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野球選手に走り込みはもう古い?投手にとって必要なスタミナとは

【こんな人におススメ】
 高校生~成人の走り込みをしている選手、指導者、トレーナー

野球選手にとっての走り込みの目的は何なのだろうか?

得点の構造を考えると、勝利に貢献するために打者はOPS(出塁率+長打率)を上げたい。その中でも長打に関しては、打球速度が高いほうが長打になりやすく、そのために打者はスイング速度を高めるようなトレーニングを行う。スイング速度は、筋量(除脂肪体重)と相関が高いことがわかっている。ウエイトトレーニングは、野球の技術トレーニングよりもより少ない時間とエネルギーの投資で筋量を増やすことができる。
参考:打者は体が大きい方が有利!?データで検証!

一方投手は、球質を高めることも重要であるが、できるだけ速いスピードボールを、100球前後投球できる「スタミナ」が必要となる。スタミナを鍛えるというと、まず思い浮かぶのが「走り込み」である。投手に限らず、野手の下半身を鍛えるという名目でも行われ、走り込みが万能な練習であるかのように捉えられている部分もある。

今回は、野球選手にとって「走り込み」の効果をスポーツ科学の視点から整理し、「走り込みとの付き合い方」について考えていきたい。

目次:野球選手に走り込みは必要か?
走り込みは何のためにするの?
投手にとっての「スタミナ」ってなに?
ウエイトトレーニングの効果を下げる走り込み

走り込みは何のためにするの?

投手の「スタミナ」とはどのような能力だろうか。この解釈が人によって異なり、誤解を与える部分が大きいので整理していこう。
ピッチングは1球単位でみるとハイパワーを発揮する運動である。これを、数秒から数十秒の休息を挟んで、不完全回復の状況で1イニング15球程度、これを7セット前後行うとだいたい100球となる。
したがって、ピッチングの「スタミナ」とは、マラソンのようなローパワーを連続的に発揮し続ける「連続的運動の持久力」ではなく、ハイパワーを一定の時間を挟みながら間欠的に発揮することである。つまり、「ハイパワーの持続能力」というピッチング特有の「スタミナ」(持久力)が必要となる。

「走り込み」で鍛えられるのは全身持久力

「走り込み」は、塁間を駆け抜けるようにただ走るものではない。長距離・長時間走り続けたり(長距離走型)、シャトルランやYo Yoテストのように短い距離を休みなしに走り続けること(シャトルラン型)は走り込みと言えるだろう。
走り込みに共通するのは、どれも全身持久力(ローパワー)を高めるためのトレーニングであって、野球(特にピッチング)に必要なハイパワー発揮能力を直接的に高めるものではないことである。つまり、単純に速いボールを投げるための大きなパワーはこのような長距離走型の走り込みでは身に付かないことがわかる。

そもそも野球選手に全身持久力は求められるのであろうか。図1は、投手の試合中の心拍数で、青の部分が投球中、白の部分がベンチに戻ったときのものだ。投球中の心拍数は170~190拍/分で強い運動といえるが、イニングを重ねるごとに心拍数が増えていないのが分かる。
つまり、試合中はイニングを重ねても筋肉はそれほど酸素を必要とせず、心臓をたくさん動かして血液循環の負担を増やし続けるようなものではないということである(平野、2016)。

図1 大学1年生投手の試合中における心拍数変化(Stockholm & Morris, 1969)

しかも、プロ野球選手の全身持久力はそれほど高くない。全身持久力の指標である最大酸素摂取量(1分間に体重あたりで身体に酸素を取り込める最大量)をみてみよう(表1)。

表1 野球選手の最大酸素摂取量
一般男性MLB選手NPB選手
40~45ml/kg/min41.5~52.3 ml/kg/min ※144.9 ml/kg/min ※2

