投球理論

兄弟がいる子どもは野球がうまくなる!?環境要因を考察

動物は走ったり跳んだりすることができるが、狙ったところにボールを投げたり、投げられたボールをバットで打って楽しむのは人間だけだ。すなわち、学術的にも投球や打撃動作は、走・跳動作よりも後天的に習得が可能と考えられている。
言い換えれば、家族や生まれ育った地域などの環境要因が投げる・打つ動作の巧みさに影響しやすいということである(表1)。そこで今回は野球競技能力に影響する環境要因について解説をする。
参考:子どもの運動能力は遺伝?それとも環境?

表1 野球競技力に影響を与える環境要因
兄弟がいる子どもは野球がうまくなる!?
兄弟がいる子どもはボール投げが得意
野球少年・少女の親は元野球選手
野球遊びができる場所は減少傾向

兄弟がいる子どもはボール投げが得意

赤ちゃんは生後4カ月くらいから物をつかみ投げる(離す)ことができる。その後、6歳くらいまでに大人に近い投球動作に発達が可能である。ただし、それはボール投げを日常的に繰り返して行っていた場合であり、投球動作の発達は個人差や性差が大きい。

ボール投げ遊びの定番であったキャッチボール。著者は研究で長年子どもの投球能力発達について研究を行ってきたが、最近ではキャッチボールをやったことがない子どもの割合が多くなってきた印象がある。一方、兄弟がいる子どもは性別を問わず、キャッチボール遊びをしている場合が多い

小学生野球選手を対象に兄弟構成を調査したところ、地域の選抜チームに選ばれた選手は、一般選手よりも兄や弟がいる割合が高かった(図1)。家庭内にボール投げ遊びをする相手がいることが野球競技力に影響するということである。

図1 小学生野球選手の兄弟姉妹構成 ~選抜チーム選手と一般選手の比較~

※選抜選手227名、一般選手948名を対象に調査

野球少年・少女の親は元野球選手

兄弟構成と同様に影響が大きいのが両親である。野球普及イベントに参加した親子に「父親または母親の野球・ソフトボール経験率(部活動などの定期的な経験)」を調査した。

少年団に入団していない子どもの親では40%以下であったのに対して、少年団などの野球チームに所属している小学生では約70%と高い値であった。「野球選手の子は野球選手」である。

一般選手のチーム加入時期(競技開始年齢)は平均8.3歳、小学1年生以下で野球を開始した選手の割合は44%である。小学生の地域選抜チームに選ばれた選手は、競技開始年齢が平均7.7歳、小学1年生以下で野球を開始した選手の割合は59%であり、一般小学生野球選手よりも野球を早期に開始している。

小学6年生以降に野球を始めた晩期開始選手と小学2年生以下のときから野球をやっている早期開始選手を対象に1年間の投球スピード変化量を調査したところ、初期値に有意な差があったが、変化量や変化率には有意な差が示されなかった(図2)。

図2 投球スピードの発達

※早期開始選手21名、晩期開始選手20名、未経験者20名を対象に調査

中学生期であれば、いつ始めたかに関わらず野球競技力は向上するが、体力・技術的にも伸びしろが十分にあるため、早く野球を始めた選手と中学から野球を始めた選手の差が埋まらないというのが現実ではないかと思う。
参考:早生まれ野球少年のドロップアウトはなぜ起こるのか?

野球遊びができる場所は減少傾向

プロ野球チームの数は国内に12球団ある。チームがある地域ではプロ野球に触れる機会も多くなる。同様に、高校野球が盛んで甲子園大会で優勝を争うことが多い都道府県では、子どもたちも「お兄さんたちのように」といって野球遊びをする機会も多くなる。

地域によって違いはあるが、危険な遊びとしてボールやバットの使用が禁止されているところが昔よりも多くなった印象がある。特に、バットの使用は厳禁のところがほとんどである。
一方、東京都千代田区、世田谷区のように条例などを設けて、子どもたちの遊び場を確保しようとする自治体もある。今後、このような政策の有無が運動能力、特に投球、打撃能力の地域間差に繋がることが予想される。

子どもにどのような環境を与えるか

「子どもは親を選べない」と言われることがある。遺伝要因だけでなく、親や兄弟構成などの家族、住む地域などの環境要因も、子ども本人は選ぶことができない。だからこそ大事なことは、子どもが置かれた状況(有利・不利)および家族や地域の影響を理解することである。
その上で、野球を始める、続ける、種目転向することに対する具体的な戦略を立てることも一つの手段ではないだろうか。

勝亦陽一(かつまたよういち)
東京農業大学応用生物科学部 准教授。野球の能力に影響する環境要因・生まれ月・競技開始年齢・兄弟構成・練習頻度、などの調査研究等を行っている。中・高校生向けのトレーニング指導や講演(「考えてバッティングをするための科学的アプローチ」等)も多数行っている。
【勝亦氏のプロフィールはこちら】http://yo1walker.wixsite.com/katsumata-yoichi
【勝亦氏のTwitterはこちら】https://twitter.com/Katsumata_Yo