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走り込みで投手のスタミナは鍛えられない!スポーツ科学から見た真の効果とは?

【こんな人におススメ】
高校生以上の走り込みをしている選手、指導者、トレーナー

野球選手にとって走り込みは万能な練習だと思っている人は少なくないだろう。しかしながら、野球で「走り込み」と呼ばれる長距離走トレーニングは、全身持久力を向上させるものの、筋力トレーニングの効果を抑制することは、前回のコラムで述べた。また、ピッチングにおけるスタミナの正体は、ハイパワーの持続能力で、この能力を向上させるには、「高強度の間欠的トレーニング」が必要なのだ。
ここでいう間欠的トレーニングとは、高強度の運動の間に休息を入れて繰り返し行うトレーニングのことだ。例えば、200m走(90%max)×6~8本(インターバル3分)などがそれにあたる(1)。参考:野球選手にとって走り込みは必要なのか?投手にとってのスタミナとは

一方で、走り込みが悪かといえば必ずしもそうではない。今回は、高強度トレーニングをするために効果的な「走り込み」について考えていきたい。

目次:走り込みで投手のスタミナは鍛えられない!
トレーニング組み立ての基本は「強度」と「量」
高強度の走り込みは長く続けられないし、続けても意味がない
「走り込み」の真の効果とは?

トレーニング組み立ての基本は「強度」と「量」

人の筋肉には速筋繊維や遅筋繊維と呼ばれるタイプの異なる筋繊維が混在している。野球の投動作、打動作、走動作のように短時間で強いパワー発揮を要する動きでは速筋繊維の収縮力が求められる。
さらに、それを強化するためには限りなく強い力を筋肉に発揮させるような「高強度のトレーニング刺激」を加える必要がある。間欠的な走り込みを行う場合は、いかに強い刺激を筋肉に入れられるかを考えて強度(走る速さ)と量(時間や距離)、休息時間の配分を決めることが重要である。

・速筋:大きな力を発揮するが、持久性が低い。例)垂直飛びなど瞬間的なパワー発揮
・遅筋:大きな力は発揮できないが、持久性が高い。例)ランニングなど持続的な力発揮

高強度の走り込みは長く続けられないし、続けても意味がない

人が体を動かすときのエネルギーは、有酸素エネルギーと無酸素エネルギーでまかなわれているが、このエネルギー出力特性から考えると運動の強度と量を同時に高めることは不可能で、どちらかを増やせばどちらかは低下するという関係にある(表1)。
走る量を増やせば走る速度は確実に低下し、酸素を主なエネルギー源として筋肉を動かすいわゆる有酸素トレーニングの要素が強くなってしまう

表1 有酸素運動と無酸素運動の違い
項目有酸素運動無酸素運動
量(時間や距離)多い少ない
強度低い高い
主なエネルギー源酸素
導員される筋繊維遅筋速筋

また、短時間・高強度の走り込みを行ったとしても、それを何セットも続けると疲れてだんだん走る速度が低下する。この場合も一緒で、十分な回復時間をとらない状態で運動を続けると、走るために必要なエネルギー供給はより有酸素系に依存することになるので、やはり有酸素トレーニングの要素が強くなる

疲労で速度が低下すると筋内が酸性に傾くことになり、酸素の代謝に優れた遅筋繊維に比べて、糖をたくさん使って強い収縮が可能な速筋繊維の張力や収縮速度が下がり、結果として強いパワーが出せなくなる(図1)。

図1 筋肉の酸化による影響。疲労により筋肉中の酸素が多くなると、筋の収縮速度や張力が低下する(参考文献2より引用)

走り込みの間接的な効果とは?