引用:※1山地、1992 ※2平野、2016

一般の男性が40~45ml/kg/min程度であるのに対し、MLBの選手は41.5~52.3 ml/kg/minの範囲内であり、NPB選手の場合は44.9 ml/kg/minという報告がある。この数値を見るかぎり、野球選手の最大酸素摂取量は一般人と同じか、やや強い程度である。
したがって、全身持久力は試合中にそれほど求められていないし、一流選手であってもあまり高くない能力だといえる。

走り込みは筋力アップに貢献しない

例えば、走った距離=筋量・筋力アップの関係が成り立つのであれば、1日に20キロも30キロもの距離を走る陸上長距離選手は野球選手よりもはるかに高い筋量を有することになる。
しかし長距離選手の筋量は野球選手どころか一般人よりも少ない。したがって、長時間・長距離の走り込みで筋量が増えパワーが著しくアップするように筋肉は適応しないということだ。
ひたすら長距離を走るトレーニングをしている野球選手は、マラソン選手の様に有酸素性能力に優れ体型もスリムにはなるが、野球に最も必要な体力要素である筋力は身につかないということが言える。
参考:トレーニング期に目指すべき体重・筋量の目安とは

ウエイトトレーニングの効果を妨げる走り込み

走り込みと並行して筋力トレーニングを行う選手も多いだろう。では、この2種類のトレーニングの併用は筋力にどのような影響をもたらすのだろうか。
実は、走り込みは筋力アップの効果を抑制してしまうこともあるのだ(平野, 2016)。図2はレジスタンストレーニング(ウェイトトレーニング)と長距離走のような持久的トレーニング、及び両者を1日の中で併用したトレーニングをそれぞれ10週間継続したときの最大筋力の変化を示したものである。レジスタンストレーニングのみ行った場合(●印)は最大筋力が増加し続け、持久的トレーニングのみの場合(▲印)は筋力が向上していない。

図2 各種トレーニング 期間と筋力の関係(Hickson, 1980)

注目すべきはレジスタンストレーニング+有酸素性トレーニングの筋力の値で、両者を併用した場合では筋力向上はやがて頭打ちになり、その後低下しているのが分かる。つまりウェイトトレーニングと有酸素性トレーニングを同時に行うと筋力の伸び率が抑えられてしまうということだ。
参考:球児はいつから筋トレを始めていいの?身長発育曲線より考察

スタミナアップには「高強度の間欠的トレーニング」が有効

走り込みは、筋力アップに貢献しないだけでなく、ウエイトトレーニングの効果を妨げるトレーニングであることを述べた。
ピッチングにおけるスタミナの正体は、ハイパワーの持続能力である。この能力を向上させるには、「高強度の間欠的トレーニング」が有効である。そして、このトレーニングは、ウエイトトレーニングと併用しても筋力向上が損なわれないことが明らかになっている(Sale et al.,1990)。
「間欠的トレーニング」とは、運動の間に休息を入れて繰り返し行うトレーニングである。しかもその運動は「高強度」(心拍数が最大心拍数の80~90%)である必要がある。そして、この「高強度」は単に「キツい」を意味するものではない。次回は「高強度の間欠的トレーニング」について具体的に考えていきたい。

まとめ
投手の「スタミナ」とは「ハイパワーの持続能力」のこと
走り込みは、筋力アップに貢献しないだけでなく、ウエイトトレーニングの効果を妨げる
「ハイパワーの持続能力」向上のためには、高強度の運動の間に休息を入れて繰り返し行う「間欠的トレーニング」が有効

熊川 大介(くまがわ だいすけ)
国士舘大学体育学部 准教授。日本スケート連盟スピードスケート強化スタッフ。体力学・トレーニング科学などが専門で、「アスリートにおける骨格筋の形態的・機能的発達と競技能力の関係」が主な研究テーマ。体力測定データに基づいたアスリートのトレーニングサポートを行っている。

参考文献:
1.平野裕一, 科学する野球 ピッチング&フィールディング, ベースボールマガジン社, 2016
2.Sale et al., Interaction between concurrent strength and endurance training, J Appl Physiol. 68(1):260-70. 1990
3.山地啓司,最大酸素摂取量の科学, 杏林書院, 1992