投球理論

長持ちする投手の特徴とは?コロナ禍で浮かびあがる「投げ過ぎ」ない効果

新型コロナウイルスの感染拡大は野球界にも大きな影響を与えている。高校野球はセンバツ・夏の甲子園の中止、プロ野球は短縮のシーズン、大学野球や社会人野球の試合数も大幅に減少している。野球選手にとっては夢の舞台に立てず、競技力を高める機会が減少するなど、深刻な影響が出ていると言える。

今回は、そんなネガティブなニュースが飛び交う中、あえて試合数が減少することによって生まれる良い影響について考えていきたい。

短命に終わる投手の特徴とは

『ベースボール革命』(クレイグ・R・ライト/トム・ハウス,1993)という書籍をご存じだろうか。アメリカでの発行は1980年代であり、セイバーメトリクスの草分け的な書籍だ。この書籍の第6章『投手労働負荷の測定』では、「長持ちする投手」(ベテラン)と「短命に終わる投手」(フラッシュ)の特徴について言及している。両者を分けるポイントは一体何なのか。

その答えは「(投手としての成長期である)24歳までに投げ過ぎたか否か」であるとされている。同書ではBFS(Batters Faced Start)という指標と投球回を用いて「投げ過ぎ」を定義している。BFSとは「1試合あたりの推定対戦打者数」のことであり、この指標を用いて投手に生じた負荷とその影響について論じている。

『ベースボール革命』p. 181より著者改編

本書では、10代の投手は投球回が「200」を超えてはならない、またはBFSが28.5を超えて150投球回以上投げてはならないとしている。20-22歳の投手については、平均の投球数が105球(≒BFS換算で30)を超えてはならないとしている。また、「短命に終わる投手」(フラッシュ)の半分以上が24歳以前にBFSが31.0以上のシーズンを送っていることも記されている。大まかに言うと、「BFS28.5&150投球回」「BFS30」が負荷の基準と言えそうだ。

200勝投手の成長プロセス

『ベースボール革命』はメジャーリーグ(以下、メジャー)のデータをもとに30年近く前に書かれた書籍ではあるが、最近のプロ野球の投手成績に当てはめても整合性がある。

やや強引にはなるが、長寿の投手≒200勝投手として、200勝を達成した投手と200勝達成の可能性がある5人の投手についてみていきたい。

黒田博樹氏(広島→ドジャース→ヤンキース→広島)

高校や大学下級生時はエースではなく負荷は少なかったと推察される。プロ入り後も遅咲きで、初めてBFSが28.5&150投球回を超えたのは27歳のシーズンだった(図1)。BFSが30を超えたのは28歳のシーズン、BFSが31を超えたのは30歳のシーズン。31歳で初めて15勝に到達し、36歳のシーズン以降は7年連続で10勝以上を挙げ、200勝に到達し引退。日米通算203勝。現在最後の200勝投手。

図1 黒田博樹氏のBFSと投球回の推移
山本昌氏(中日)

23歳のシーズンから登板機会を増やし、初めてBFSが28.5を超えたのは28歳のシーズン(図2)。BFSが30を超えたのは29歳のシーズンのみ。BFSが31を超えることはなかった。41歳でノーヒットノーランを記録するなど、数々の最年長記録を樹立した。21年間中日一筋。通算219勝。

図2 山本昌氏のBFSと投球回の推移
石川雅規(ヤクルト)

現役の選手では、ヤクルト・石川雅規の171勝が最多(2020年開幕時点)。石川の負荷のかかり方も理想に近いようにみえる(図3)。BFSが30を超えたシーズンはなく、BFSが28.5を超えたのも30歳のシーズンのみだ。最後に10勝以上を挙げたのは36歳のシーズンが最後だが、石川にとって40歳のシーズンの昨シーズンも8勝を挙げている。

図3 石川雅規のBFSと投球回の推移
松坂大輔(西武→レッドソックス→インディアンス傘下→メッツ→ソフトバンク→中日→西武)

日米通算170勝の西武・松坂大輔は、19歳・21歳・25歳のシーズンでBFSが30を超えている(図4)。19歳のシーズンではBFSが30.7であり、投球回は180。21歳のシーズンでのBFSは31を超えている。28歳のシーズンを最後に10勝以上挙げたシーズンはなく、その潜在能力からは想像しがたい結果であった。投球スタイルを変えた松坂の再起に期待したい。
参考:松坂大輔はメジャー時代どんなボールを投げていたのか

図4 松坂大輔のBFSと投球回の推移
田中将大(楽天→ヤンキース)

日米通算174勝を誇るヤンキース・田中将大は、19歳のシーズンでBFSが28.5を、投球回が150を超えている(図5)。20歳のシーズンから6年連続でBFSが30を超えており、21歳のシーズンから4年連続でBFSが31を超えている。26歳のシーズンからメジャー挑戦後は、BFSが28を超えたシーズンはない。田中が「長寿の投手」となれば、新しいモデルケースとなるかもしれない。
参考:田中将大の2019年シーズンを分析!高めのストレートが増えた理由とは?

図5 田中将大のBFSと投球回の推移

未来の長寿投手誕生へ

MLBで43歳と44歳のシーズンにノーヒットノーランを達成した大投手ノーラン・ライアン氏(324勝)は、21歳のシーズンは兵役のためほとんど投げていない。新型コロナウイルスの影響で、アマチュア野球の試合数は激減している。2020年に試合数が減少したことでライアン氏のような長寿の投手が続出するかもしれない

『ベースボール革命』では、アマチュア選手に負荷がかかり過ぎることについても言及している。選手にとって野球が出来ないことや試合の機会が少ないことは短期的にはつらい思いをするかもしれないが、中長期的にみて選手寿命が延びる可能性もある。短期では、これまで160キロが計測されたことのない大学野球や社会人において、160キロを投じる投手が生まれると予測している
参考:投手必読!球速アップに向けて知っておくべき「効果的なトレーニング」と「怪我のリスク」

今シーズンが教訓となり、コロナ禍が終焉しても投手の起用法に変化が生まれることを期待したい。そして、一日も早いコロナ禍の終息を願うばかりだ。

参考図書:クレイグ・R・ライト/トム・ハウス著, 薙野正明訳(1993).ベースボール革命 : 21世紀への野球理論: ベースボール・マガジン社.

林 卓史(はやし たかふみ)

朝日大学経営学部准教授/慶應義塾大学野球部前助監督/ネクストベース社研究員。
岩国高校で甲子園出場、慶大でもエースとして活躍し、社会人野球の名門・日本生命でもプレー。慶大助監督時代は、データを活用した投手育成を実践。選手のパフォーマンス向上のために奔走し、リーグ戦連覇を果たした。助監督在任中に博士号(政策・メディア)を取得し、現在は朝日大学にて教鞭を取る。