投球理論

投手必読!球速アップに向けて知っておくべき「効果的なトレーニング」と「怪我のリスク」

前回のコラムでは、力学の基礎となる力と加速度の関係、加速度と速度の関係について説明した。また、筋には力ー速度関係という特性があり、その特性はトレーニングによって変化する。
したがって最大速度を高めるためには、動き出しの加速度を高めるための高強度低速のトレーニングと、より高い速度まで加速するための低強度高速のトレーニングの両方が重要なのだ。

近年、日米の多くの球団に設置されているトラッキングシステムにより、球速への関心が高まっている。メジャーリーグでは、球速が160キロを超えるピッチャーも多い。アメリカの「ドライブラインベースボール」という施設に代表されるように、通常と異なる重さのボールを投げるトレーニングで球速が速くなるという話が日本球界で騒がれている。
そこで今回は、力―速度関係の考え方から、球速を上げるトレーニング方法について考えていきたい。なお本記事は投球動作や技術については触れないことにご了承いただきたい。
参考:球速・打球速度をアップさせたい球児必見!スピードを高めるメカニズムとは

目次:投手必読!球速アップに向けて知っておくべき「効果的なトレーニング」と「怪我のリスク」
異なる重さのボールを投げた時の「力と速度」の関係
異なる重さのボールを用いたトレーニングの効果
肘への負担と怪我のリスク

重さの異なるボールを投げた時の「力と速度」の関係

図1に、異なる重さのボールを投げた時の力と球速の関係を示した。
力―速度関係に当てはめて考えると、軽いボールを投げた場合、球速は速くなるがボールに加えた最大の力が小さくなり、重いボールを投げた場合、球速は遅くなるがボールに加えた最大の力が大きくなる(Tillar and Ettema, 2004)。

図1 異なる重さのボールを投げた時の力と球速の関係

つまり重いボールで投げると力発揮を高めるトレーニングとなり、軽いボールで投げると筋の収縮速度を高めるトレーニングになる、と考えることができそうだ。例えば疾走速度を高めるためにスレッド牽引走をしたり(高強度トレーニング)、下り坂ダッシュをしたり(高速度トレーニング)することと同様である。

異なる重さのボールを用いたトレーニングの効果

このトレーニングの効果に関しては1960年代から検証されてきたが、トレーニング方法の進歩とともに1990年代から多く研究がされるようになった。
ある研究グループは、通常のボールより約20%重い、もしくは軽いボール(通常の約150gに対して約120gと約180g)を数球~十数球全力で投げることによって、球速が向上したという例をいくつか報告している (DeRenne and Szymanski, 2009)。
※ソフトボールの3号球はおよそ190g、硬式球はおよそ140-150g、小学生用の軟式球であるJ号球はおよそ130g

それ以上重いボールのトレーニング効果に関しては、まだまだ不明な点が多い。
例えば、Reinoldら(2018)の研究では、13歳から18歳までの38名を通常ボール群19名と介入群19名に分け、6週間(全力投球は4週間)、週3回の投球トレーニングを行った。約50gから約900gまでのボールをいくつかの投げ方でそれぞれ2-3球投げた。
その結果、平均で3.6 km/hの向上(通常ボールのみで投げた群は1.1 km/hの向上)であった。一方でドライブラインベースボールで行われた、18歳から23歳を対象とした実験では、100gから2000gまでのボールを用いた6週間のトレーニングを実施したが、球速が向上しなかったと報告している(Marsh et al., 2018)。

なぜ球速が上がるのか?

多くの研究結果からもわかるように、少し重い、もしくは軽いボールを投げると球速は上がるようだ。重いボールではボールに大きな力を与えることができるし、軽いボールでは腕の振りを速くすることができる。これはまさに、力―速度関係を考慮したトレーニングだと言えそうだ。
しかしながら、投球動作は非常に多くの筋の協調運動によって指先の速度を高めているため、実際にそれぞれ筋の特性が変化したかどうかは不明である。筋の特性よりも、大きな力を出すタイミングや、速筋線維を積極的に動員するというような神経的な適応が起こっていると考えられている(Tillaar 2004)。
参考:重いバットで素振りをするとスイング速度は低下!?データで検証

