メジャーリーガーの平均的なボールって?

なぜ平均値を知ると良いのか
今回は「平均値」がテーマです。
平均という言葉そのものは良く耳にすると思います。
平均値とはデータの真ん中を示す基本統計量のことをいいます。学校で行われているテストを例に説明していきましょう。
国語のテストで60点を取ったとします。この点数だけでは、良かったのか悪かったのかを知ることはできません。平均点が40点であれば好成績となります。一方で、平均点が80点のテストであれば、あまり良い成績とは言えません。このように平均値を知ることで、全体の中での比較ができるようになり、優劣をつけることができるようになります。
さて、この平均値ですが、野球においても非常に重要です。
例えば、田中投手のスプリットはMLB平均よりも5km/h高速だ!や、ダルビッシュ投手のスライダーはMLB平均よりも3倍以上も曲がっている!のように、MLB全体の平均を知ることで、初めて各個人の特徴が浮き彫りになります。
このように、全体の真ん中の値を知ることは、選手にとっても指導者にとっても観戦者にとっても非常に重要なのです。
そこで今回は、「メジャーリーガーの平均値を探る」と題して、MLB2017年に投球されていた平均的なボールの特徴を紹介したいと思います。
MLB2017年各球種の投球割合
まずは、MLBの2017年全投球約71万球を、球種別に分類しました【図1】。

投球割合は、4シームが最も多く、全投球の36%でした。その後2シーム、スライダーと続いていきますが、以前のコラムで紹介した先発投手と救援投手の持ち球についても、これら3球種は先発投手、救援投手共に70%以上の投手が持ち球としている球種でした。
参考:「先発タイプ」ってなに?持ち球からその適性を考える。
また、チェンジアップは、先発投手の90%の投手が持ち球としている球種でしたが、全体の投球割合では10%に留まり、個人個人での投球割合も高くないことが推察されます。
田中将大投手はじめ日本でも多くの投手が投球しているスプリット(フォーク含む)は、MLB全体では2%しか投球されておらず、スプリット自体が非常に希少価値の高いボールでした。先日移籍が決定した日本ハム大谷投手やオリックス平野投手も、このスプリットを得意としているため、大きな武器となるかもしれません。
MLB2017年各球種の平均球速
続いて各球種の平均球速を見ていきます。
4シームは150km/hと非常に高速でした。
MLBでは年々高速化が進んでいるともいわれており、今後も4シームの球速は高まっていくかもしれません。
また、変化球の球速にも注目です。
変化球に関しては4シームの球速に対して何%の球速で投球するかが非常に重要です。同じ140km/hのスライダーでも、4シームが150km/hの投手と160km/hの投手では、打者の感じ方は大きく変わります。
まだ馴染みのない見方かもしれませんが、このような球速の表現にも注目してみてはいかがでしょうか【表1】。
球種 | 球速 (km/h) | 球速 (%) |
---|---|---|
4シーム | 150 | 100 |
2シーム | 148 | 99 |
スライダー | 136 | 91 |
カーブ | 126 | 84 |
チェンジアップ | 135 | 90 |
カットボール | 142 | 95 |
スプリット | 136 | 91 |
MLB2017年各球種のスピンレートとボール変化量
続いてスピンレートと変化量をみていきます。
スピンレートは、ボールの回転速度を示しており、トラックマンが普及以降最も注目を集めた指標です。しかし、以前のコラムでも紹介したように、スピンレートだけではボールの質を評価することができません。そこでBaseball Geeksでは、ボールの質を直接評価するボールの変化量を中心に分析しています。
参考:【トラックマンデータ】注目の新指標!SPVの効果とその弱点
ボール変化量の考え方は、やや難解なものとなっていますので、馴染みのない方は併せて以下の記事をご参照ください。スピンレートが変化を生み出す「原因」で、ボール変化量は現象として現れた「結果」のような解釈が簡単かもしれません。
参考:メジャーリーグで投球される球質の特徴
さて、では実際にMLB2017年の各球種のボール変化量を見てみます【表2】。
球種 | スピンレート (rpm) | 縦変化 (cm) | 横変化 (cm) |
---|---|---|---|
4シーム | 2255 | 43 | 22 |
2シーム | 2150 | 28 | 37 |
スライダー | 2362 | 9 | -12 |
カーブ | 2489 | -19 | -22 |
チェンジアップ | 1770 | 23 | 33 |
カットボール | 2333 | 24 | -4 |
スプリット | 1513 | 17 | 30 |
※球場毎の誤差を独自の指標で変換しています。
表をみると、4シームの平均値は縦変化43cm、横変化22cmとなっています。
つまり、MLBの平均的な4シームは、回転の影響を全く受けなかったボール(上記リンクに詳細)よりも、22cmシュートして43cmホップするように変化していることになります。
このようにボールを具体的な数値で表せるのがボール変化量の特徴なのです。
大谷翔平投手はどんなボールを投げていて、どれだけの成績を残すのか
ついに日本ハム大谷選手が、ポスティングシステムを利用してエンゼルスに移籍する事が決定しました。
来シーズンは、今シーズン以上に日本人メジャーリーガーの活躍に注目が集まるでしょう。
日本では、取得されたトラッキングデータは一般に公開されていません。そのため、大谷選手はどんなボールを投球しているのかはまだわかりません。
早くも加熱し始めた「大谷フィーバー」ですが、シーズンが始まりデータが取得できるようになると、Geekたちの中で更に議論が白熱するでしょう。
大谷選手はどんなボールを投球するのか、どんな成績を残すのか、そんな議論が今から楽しみでなりません。
野球はデータの普及によって次々と進化を遂げています。データを活用した議論や、新しい楽しみ方をするファンも続々と増えてきています。
新時代の野球人たちが、このBaseball Geeksを辞書や教科書として愛読してくれたならば幸いです。
参考:野球データ分析における新時代の幕開け
- 大谷翔平メジャー初登板のデータは下記リンクへ!