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球速・打球速度をアップさせたい球児必見!スピードを高めるメカニズムとは

野球選手なら誰もが「速い球を投げたい」「速い打球を打ちたい」「速く走りたい」と思ったことがあるだろう。そしてそのために多大な時間を割いてトレーニングに励むだろう。

また最近ではトレーニングの情報も入手しやすくなり、どのトレーニングを実施するか迷っている人もいるだろう。
そこで今回は、トレーニングをする上で知っておくべき基本的な筋の特性について紹介する。過去記事でも筋量が多い選手はバットスイング速度が高いという結果を紹介したが、ウェイトトレーニングを行って筋力アップを図る選手も多い。
参考:打者は体が大きい方が有利!?データで検証!
では力と速度にはどのような関連があるのだろうか?今回は、力と速度の関係について説明していく。

球速・打球速度をアップさせたい球児必見!スピードを高めるメカニズムとは
「速度」はどのように高めるのか?
「力の大きさ」と「収縮速度」の関係
高速かつ爆発的な力発揮が重要

「速度」はどのように高めるのか?

まず、物体の移動に必要な、速度加速度という用語について説明する。
速度とは単位時間あたりの物体の位置の変化量であり、移動距離を時間で割ったものである。例えば10 mを2秒で走った場合、その人の(平均)速度は5 m/sとなる(図1上)。
また、加速度とは、単位時間あたりの物体の速度の変化量であり、速度を時間で割ったものである。例えばスタートから1秒後に4 m/sで走り、2秒後に6 m/sになった場合、加速度はそれぞれ4 m/s²、2 m/s²となる(図1下)。つまり走る速度を高めるためには、加速する能力が大前提である。

図1 速度と加速度の説明

物体を移動させるものの正体は、力(Force)で、単位はN(ニュートン)だ。ニュートンの運動方程式(第二法則)という名前を聞いたことがある人も少なくないはずだ。この、F = ma(力 = 質量×加速度)の法則から言えることは、ある物体に力を加えると加速度が生じるということである。
ボールやバットの質量は変化しないので、それらに大きな力を加えると、その力の大きさに比例して加速度も大きくなる。つまり大きな力を長時間加え、加速度を与え続けることができれば、その物体の速度はどんどん大きくなる

速度が大きくなるにつれて、力を加えることが難しくなる

しかしながら、実際にはそう簡単にはいかない。なぜなら、物体の速度が大きくなるにつれて、力を加えることが難しくなるからだ。自転車を漕いでいる様子を想像してほしい。漕ぎ初めは速度が小さく、ペダルに大きな力を加えることができるが、速度が大きくなると、必死にペダルを回しても大きな力を加えることができない。下り坂の場合はわかりやすいが、ペダルの回転速度に足がついていかず空回りすることもある。

筋の力―速度関係

筋が発揮できる力と筋が収縮する速度の関係は図2のような曲線になる。これを力―速度関係という。この図は低い収縮速度では大きな力を発揮することができるが、高い収縮速度では大きな力を発揮できないことを示している。

図2 基本的な「力×速度関係」の図

このような筋の特性は、競技特性や個人によっても異なることが古くから知られている(川初と猪飼, 1972)。
また、この特性はトレーニングによっても変化し、低強度で速度重視のトレーニングを行うと最大速度(図3青線)が増加し、低速で筋力重視のトレーニングと行うと最大筋力が増加する(図3赤線)(金子ら, 1981)。

図3 トレーニングによる変化の概念図

そう考えると、速い球を投げたい、速い打球を打ちたい、速く走りたい選手は、低強度高速トレーニングだけを実施していたらいいと考えるかもしれない。しかしながら、野球における重要な動作は、ほとんどが静止状態から限られた時間で速度を最大限に高める必要があり、動き出しの加速、つまり低速で大きな力を発揮する能力が欠かせない。

また、末端(手先や足先)は最終的に超高速で動かす必要があるかもしれないが、脚や体幹の動きは大きくない。つまり低速で大きな力発揮が求められる。一連のトレーニングに関する総説でも、低速・高強度トレーニングと高速・低強度トレーニングを組み合わせた複合的なトレーニングによって、力―速度曲線全体をバランスよく向上させること重要だといわれている(Haff, 2012)。

参考:野球選手に走り込みはもう古い?投手にとって必要なスタミナとは

高速かつ爆発的な力発揮が重要

力と速度の関係をわかっていただけただろうか?力は物体に加速度を生み出し、加速度は速度を生み出す。そして筋には力―速度関係という特性があり、速度が大きくなるにつれ、与えることができる力は小さくなる。その特性を最大限に活かすため、低速・高強度のトレーニングから高速・低強度のトレーニングを組み合わせることが重要なのだ。ただし、スピードを高めるためのトレーニングは、ただ単に軽い負荷で実施したらいいということではないことに注意していただきたい。あくまでも、高速で爆発的に行うことが重要なのである。

また、投球や打撃の速度は非常に複雑な関節運動を伴い、さらに繊細な技術が求められる。オフシーズンあるいはシーズン中にかけて、トレーニングのバリエーションや技術練習の時間を綿密に計画して欲しい。

プロフィール

山下 大地(やました だいち)
国立スポーツ科学センタースポーツ科学部研究員、日本トレーニング科学会理事。認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト(CSCS)の資格を保持。高校時代は代走要因。神戸大学卒業後、京都大学大学院にて博士(人間・環境学)を取得。現在は格闘技選手に必要な体力に関する研究や、アスリート全般のジャンプ高を向上させるためのトレーニングに関する研究を行っている。

引用文献
・川初 清典, 猪飼 道夫 (1972) ヒトの脚パワーと力・速度要因 (II) : 力・スピード・パワーにおける個人特性について 体育学研究 17(1) 17-24
・Haff, G. Gregory, and Sophia Nimphius. (2012) Training principles for power. Strength & Conditioning Journal 34(6): 2-12.
・金子公宥,渕本隆文,田路秀樹,末井健作 (1981) 人体筋の力・速度・パワー関係に及ぼすトレーニング効果 体力科学 30(2) 86-93.