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高校野球

【甲子園特集】解説者・前田正治氏が語る!高校野球の今と昔(後編)



目次
指導者と球児の関わり方はどう変化してきているのか?
保護者が関わりすぎ?!球児にのしかかる過度なプレッシャー
大きすぎる高校野球への社会の期待
今、時代に沿った変化が求められている

Baseball Geeksがお届けするこの夏の連載「Baseball Geeks×甲子園 ~高校球児の今と昔、そして未来~」。第1弾の今回は、高校野球中継で約20年間解説を担当され、長年にわたって高校球児のプレーを見続けてこられた、日本新薬硬式野球部元監督の前田正治氏に話を聞いた。後編では、指導者の今と昔について詳しく掘り下げていく。
参考:【甲子園特集】解説者・前田正治氏が語る!高校野球の今と昔(前編)

インタビューに笑顔で答える前田正治氏
前田 正治(まえだ まさはる)

大阪明星高校、関西大学で投手として活躍。日本新薬野球部では都市対抗、日本選手権の舞台で活躍。その後、日本新薬野球部の監督として都市対抗ベスト4進出。平成14年よりNHKの高校野球の解説者。平成23年より秋田県高校野球強化プロジェクトアドバイザーを務める。

指導者と球児の関わり方はどう変化してきているのか?

―情報が多すぎて取捨選択が難しいことや、体罰禁止が厳格化されるなど、指導者と球児の関わり方も変わってきていますよね。

前田:変わってきているところはあると思います。今まで罵声を浴びせたり、体罰をしていた指導者はいました。今は、厳しさというものは残しながら、チームづくりを維持しているところがあると思います。指導方法を明らかに変るべきだとは、私は思っていません。してはいけないことをしなければいいと思います。その「してはいけないこと」の理解を指導者が間違ってしまうことで、選手との距離感が離れすぎてしまったり、本来もっとお互いに分かり合えることなのに、それができなくなってしまったりしているケースをよく見ます。

また、指導者は選手たちをいい方向に導かなければなりません。そのためには、指導者自身が色々な情報を上手くどこまで取り入れることが出来るのかが重要だと思います。自分が完全に取り入れられていないものを選手たちに伝えてしまうと、どうしても選手たちは混乱します。また、選手たちが持っている情報をどう指導者側と共有していくのかも、指導者の重要な役割だと思います。

―情報の取捨選択のお話がありましたが、前田さんは、スポーツ科学やデータ活用の理解度が高かったり、考え方が柔軟だなと思います。近年の野球界の変化に拒否反応を示す指導者も多くいるのも事実です。色々な情報を耳にする中で、前田さん自身でも気をつけていることはありますか。

前田指導する中で何が一番大切なのは、「自分自身が何をしたいか」ということです。指導者自身の考えが何もなければ、選手たちに何も伝わらないと思います。まずは自分がチームで何をしたいか、どうするべきなのかをしっかり考えて、それをどう選手たちに理解してもらうかが芯な部分です。そのためのヒントや過程という部分は、何が良いか悪いかを指導者自身で選別していけばよいと思います。

―芯の部分がしっかりしているからこそ、それを達成するための道具として、スポーツ科学やデータ活用の捉え方が柔軟なのですね。

データは高校野球に必要か?

―高校生でも、選手自身がデータを使う場面が結構ありますよね。今の選手はSNSやYouTubeで見た情報を沢山持っています。そうなったときに指導者が浮いてしまったり、指導者自身が最新の知見を理解できなかったりすることもあるかもしれません。

前田:データがだんだん重要視されてきて、選手もいろんなことをよく知っていますよね。我々に近い歳の監督方もYouTubeを見たり、生徒たちが見るものを自分たちも見るようにしている方もいますね。今の監督方は割と生徒に合わせていると思います。出来るだけ選手と同じような情報は指導者も得ようとしている印象です。

