打撃理論

流し打ちが難しいのはなぜ?バットの打撃面とインパクト位置の関係を考察

攻撃場面では、エンドランを成功させることや守備シフトを破るために、左右に打球を打ち分ける技術が求められる。とりわけ、走者がいる際の右打者の流し打ちや左打者の引っ張りは進塁打になりやすく、意図した方向に打球を飛ばすことができれば、試合を優位に進めることができるだろう。
指導現場では特に流し打ち方向への打撃は難しい技術と捉えられているためか、流し打ち方向を狙い打てる選手や長打を放つことができる選手は打撃技術が高いと評されることが多い。
なぜ引っ張りに比べて流し打ちの技術は難しいと言われるのだろうか?今回は、左右方向に打球を打ち分けるための打撃技術について、ボールインパクトのメカニズムとバットのスイング軌道の観点から考えてみる。

目次:流し打ちが難しいのはなぜ?バットの打撃面とインパクト位置の関係を考察
左右方向の角度を決定するメカニズム
流し打ちが難しい理由とは?
打ち分けに必要な打撃動作を考察

左右方向の角度を決定するメカニズム

打球を打ち分ける際、ほとんどの打者がインパクトにおいてバットの打撃面が狙った方向に向くように調節しようとするだろう。指導書などにも、流し打ち方向に打球を放つには、”インパクトを遅らせる”、”ヘッドを残す”、”おっつけるように打つ”等、バットの水平方向の向きの調節を促すような記述をよく見かける。
つまり、打者のイメージとしては、入射角と反射角の関係を利用して左右へ打ち分けていると考えられる(図1)。しかしながら、実際にはバットの打撃面は"面"ではなく"円柱"になっているため、入射角と反射角の関係だけでは左右への打球方向は決まらない
参考:ヘッドを立てるってどういうこと?打球角度との関係に迫る!

図1 打者がイメージしている左右方向への打ち分け方。バットヘッドが下がるほど左右方向の角度がつきやすくなる。流し打ち方向に高速な打球を放つには、バットヘッドが下がり過ぎないように注意し、バット短軸上(ヘッドとグリップを結ぶ線に対して垂直な線上)の中心付近でインパクトすることが必要となる

通常の打撃では、インパクトにおいてバットヘッドはグリップよりも下方に位置している(ヘッドが下がっている)。そのため、たとえバットの打撃面がセンター方向を向いていたとしても、打撃面が円柱であることから、ボールがバットの上側に当たると流し打ち方向へ、下側に当たると引っ張り方向に打球が飛んでしまう。
つまり、左右方向の打球角度は、バットの打撃面の向きに加えて、上下方向の傾きと衝突位置の3つの作用の組み合わせによって決まる(城所・矢内、2015)。

流し打ちが難しいのはなぜか?

上述したように流し打ちは打撃面がセンター方向を向いていたとしても可能である(引っ張りも可能)。しかし、バットの上側にボールを衝突させて流し打った打球は、回転数は多いが、バットが持つエネルギーが伝達しにくいため、大きな速度を獲得することができない
参考:スピンをかけた打球は伸びにくい!?スイング軌道を解説
また、スイング開始のタイミングを遅らせ、打撃面を流し打ち方向に向けて打撃しても、バットの下側にボールが衝突すると引っ張り方向に打球(いわゆる引っかけた打球)が飛んでしまう。したがって、流し打ち方向に高速な打球を飛ばすには、図1のようにバットの打撃面を大きく流し打ち方向に向けた上で、バットの中心付近に衝突させなければならない

流し打ちはどう打つべきか?

また、流し打ち方向への打撃は、引っ張り方向へ打撃するときよりもインパクト位置が捕手側にあるため、バットが十分に加速していない時点でインパクトを迎えてしまうことや、ダウン軌道でインパクトしやすいという特徴がある。
参考:長打を打つためのメカニズムとは?スイング軌道と投球コースで分析
そのため、インパクトにおいて引っ張りよりスイング速度が小さく、ボール軌道に対して斜めに衝突するため、ライナー・フライ性の高速な打球が飛びづらいと言える。引っ張りに比べて流し打ちが難しいと考えられている理由には、以上に示したようなバットの形状やスイングの構造が関係していると予想される。

打ち分けに必要な打撃動作

では、どうすれば左右方向へ打球を打ち分けることができるだろうか。繰り返しになるが、打ち分けに重要な要因の1つにバットの打撃面の向きが挙げられる。打ち分け時の打撃動作を分析した研究では、打球方向によって主に以下のような動作に違いがみられることが報告されている(McIntyre・Pfautsch、1982;田子ら、2006;Katsumata et al.、2017)。

①スイング開始のタイミング
②スイング開始直前からインパクトまでの体幹(腰・肩)の向き
③スイング開始以降の引手側上肢の肘関節の角度
④インパクト付近の引手側上肢の肩関節の角度


これらを踏まえて流し打ちを行うための身体の動きを整理すると、引っ張りよりも捕手方向に体幹を回転させておき、スイング開始のタイミングを遅らせる、そして、スイングを開始してから投手側上肢(右打者の左腕)の肘関節を伸展させつつ、投手側の脇が開かないようにインパクトを迎えることが重要と言えるだろう(図2)。

図2 流し打ち方向へ打撃する際の動作のポイント(引っ張り方向への打撃動作との比較)。頭上の数字はインパクト時を0秒としたときのおおよその経過時間を表す

また、打ち分けにはバットの上下方向の傾き(傾斜角度)とインパクト位置も関係する。
森下・矢内(2018)の研究では、引っ張りと流し打ちは、スイング開始からインパクトまでバットの傾斜角度が異なっており、流し打ちの方がグリップエンドに対するバットヘッドの位置を低くしてスイングしているという。
また、流し打ちは引っ張りよりもバットを平行移動させるようにスイングしている(インコースからアウトコースに押し出すようにスイングする)ため、打撃面が流し打ち方向に向きやすくなっていると推察している。

バットヘッドが下がると同じインパクト位置でも左右への打球角度が大きくなりやすいことは既に説明した。インパクト付近において瞬時にバットの傾きを変化させることは難しいため、流し打ち方向に打球が飛ぶ確率を高めるには、スイング開始時点から通常よりもバットヘッドを下げておき、バットを押し出すようなスイングを行うことが望ましいかもしれない。

森下 義隆(もりした よしたか)

国立スポーツ科学センタースポーツ研究部研究員。日本女子ソフトボール代表チームの科学サポートを担当。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科にて博士号(スポーツ科学)を取得。バイオメカニクスが専門であり、打撃動作のメカニズムやパフォーマンス評価が主な研究テーマ。

参考文献:
Katsumata, H., Himi, K., Ino, T., Ogawa, K., and Matsumoto, T. (2017): Coordination of hitting movement revealed in baseball tee-batting. Journal of Sports Sciences, 35(24), 2468-2480.
城所収二, 矢内利政 (2015): 野球における『流し打ち』 を可能にするもう一つのインパクトメカニズム.体育学研究,60(1), 103-115.
McIntyre, D. R. and Pfautsch, E. W. (1982): A kinematic analysis of the baseball batting swings involved in opposite-field and same-field hitting. Research Quarterly for Exercise and Sport, 53 (3), 206-213.
森下義隆, 矢内利政 (2018): バットスイング軌道からみた左右方向への打球の打ち分け技術. 体育学研究,63(1), 237-250.
田子孝仁,阿江通良,藤井範久,小池関也,川村卓 (2006): 野球における内外角の打撃ポイントが打撃動作に及ぼす影響.バイオメカニクス研究,10(4), 222-234.