば、「それ分かる」「やってみよう」といったように活用し、それ以外の情報は捨てたほうが良いだろう。

事実に付加された主観的情報

「伝統校=1000本ノック」という当たり前への疑い

2つ目のデータは、選手や指導者の「経験」や過去の「記憶」である。
これらの内的データを情報化すると、主観的情報の「方法、文化」になる(図2、左下)。例えば、「甲子園常連の強豪校は、毎日どんぶり飯を食べている」、「伝統校の合宿では、毎年1000本ノックをする」、「走り込みは投手に必要だ」などである。主観的情報である理由は、「事実」に基づく「経験、記憶」データに、本人や第三者の偏見、価値観、思い入れなどの主観が伴って情報発信されるからである。

図2 競技力向上に関連する情報の分類

このような主観的情報は、強豪校=どんぶり飯、伝統校=1000本ノック、投手=走り込み、といったように、分かり易い半面、情報受信者が客観的情報として読み取ってしまう危険性がある。特に、情報内容と受信者の経験や記憶が重なる場合には、情報の因果関係を信じ込んでしまう傾向がある。

情報を批判的に判断する

「方法、文化」情報への対応は、「事実」に付加された主観的情報を疑うことである。
まず、受信した情報を主観的情報と客観的情報に分ける。次に、主観的情報に情報発信者の思い込みや価値観が入っていないか、自分と同じ経験や意見を信用しすぎていないか、情報を批判的に判断する。
特に、主観的情報と客観的情報の因果関係が論理的かつ合理的であるかを疑う必要がある。疑わしいと思う部分を捨て、それ以外の部分を必要に応じて活用することをお勧めしたい。

客観的データは解釈が難しいが、活用する価値がある

「本塁打をたくさん打つ打者は体重が重い」という間違った因果関係

3つ目は、選手や指導者の計測等により「数値」「記号」「映像」化した外的データである。
図2の青字で示す通り、これらは、「整理」「分類」「意味付け」をした情報と、データから「因果関係」「法則」を導き出した情報に大別される。前者の例は、「本塁打をたくさん打つ打者は体重が重い」である。
このような整理、分類された分かり易い情報は、情報の深層を疑わずに受信してしまう方も多い。一方、体重(原因)とホームラン(結果)の両方に関連している除脂肪体重(交絡因子)の存在が考慮されていないため、実際には因果関係が成立していない情報もある。プロ野球選手や有名トレーナーが紹介しているトレーニング動画もこの類の情報に該当することが多い

後者の例は、「体重が重い打者は、パワー発揮能力と関連がある除脂肪体重も多い。だから本塁打をたくさん打つことができる可能性がある」である。前者と比較すると、データ間の因果関係や法則が考慮された客観的情報である。その分野の専門家が発信している論文や専門書が該当する。一方、内容を理解するには専門的な知識が必要である。

また、「可能性がある」「示唆される」といった断定的な言及がされていない情報が多いため、有用な情報を簡単に受信したい者からは避けられる傾向もある。逆に言えば、この情報を理解して活用することができれば、他の選手が行っていない方法での競技力向上が可能になるだろう。

〜信用できる有用な情報をどう判断するのか〜

これらの「数値」「記号」「映像」に基づいた情報について、信頼できる有用な情報かどうかを判断するには、共通かつ定義された言葉を使って説明されているか、因果関係が成り立つ具体的な根拠と、その出典(書籍や引用文献)が明記されているか、を確認することをお勧めする。
近年では、情報発信者の主張を裏付けるために、都合よく研究論文の一部を抜粋、模倣した主観的な記事もある。特に、WEB上の情報には、著者、出典が明記されていない、因果関係が間違っているものが多いので、注意が必要である(文献2)。

医師がピッチング指導することの危うさ

医者や研究者など専門家の情報のうち、取捨選択の判断が最も難しいのは、「専門家の専門分野からちょっと外れた情報」である。
例えば、医療従事者が勧める理想の動作、現場指導経験がないスポーツ科学者が勧める練習方法である。医者は診察と治療、学者は特定の分野に関する専門家である。情報発信者の経歴や他に発信している情報を検索し、受信した情報と本人の専門分野が一致しているかを確認すると良いだろう。また、専門性の高い類似した記事を検索し、その違いを調べてみることもお勧めである。

表1 競技力向上に関連する情報特性と活用方法(主観)
表2 競技力向上に関連する情報特性と活用方法(客観)

主観的情報と客観的情報の間を埋めよう

競技力向上に必要なことは、情報受信者が、受信した情報の種類とその特徴を理解すること、情報を批判的に評価し、目的に応じて情報を取捨選択することである。また、上記のように、内的な主観的情報と外的な客観的情報は、水と油のように性質が異なる。
従って、主観的情報は間違っている、客観的情報は役に立たない、と批判しても仕方がない。大事なことは、主観的情報と客観的情報の間を埋めたり、情報の真相・深層を理解しようとすることである。

文献
(1)日本図書館情報学会用語辞典編集員会編.図書館情報学用語辞典第5版, 丸善出版,2013.
(2)大作勝, 神門英樹, ウェブ上に掲載されている情報の利用に関するリテラシー, 教育メディア研究, 13(2), 55-68, 2007.

勝亦 陽一(かつまた よういち)

東京農業大学応用生物科学部 准教授。野球の能力に影響する環境要因・生まれ月・競技開始年齢・兄弟構成・練習頻度、などの調査研究等を行っている。中・高校生向けのトレーニング指導や講演(「考えてバッティングをするための科学的アプローチ」等)も多数行っている。

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