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【野球選手の救急対応③】ボールが身体に当たった時の対応〜目・鼻の場合〜

日本スポーツ振興センターが取りまとめている野球現場における高度障害事故を整理してみると、そのほとんどが顔面外傷であり、具体的にはボールやバット、グランド整備用のトンボなどが顔面に当たることで生じている。
なお、平成29年度では高度障害事故の約80%が顔面で生じていることを考えると、野球現場では顔面によるケガに対するファーストエイド対応ができるようにしておくことが望ましいことになる1)。

そこで、今回は顔面にボールなどが当たったことで生じる顔面外傷に対するファーストエイドについて紹介する。
参考:【野球選手の救急対応②】ボールが身体に当たった時の対応〜胸の場合〜

野球現場における顔面外傷の特徴

障害事例が50%を占める眼周囲

野球現場における顔面外傷の部位としては眼周囲、口周囲、鼻周囲に分けられ、13年間での高度障害事例をまとめると、視力・眼球障害など眼周囲が約50%を占める1)。
眼周囲にボールが当たったことによる外傷での症状としては「まぶたが腫れる」や「目が充血する」ことが多いが、野球ボールのような硬いボールが接触すると衝撃が強いため、重症度も高くなる。

特に野球ボールは眼よりも大きいため、眼窩(がんか)骨折や網膜剥離といった症状を起こす可能性があり、眼窩骨折はその他の部位での骨折と同様に「気持ち悪い」や「吐き気がする」と言った症状を訴える。
また、網膜剥離では強い痛みを訴える事は少ないが、「目の前に糸くずのようなものが飛んでいる」、「目の前がぼやけて見える」、「一部分しか見えない」などの見え方に異常を訴えることが多い。

眼周囲外傷の病態と主な症状

■眼よりも小さい物が眼に当たった場合
 強い痛みを訴える → 角膜損傷を疑う  

■眼よりも大きい物が当たった場合
 気持ち悪い・嘔吐 → 眼窩底骨折を疑う 
 見え方に異常   → 網膜剥離を疑う  

顔面骨折の中でも最も多い鼻骨骨折

鼻周囲では、鼻骨骨折が代表的であり、顔面骨骨折の中でも最も多い骨折である。なお、鼻骨は薄い骨なため、イレギュラーバウンドしたボールがぶつかるなど、比較的弱い力でも折れてしまうことがある。
急性期の症状としては鼻出血が頻発して起こり、折れた部分を指で押すと強い痛みを感じることが多く、折れた直後は鼻が変形したり、凹んだりするなど目で見てわかりやすいが、しばらくすると腫れが生じるため、変形がわかりにくくなる(図1)。

図1 鼻骨骨折の特徴

なお、いずれの主な受傷機転はボールが接触することによって生じることが多い。

過去の報告からみる野球における主な顔面外傷場面

■自打球が眼・口・鼻に当たる
■バントミスの打球が眼・口・鼻に当たる
■打球が誰かの眼・口・鼻に当たる
■守備練習中の打球が眼・口・鼻に当たる
■イレギュラーバウンドボールが眼・口・鼻に当たる
■投げたボールが眼・口・鼻に当たる

眼周囲に対するファーストエイド

眼周囲にボール等がぶつかった場合には、選手自身も驚いてしまうので、まずは落ち着かせなければならない(図2)。なぜならば、落ち着いてある程度の受け答えができる状況でないと、的確に症状を確認することができないからである。
次にぶつかった眼周囲の部分を観察し、変形およびまぶたなどに切り傷がないかをチェックし、もし出血がある場合には止血する。出血がなくあるいは出血が止まった後に、目の前の見え方や気持ち悪さなどの症状を聞き出し、さらに眼に問題がないかをチェックするために眼球運動の良し悪しを確認する。
眼球運動の確認の仕方は目の前に指を出して本数を数えてもらったり、指を目で追ってもらったり、ぼやけていないかを確認して眼に異常がないかをチェックする。

以上のチェックの中で異常がある場合には速やかに医療機関(眼科)を受診させる。なお、眼周囲の外傷を受けた場合は、受傷時点から時間経過と共に症状が変化することがあるので、定期的にこれらのチェックを繰り返す

図2 眼の外傷が起きた場合のアルゴリズム

最後に眼周囲にボールが当たるということは打撲が起きていることになるため、患部の痛みや腫れといった炎症症状が生じる。これらを緩和させるためには氷のうやアイスパックで患部を広く覆うようにアイシングを実施する。ただし、眼の部分を強く圧迫してしまうことは眼球への負担を増大させてしまうので、添える程度に留めておくことが望ましい。

鼻周囲に対するファーストエイド

鼻周囲への外傷によって最も疑わなくてはならにないのは、先述したように鼻骨骨折である。鼻骨骨折の大半は「くの字」のような変形が伴うが、時間が経過すると腫れにより変形がわからなくなるため、受傷直後にすみやかに患部の観察をし、変化の有無を確認する(図3)。

また、多くの場合は鼻血を伴うため、止血をするが、応急手当方法の1つである鼻の根本を押さえることは、患部の痛みを有することがある。したがって、止血と腫れの軽減を兼ねてアイシングをすることが望ましい。ただし、アイシングするためのアイスパックを患部に押しつけてしまうと強い痛みを訴えることがあるので、可能な範囲での冷却を行うことと、出血が鼻や口にたまらないよう下をむいて行う

図3 鼻周囲外傷が起きた場合のアルゴリズム

最後に、鼻骨骨折は生命の危険を有することはないため、速やかに医療機関を受診する必要性は高くはないが、受傷してから1週間以上経過すると整復が難しくなってしまうことがある。したがって、鼻の変形が認められる場合には、出来る限りすみやかに医療機関を受診することが必要である。

「いざという時」に迅速な対応をするために

道具を扱う野球においては、ボールが接触することによる外傷が生じやすく、特に顔面外傷が最も多くなる。さらに顔面外傷の中でも眼周囲、口周囲、鼻周囲に分けられ、本文に示したように、それぞれの症状やチェックポイントが異なることを考えると、いざという時のチェック方法やファーストエイド方法について知っておく必要がある。
全体練習が終わった後の自主練習で選手だけになった場合でのケガのリスクを考えると、いざという時にどのような対応をすべきかを共有する方法を用意しておくことも現場の安全管理の観点から必要である。

1) 笠原政志:野球現場における救急対応の必要性、ベースボールクリニック(5)70−71、2019.
2) 喜屋武健ら:スポーツ事故に起因した外傷歯の臨床的検討、日本口腔科学会雑誌58(3)、120−126、2009.

笠原 政志(かさはら まさし)

国際武道大学体育学部/大学院武道・スポーツ研究科教授、学術博士(体育学)、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー。現在は国際武道大学にてアスレティックトレーナー教育を行いながら、科学的知見を基にした野球現場の安全安心な体制づくりと野球選手の競技力向上から傷害予防に関わるコンディショニングの情報発信を行っている。専門はアスレティックトレーニング、コンディショニング科学。