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【野球選手の救急対応④】ボールが身体に当たった時の対応〜口周辺の場合〜

日本スポーツ振興センターが取りまとめている野球現場における高度障害事故を整理してみると、そのほとんどが顔面外傷であり、具体的にはボールやバット、グランド整備用のトンボなどが顔面に当たることで生じている。
なお、平成29年度では高度障害事故の約80%が顔面で生じている1)ことを考えると、野球現場では顔面によるケガに対するファーストエイド対応ができるようにしておくことが望ましいことになる。
そこで、今回は顔面にボールなどが当たったことで生じる口腔外傷に対するファーストエイドについて紹介する。

野球現場における口腔外傷の特徴

野球現場における顔面外傷の部位としては眼周囲、口周囲、鼻周囲に分けられ、13年間での高度障害事例をまとめると、視力・眼球障害など眼周囲が約50%を占める1)。
顔面外傷の1つである口周囲のケガは、医学的には口腔(こうこう)外傷とよばれる。口腔外傷の中でも野球選手に多いケガは歯科外傷であり、22年間におけるスポーツ事故に起因して歯科を受診した記録をまとめた喜屋武ら2)によると、野球選手の外来受診が最も多く(40.3%)、受傷機転ではボールの接触76%、バット12%、転倒8%、衝突4%の順に多いと報告されている。

対応が複雑な歯の外傷

歯科外傷として代表的な骨折(破折)は「歯冠部(表面に出ている歯)」と「歯根部(表面に出ていない歯茎の中に埋まっている歯)」に分けられる。
歯冠部では不完全骨折(歯に亀裂があるがかけてはいない)と完全骨折(歯がかけている状態で出血の有無がある)があり、歯根部では歯冠側の骨折(歯の動揺と痛み)と根尖(こんせん)側骨折(歯の動揺はなし)がある。

さらに、歯の根元から歯が脱落する脱臼や不完全な脱落が見られる不完全脱臼、逆に歯が歯茎に食い込んでしまう陥入(かんにゅう)がある(図1)。なお、歯科外傷については、ファーストエイド方法によって、歯の再生可能性の有無が変わってくるため、適したファーストエイドが求められる。

図1 歯の外傷の種類

口腔外傷に対するファーストエイド

口腔外傷に対するファーストエイドでは、ボール等が接触した場所によって、「あご(下顎骨)の骨折」、「歯の外傷」、「軟部組織の損傷」に分けることができる(図2)。
具体的には「あご(下顎骨)の骨折」が疑われるような変形や強い痛みがある場合には、速やかに口腔外科などの専門診療科への搬送が必要となり、「歯の外傷」が疑われる場合では、歯の損傷状況を確認し、破折および脱臼した歯を適切な方法で保存して口腔外科や歯科を受診させる

図2 口腔外傷が起きた場合のアルゴリズム

さらに「軟部組織の損傷」がある場合には、口腔内の洗浄と止血(圧迫止血)をし、出血が止まらないもしくは痛みが強い場合は速やかに口腔外科を受診させる

口腔外傷状況に合わせた医療機関受診

■あごや顔面の骨折
 変形・痛みがある → 口腔外科受診
■歯の外傷
 歯の損傷がある → 歯の保存 → 歯科医院受信
■軟部組織の損傷
 出血がある → 洗浄・止血 → 口腔外科受診

歯の外傷は大きく分けて、歯が欠けたり・抜けてしまった場合と歯が食い込んでしまう場合に分けることができる。歯が欠けたり、抜けてしまった場合には、歯を拾って市販されている保存液もしくは牛乳に歯を浸した状態で速やかに歯科医院に向かうこと求められる。
なお、歯を拾う際には、歯の先(歯冠部)を持ち、歯の根元は触らないようにしなければならない。なぜならば、抜けてしまった歯が再植できるかどうかは、歯根に付着している歯根膜細胞が生きていることが条件になるからである(図3)。

図3 歯の破折・脱臼がある場合

歯茎の損傷は直接圧迫で止血を

歯が食い込んでしまった場合では、軟部組織の損傷を伴うことが多いので、口の中を洗浄するためにうがいをし、清潔なガーゼ(滅菌ガーゼ)を用いて直接圧迫を用いて口腔内の洗浄と止血を行う必要がある(図4)。なお、口腔内の感染防止を図るためにもファーストエイド後に速やかに口腔外科を受診することを忘れてならない。

図4 口腔内に出血がある場合

いずれにせよ、口腔外傷が生じて痛みを訴える場合では、炎症を抑制させるために、口腔内に氷を入れて口腔内でのアイシングあるいは患部にアイスパックを当ててアイシングを実施し、各種症状に応じて口腔外科や歯科を受診させる。
なお、痛みが持続し症状が変わらない場合には、歯科や口腔外科を医院での受診をして破折がないかの確認をすることが必要である(図5)。

図5 口周囲に痛みや炎症を軽減するアイシング

「いざという時」に迅速な対応をするために

道具を扱う野球においては、ボールが接触することによる外傷が生じやすく、特に顔面外傷が最も多くなる。さらに顔面外傷の中でも眼周囲、口周囲、鼻周囲に分けられ、本文に示したように、それぞれの症状やチェックポイントが異なることを考えると、いざという時のチェック方法やファーストエイド方法について知っておく必要がある。
全体練習が終わった後の自主練習で選手だけになった場合でのケガのリスクを考えると、いざという時にどのような対応をすべきかを共有する方法を用意しておくことも現場の安全管理の観点から必要である。

1) 笠原政志:野球現場における救急対応の必要性、ベースボールクリニック(5)70−71、2019.
2) 喜屋武健ら:スポーツ事故に起因した外傷歯の臨床的検討、日本口腔科学会雑誌58(3)、120−126、2009.

笠原 政志(かさはら まさし)

国際武道大学体育学部/大学院武道・スポーツ研究科教授、学術博士(体育学)、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー。現在は国際武道大学にてアスレティックトレーナー教育を行いながら、科学的知見を基にした野球現場の安全安心な体制づくりと野球選手の競技力向上から傷害予防に関わるコンディショニングの情報発信を行っている。専門はアスレティックトレーニング、コンディショニング科学。