―最近では、選手自身でもデータを計測したりできるようになってきました。

前田:データって難しい部分があるので、どう上手く使うかというところが指導者の課題だと思います。私はたまたま秋田県に指導にいったときに神事努さんに出会って、データのお話を色々聞きながら、実際に指導している現場の方とも関わってきました。ですので、どうすればデータを取り入れて、選手たちに理解してもらうかを考えてきました。データについての情報が自分の中に入ってきやすい環境だったので、指導現場ではできるだけその情報を伝えるようにしていました。

※神事努(じんじつとむ):ネクストベース・エグゼクティブフェロー。前田氏と共に、秋田県高校野球強化プロジェクトのアドバイザーを務める。

―データというと毛嫌いされることも多いのですが、実は選手の感覚を裏付けているだけというケースは少なくありません。データがあることによって新しいことだけではなく、今までなんとなくこうだろうと思っていたことが「やっぱりそうだったんだね」と科学的なお墨付きを得られることも多いのです。

前田:ただ単に速い球をインコースに投げろということではなく、その他にちょっと動くようなボールがあることで、バッターは打ちづらくなる。120キロしか出ない子は単に140キロを目指すのはなくて、データを活用することで考えの幅が広がって、実践に活きるようになって欲しいと思います。

―陸上競技だったら自分自身との勝負ですが、野球は相手との対戦です。バッターをどう打ち取るのかというところから逆算してデータを活用していくということが重要ですよね。しかし今は、回転数が多い方が良いとか、球種が多い方が良いとか、そういうことだけに注目してしまっていることがデータの活用という部分の課題なのかなと思います。

前田データは絶対に大切だと思います。データをどう活用すべきかを考えたときに、データが何を示しているのかが見えるようになります。データが何を示しているのかが見えないと、データそのものの数字を良くしようと思いがちです。

データに溺れてしまう危うさ

―データがなかった時代は、ないからこそバッターの反応をしっかり見る必要があった。もしかしたらすごく繊細だったのかもしれないですね。

前田:そうですね、自分で投げていてこのバッターはインコースが弱いなとか、感覚で見えていたので。

―その繊細さに注意が向かず、データというものに溺れてしまう可能性はあるのかもしれません。

保護者が関わりすぎ?!球児にのしかかる過度なプレッシャー

保護者との関わりは今と昔でどう変わってきているとお感じでしょうか。

前田今の保護者は子供たちに関わりすぎでしょうね。私の息子が野球をやっていましたが、今は小学生の頃からずっと練習も親がついて見ていたりしています。それを中学生になっても高校生になっても社会人になっても、その環境から離れられない親もいます。親の楽しみの一つであっても良いと思いますが、少し子供に関わりすぎているというのは、大きく昔とは変わってきているのかなと思います。

前田:昔も今もそんなに普段親と関わっていなくても、自分たちが野球をやらせてもらっているのは親のおかげで、当然感謝の気持ちを感じていました。今の子供は、学校を卒業したときや甲子園に出るとき、親への感謝をよく口にします。関わりすぎているからというのもあると思いますけど、結局その関わり方が、今は子供にとって大きなプレッシャーになっていることもあり得るということですね。

―野球そのものの興味という点では、ヒットを打ったときの面白さとか、勝ったときの喜びとか、上手になっていく感覚とか、注目されることの嬉しさとかがあると思います。これは高校野球特有の部分もあると思うのですが、そこに親の関与が一つのモチベーションを生む一方で、それが逆に働くこともある。レギュラーになれなかったり、野球ができなくなってしまったときの逃げ場がなくなってしまうことは怖いですね。家族という自分の戻るべきところでさえも重圧を感じてしまったら、子供の居場所がなくなってしまう。

前田:そこらへんのお話は、いつも保護者の方々には伝えるようにしています。厳しい言葉を投げかけたこともありますが、特に口を出さず、保護者の方が温かい目で見守ってやるくらいで良いと思います。

大きすぎる高校野球への社会の期待

―2018年の夏の甲子園では、秋田県代表の金足農業高校が快進撃を見せ、金農旋風と呼ばれる社会現象を巻き起こしました。高校野球の持つ清々しさや筋書きのないドラマ性は、社会が期待しているところがあります。一方で、逆にそれが子供たちへのプレッシャーになってしまったり、高校野球が野球人生の頂点になってしまっているところは、野球界の問題でもあると思います。前田さんが思う高校野球の社会への期待はありますか。