一方で、低強度・長時間の走り込みを全面的に否定するわけではない。一般的にこのようなトレーニングは「全身持久性トレーニング」と呼ばれ、低いパワーを長く出し続けられるような有酸素性能力を高める直接的な効果と、間欠的運動が行われた場合はセット間の休息期に筋肉を強く収縮させるためのエネルギー物質をたくさん回復させて、次のセットで発揮されるパワーをより高める、といった間接的な効果がある。

図2は、5秒間の全力運動を一定の休息時間(10秒、20秒、40秒)をはさんで20セット反復した際の各セットの発揮パワーと、有酸素性能力の指標である最大酸素摂取量との相関係数を示したものである(3)。いずれの休息時間条件ともに、相関係数は運動回数の増加に伴って急激に高くなり2~3セット目以降で有意水準を超えているのが分かる。両者の関係が強くなるということだ。

※最大酸素摂取量:体重1kgあたりの1分間に取り込むことが出来る酸素の量

図2 間欠的運動を行った際の各セット毎の発揮パワーと有酸素性能力の相関関係(山本と金久, 1990)

※相関係数が図中の点線を超えると、有酸素性能力と休息後の発揮パワーに関係性がある

つまり、全力走を複数セット行う場合、有酸素性能力が優れている選手は高水準のパワー発揮を維持する能力が高く、より高強度の刺激を筋肉に与え続けることが可能になると考えられる。これらのことから、低強度・長時間の走り込みによる有酸素能力の向上は、直接的に投動作・打動作の最大発揮パワーを高めるような効果は見込めないものの、高強度トレーニングを充実させる、質を高めるためには重要な役割を担っている。

図3 投手に必要な体力とトレーニング

高強度のトレーニングに耐えうるために、走り込みをする

走りこみはあくまで基礎体力を高めるためのトレーニング手段であって「走り込み⇒競技力が上がる」というように直結的にイメージするものではない。基礎体力が高まることで目的とするトレーニング課題をやり遂げることができるようになったり、今までできなかった高いレベルでの動きが可能になっていく。そしてまた新しい運動刺激が身体に加わることで、新しい身体の適応が起こる。
このように競技能力の向上は、たくさんの身体の適応が積み重なって達成されるものだ。従って、基礎体力向上の手段として野球選手が「走る」ことを選ぶのは決して間違いではない。

質の高いトレーニングをするために

まずはトレーニング計画の立て方を考えるべきである。目標にむけて、日々のトレーニングの積み重ねを構造的にとらえ、それらを配列し、どの時期に、どの体力要素を高めるのかを計画する。
最終的に投動作・打動作の発揮パワーを高めるのであれば、第一段階としては十分な有酸素性能力を身につける時期を配置し、その後に高強度なトレーニング刺激と回復過程をバランスよく配列することが必要になると考えるべきであろう。豊富な有酸素エネルギーに支えられて、はじめて質の高い高強度トレーニングができるからだ。
参考:球児はいつから筋トレを始めていいの?身長発育曲線より考察

まとめ
野球では、短時間で強いパワー発揮を要する動きが重要
十分な回復をしない状態で高強度の運動を続けると、強度は保つことはできない
走り込みは、高強度のトレーニングを充実させる効果がある

参考文献:
1. 中垣征一郎,野球における体力トレーニングの基礎理論,ベースボール・マガジン社,2018
2. 福永哲夫, 筋の科学辞典 -構造・機能・運動-,朝倉書店,2003
3. 山本正嘉, 金久博昭,間欠的な全力運動の持久性に関する研究-無酸素性および有酸素性作業能力との関係-, Jpn. J. Sports Sci. 9, 526-530, 1990
4. Sale et al., Interaction between concurrent strength and endurance training, J Appl Physiol. 68(1):260-70. 1990

熊川 大介(くまがわ だいすけ)
国士舘大学体育学部 准教授。日本スケート連盟スピードスケート強化スタッフ。体力学・トレーニング科学などが専門で、「アスリートにおける骨格筋の形態的・機能的発達と競技能力の関係」が主な研究テーマ。体力測定データに基づいたアスリートのトレーニングサポートを行っている。