打撃理論

スピンをかけた打球は伸びにくい!?スイング軌道を解説

打球を遠くに飛ばすには、スイング速度を高めることも重要であるが、バットをボールの下に潜り込ませ、打球に強いバックスピンをかけることも重要であると言われる。プロ野球選手の中には、敢えて打球速度の大きなライナー性の打球を打たず、ボールの下側を狙ってポップフライを打つ練習をする選手さえいる。
指導の現場では、ボールの下側を狙って打てるようになれば、スイング速度が低くても飛距離を伸ばすことができる、という考えが根強くある。今回はボールとバットの衝突にフォーカスを当て、打球を飛ばすためのインパクト技術について考えてみたい。

目次:スピンがかかった打球は本当に飛ぶの?
ボール下をインパクトするとバックスピンがかかる
打球速度を最大にするのは10°前後上向きのアッパー気味の軌道
実戦で飛距離を最大化させるには

ボール下をインパクトするとバックスピンがかかる

無回転のボールとバックスピンのかかったボールを同じ速度、かつ同じ角度で投射すると、当然バックスピンのかかったボールの方が遠くに落下する。
これは、バックスピンのかかったボールには上向きの揚力がはたらくためである。揚力は回転数が増えれば増えるほど大きくなるため、強いバックスピンがかかったボールほど滞空時間が長くなるというわけである。
この現象を知る限りでは、より遠くへ打球を飛ばすにはボールに強いバックスピンをかけることが有効であるといえる。

物体を回転させるには、物体の重心から外れた位置に力が作用する必要がある(図1)。物体を回転させようとする効果は、力が作用する位置が重心から離れているほど大きくなる。
一方で重心に対して真っすぐ力が作用する場合、物体は全く回転しない。このことから、ボールに強いバックスピンを与えるにはボール中心の下側をインパクトすることが求められる。

図1 物体に作用する力の効果

打球速度を最大にするのは10°前後上向きのアッパー気味の軌道

しかしながら、ボール中心から離れた位置をインパクトするほど、加速したバットの勢いをボールに伝達することができなくなるため、打球の回転数は増加するものの速度は低下してしまう(図2)。

図2 打球の速度、回転数、ボール中心とスイング軌道の差の関係。ボール中心とスイング軌道の差が大きくなるほど、打球の速度は低下し、回転速度は増加する。※科学するバッティング術(英和出版社)を参考に作図  
ボール中心とスイング軌道の差

そのため、打球速度が最も大きくなるのは、インパクトにおけるボールとバットの中心同士を結んだ線とボールとバットの軌道が一致するとき、ということになる。投球されたボールのホームベース付近の軌道は下向きに約5~15°で進んでいるため、打球速度を最大にするには10°前後上向きのスイング軌道(アッパー気味の軌道)でバットをボール中心に衝突させれば良い(図3)。

図3 打球速度が最大化されるボール・インパクト。ボール軌道とスイング軌道が平行かつバットがボール中心を打撃したときに打球速度が最も大きくなる。このとき、打球には回転が生じない

ただし、ボールとバットが正面衝突した場合、打球に角度がつかず回転が生じない。無回転のボールには上向きの揚力が作用しないため、打球速度が最大化されたとしても飛距離が伸びない。したがって、飛距離の最大化を目指す場合は、アッパー気味の軌道でボール中心の僅か下側をインパクトすることが必要となる。

最近の研究では、直球を打撃する場合、ボール中心の6ミリ下を19°上向きのスイング軌道でインパクトすると打球に角度がつき、回転数も増加し、飛距離が最大化されることが報告されている(Nathan, 2015)。
参考:打球速度と飛距離の関係について

「6ミリ」という距離は、見た目にはボールとバットが正面衝突するのと変わりがないように見えるが、打球速度を落とさずにバックスピンをかけるには不可欠な距離だと考えられる。打球の速度と飛距離が最大になるバットの短軸上(バットヘッドとグリップエンドを結ぶ軸と垂直に交わる軸上)でのインパクト位置の違いはほんの数ミリの差である。
そのため、ボール中心の数ミリ下側を打てるかどうかが長距離打者になれるかの分かれ目になるだろう。

実戦で飛距離を最大化させるには

ボールの下側を擦るような打撃で飛距離を伸ばすことは物理的には難しいということが分かった。
しかし、練習において敢えてそのような打撃を行うことは、僅か数ミリのバットコントロールを磨く訓練として効果的かもしれない。注意すべき点は、飛距離が最大化されるインパクト技術(ボール中心に対するインパクト位置やスイング軌道)は打者によって多少異なるということだ。

スイング速度は打者の筋力や技術によって様々である。ボールに回転を加える効果は、ボール中心からの距離だけではなく作用する力の大きさにも影響を受ける
つまり、同じポイントを打撃したとしてもスイング速度の大きい方が打球の回転数が増加し、角度もつきやすい。そのため、スイング速度が大きい打者は、小さい打者よりもボール中心に近い位置をインパクトすることで飛距離を伸ばすことができる。
よって、選手は同じ位置をインパクトしてもスイング速度によって打球の回転や角度が変わることを考慮し、個人に合ったインパクト技術を探索し、マイナーチェンジを繰り返していく必要があるだろう。
参考:フライボール革命は本当に日本人には不可能なのか?

森下 義隆(もりした よしたか)

国立スポーツ科学センタースポーツ研究部研究員。日本女子ソフトボール代表チームの医・科学サポートを担当。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科にて博士号(スポーツ科学)を取得。バイオメカニクスが専門であり、打撃動作のメカニズムやパフォーマンス評価が主な研究テーマ。

参考文献:
柳澤修(監), 若松健太(監)(2015): 科学するバッティング術, 英和出版社, 東京.
Nathan, A. (2015): Optimizing the swing. https://tht.fangraphs.com/optimizing-the-swing/