前田:高校野球は感動を与えてもらえるというところに、一番大きな期待はあると思います。だた、選手たちは感動を与えるつもりでやっている訳ではなく、自分たちが一生懸命やって試合で勝ちたい、今までやってきたことをなんとかこの場で発揮したいというような気持ちでプレーしています。

前田:高校野球が日本社会へ感動を与えていることは事実です。それに人々が期待するのは良いですが、最近のマスコミはその期待を逆手に取り、感動させるような記事や番組にまとめあげる風潮があります。「狙いすぎ」だと私は思っています。

―マスコミが狙いすぎているというのは、マスコミがストーリーを作りすぎるということでしょうか。

前田:試合前の取材で聞きに来る若い記者たちは、「今日はお母さんやお父さんは来てるの?」、「どんなことをしてもらったの?」ということばかり聞いていて、その子が活躍したり、頑張ったけど結果に出なかったというところに無理やり引っ付けて物語にします。そういう記者がものすごく増えた印象がありますね。

「感動の押し売り」ですね。確かに選手たちは一生懸命やっていて自己実現する場であることは今も昔も変わらないのですけど、そこに取り巻くメディアの存在は変化してきているのかもしれません。その他に社会からの期待という部分ではいかがでしょうか。

前田:元高校球児は社会に出てから重宝されますよね。元高校球児として貢献してくれることを、社会は期待してくれているのではないかなと思います。

―高校野球は、あくまでも課外活動なので、教育的な部分がないといけません。高校野球は、目標を達成する環境という意味で、教育の場として機能していると思います。自分自身で上手くなろうと思って工夫したり、それに対して先生から評価をもらったり、そこから改善したりするようなPDCAサイクルを回すことを日常的にやっています。これは、社会に出てからも大切な部分で、それを高校生のときに一度経験しているというのは、高校野球の魅力だと思います。

今、時代に沿った変化が求められている

―未来に向けて高校野球はこう変わっていってほしい、ここは変わって欲しくないなというところはありますか?

前田:今は球数制限に代表されるように、野球のルールが変化してきています。今の高校生の体を守る必要もありますが、これ以上変わって欲しくないというのはありますね。例えば7回制にするとか、夏はもっと球数を制限するとか、これ以上「甲子園」を作り上げていくのであれば、そういうことはやめて欲しいです。であれば、アメリカやキューバのように、段階を経て成長させていくような仕組みから考える方向へ向かって欲しいです。
今は甲子園という大きな舞台があるだけに、甲子園を目指して野球をすることが日本の野球界の特徴ですよね。時代に沿って変えていくのも大切かもしれませんが、野球そのものは大きく変わって欲しくないというのが正直な意見です。

―野球という競技特性が、他の競技にはない面白さを創出しています。高校生の健康や安全に配慮するあまり、野球そのものの構造を変えないといけないようなことになれば、甲子園ではない別のものに変えていく必要があるということですね。

これからの指導者に求められるものとは?

前田:これからの高校野球の指導者に求められるのは、生徒たちに対する熱意だと思います。高校球児は生徒なので、野球を上手くさせるだけではなく、人間的に育つことも大切です。生徒が20人いれば20人に同じだけ熱量を注いであげることが重要なのではないでしょうか。

ー最近は熱意を持った指導者が少ないのでしょうか。

前田:自分たちは熱意を持っているつもりでも、そう勝手に思い込んでいる人も多いと思います。「今年は無理だな」という言葉とか、「今年のチームは」と言っている指導者はいます。それぞれの年のそれぞれの子供たちに熱意を捧げて、レベルを上げてなんと甲子園に近づけていく。当然狙わないと近づけない舞台なので、毎年レベルを上げていく為にも指導者の熱量がもっとも大切なのではないのでしょうか。

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Baseball Geeks編集部