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打者・大谷翔平 2年目の進化【後編】~対左腕の鍵は「スイングを変えない」こと~



目次
外角低めと対左腕に課題あり!
メジャー屈指の打球速度!速球への強さが強打者の証
新時代のデータ活用法とは

メジャー初年度に見事新人王を受賞した大谷翔平。前編では、トラッキングデータを使って大谷の打撃の秘密を探り、2018年8月以降に飛躍した要因について考察した。後編は、大谷の今後の課題や今シーズンの見どころについて解説していきたい。
参考:打者・大谷翔平 2年目の進化【前編】~キーワードは「打球速度」~

外角低めと対左腕に課題あり!

大谷の昨シーズンすべての打球を、打球の性質別にどのコースを打ったかをみてみる(図1)。

図1 打球の性質毎の打撃位置(投手目線)。高めから内角低めに長打を打てるポイントを持っている

注目したいのは外野フライだ。高めから内角低めにかけたゾーンで多く放っており、ここは大谷が長打や本塁打を量産するスイートスポットといえるだろう。しかし対照的に、外角低めのボールはゴロ打球が多く、8月以降であってもほとんど外野フライを打つことが出来なかった

さらに、左投手相手に絞ってみると、フライ打球を打てるゾーンは一気に狭くなり、低め全体で外野フライはほぼゼロであった。年間通して苦しんだ「左投手」、そして「低めのコース」は昨シーズンも課題として残っており、今シーズンの成績を占う上でも非常に重要であるといえるだろう(図2)。

図2 対左投手の打球の性質毎の打撃位置(投手目線)。低めのボールは全く外野フライを打てなかった

もう一つのキーワードが「シフト」だ。図3,4をみるとわかるが、大谷の場合ゴロは引っ張り、フライはセンターから左中間と打球方向に大きな傾向が出ている。メジャーリーグではシフトの是非が物議を醸しているが、大谷は傾向が出やすいタイプで、今シーズンもシフトの網にかかる場面が少なくないかもしれない。

図3 8月以前の打球飛距離。レフト方向は50m~75mの外野フライが多い
図4 8月以降の打球飛距離。レフト方向の打球の飛距離が伸びている

※スマートフォンはタブにて切り替え

対策としては、スイングを「変えない」ことであろうか。8月以降も得意ゾーンを広げたわけではなく、得意ゾーンを確実に強い打球で捉えることで成績を伸ばした。ハイレベルなメジャーリーグの投手たちに対し、すべてのコースを完璧に打ち返すことは難しい。すべてのコースを打ち返すことよりも、得意ゾーンに来たチャンスボールを確実に打ち返すことがカギとなるだろう。

メジャー屈指の打球速度!速球への強さが強打者の証

最後に、大谷自身がメジャーリーグの打者と比較してどのような打者であるかを確認してみたい。2018年の平均打球速度ランキングをみると、大谷は11位にランクインしている(表1)。
参考:【MLB打者ランキング2018年】大谷翔平1年目の打球速度は?

表1 2018年平均打球速度ランキング
順位名前
(チーム)
平均打球速度(km/h)最高打球速度(km/h)
1A.ジャッジ
(ヤンキース)
152.5193.0
2N.クルーズ
(※マリナーズ)
151.2188.3
3J.ギャロ
(レンジャーズ)
151.1189.1
4G.スタントン
(ヤンキース)
150.9195.9
5R.カノー
(※マリナーズ)
149.8182.5
6M.オルソン
(アスレチックス)
149.8182.3
7M.チャップマン
(アスレチックス)
149.6185.6
8J.D.マルティネス
(レッドソックス)
149.6187.8
9M.トランボ
(オリオールズ)
149.4182.5
10T.ファム
(レイズ)
149.3180.4
11大谷翔平
(エンゼルス)
149.0183.3

※2019年現在カノーはメッツ所属、クルーズはツインズ所属

打球速度が高まるほど単打も長打も増えていくことが分かっており、打者の能力を評価する上で非常に重要な指標とされている。実際にランキングをみても、上位にはヤンキースのジャッジやスタントンら打撃タイトル経験者が並んでいる。大谷はそれらの打者に次ぐ能力をみせており、ポテンシャルでいえばタイトルホルダーたちにひけを取らないといっても良いだろう。

また、球種別の打球特性をみてみると、大谷は4シームへの強さが際立っている(表2,3)。

表2 大谷の球種別打球特性
球種空振り(%)打球速度(km/h)打球角度(°)
2シーム19.4152.93.9
4シーム19153.618
カットボール33.9146.87.2
カーブ35.6140.812.8
スプリット75111.2-12.7
スライダー34142.520.7
チェンジアップ41.7141.411.2

表3 MLB球種別打球特性
球種空振り(%)打球速度(km/h)打球角度(°)
2シーム13.1142.95.6
4シーム18143.517.4
カットボール23.113912.3
カーブ30.8139.210
スプリット34.5138.46.1
スライダー33.8138.312.7
チェンジアップ29.4137.28.5

メジャー全体のデータでも4シームは最も打球速度が高い球種であるが、大谷は際立って4シームに対する打球速度が高い。メジャーリーグでは年々球速の高速化が進んでおり、マイナーやアマチュア選手でも150キロを超える4シームを投球する投手は珍しくない。
参考:真っ向勝負は時代遅れ?球種別のイベントの特徴!

さらに、フライボール革命への対策として「高め」の4シームを多用してくる投手も増えてきており、「4シームに対して強い打球を打てるか」は、今後メジャーで活躍する上で非常に重要な指標となるだろう。大谷が1年目から活躍できたのも、速いボールに振り負けない強いスイングを身につけていたからであり、今後も大きな活躍が期待できる打者といえるだろう。

昨シーズン開幕前、大谷の活躍には懐疑的な声が多かった。しかし、批判を乗り越え修正を繰り返し続けたことが新人王受賞につながったのだろう。手術の影響で復帰が5月になったが、再び逆境を跳ね返す活躍を見せてくれるだろう。

新時代のデータ活用法とは

トラックマンの登場により、プレー「そのもの」の評価が可能になった。トラッキングデータを使えば、球速やボール変化量のデータからどんな打球が打たれやすい投手なのかを評価でき、打者であれば打球速度のデータからどんなコースを強く振れるのかを定量化できる。他の指標とも組み合わせ、「なぜ」を考える上での補助的なデータとしても有用かもしれない。

今シーズンも、マリナーズの菊池雄星はじめ多くの選手がメジャーリーグにチャレンジする。新たな選手を応援する際に、トラッキングデータという新たな観点にも注目してみてはいかがだろうか。

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森本 崚太, Baseball Geeks編集部