肘への負担と怪我のリスク

ただしReinoldらの実験では、トレーニング群19名のうち2名が投球腕以外の故障で、2名が肘を故障し離脱した。またその後のシーズンで残り15名のうち2名が肘を故障した。つまりこの実験で17名中4名(24%)が投球腕を故障したのである。
ピッチングの場合は、バッティングやスプリントと比較するとはるかに末端の速度が高く、肘への負担が大きくなってくる。特に肘関節内反トルク(肘の内側にある靭帯のストレス)が大きくなり、怪我のリスクが高まる。
通常のボールと重いボールを投げた際の肘関節内反トルクは、高校生・大学生では変化がないという報告(Fleisig et al., 2017)や、9-14歳ではボールが重くなるにつれて大きくなったという報告がある(Okoroha et al.2019)。このことから経験年数などによる技術的な面も怪我のしやすさが大きく関与してきそうだ

球速が高まれば、怪我のリスクも高まる

実は、通常のボールでも、球速の上昇と共に肘関節内反トルクも大きくなることが明らかになっている。Reinoldらの研究でもトレーニング群は球速がアップしたが、肘内反トルクも8.4%大きくなっており短期間で靭帯への負担が急激に大きくなる影響が懸念される
また、当然通常と重さの違うボールを投げることにより、多少なりとも動作(もしくは筋出力パターン)が異なってくるだろう。実験で多く用いられている軽いボールは軟式球より軽く、重いボールはソフトボール程度である。
一般的に、ピッチャーは硬球以外の球をなげると「肩が抜けそう」になったり、指の感覚が変に感じたりすることがあるだろう。

リスクを考慮した上でのトレーニングを

通常より約20%重い、または軽いボールを投げることにより球速がアップする事例が多く報告されていることは確かだ。ボールに加わる力、ボールの速度が変わることは、力―速度関係で考えると合理的なトレーニングに思えるかもしれないが、メカニズムはまだ明らかになっていない。したがって最適な重量、トレーニング頻度、プログラムデザインについても不明な点が多い。
重いボールを投げることによる怪我の影響についてもまだわかっていないが、球速がアップすることにより肘への負担が大きくなることは明らかである。どのようなトレーニングを行うにせよ、球速がアップした際には身体への負担に注意を払わなければならない。

山下 大地(やました だいち)

国立スポーツ科学センタースポーツ科学部研究員、日本トレーニング科学会理事。認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト(CSCS)の資格を保持。高校時代は代走要因。神戸大学卒業後、京都大学大学院にて博士(人間・環境学)を取得。現在は格闘技選手に必要な体力に関する研究や、アスリート全般のジャンプ高を向上させるためのトレーニングに関する研究を行っている。

引用文献
DeRenne C., and Szymanski D. J. (2009) Effects of baseball weighted implement training: A brief review. Strength and Conditioning Journal 31(2): 30-37.
Marsh, J. A., Wagshol, M. I., Boddy, K. J., O’Connell, M. E. Briend, S. J. Lindley, K. E. Caravan, A. (2018) Effects of a six-week weighted-implement throwing program on baseball pitching velocity, kinematics, arm stress, and arm range of motion. PeerJ 6:e6003.
Fleisig G. S., Diffendaffer A. Z., Aune K. T., Ivey B., Laughlin W. A. (2017) Biomechanical Analysis of Weighted-Ball Exercises for Baseball Pitchers. Sports Health 9(3): 210-215.
Okoroha Kelechi R., Meldau Jason E., Jildeh Toufic R., Stephens Jeffrey P., Moutzouros Vasilios, Makhni Eric C., (2019) Impact of ball weight on medial elbow torque in youth baseball pitchers. Journal of Shoulder and Elbow Surgery 28(8): 1484-1489.
Reinold M. M., Macrina L. C., Fleisig G. S., Aune K., and Andrews, J. R. (2018) Effect of a 6-week weighted baseball throwing program on pitch velocity, pitching arm biomechanics, passive range of motion, and injury rates. Sports Health 10(4): 327–333.
Van Den Tillaar Roland. (2004) Effect of different training programs on the velocity of overarm throwing: A brief review. Journal of Strength and Conditioning Research 18(2): 388-396.
Van Den Tillaar Roland, and Ettema Gertjan. (2004) A force-velocity relationship and coordination patterns in overarm throwing. Journal of Sports Science and Medicine 3: 211-219.