打撃理論

バットを短く持つとスイング速度は上がるのか!?理論で検証!

速球派の投手と対戦する場合や2ストライクと追い込まれた場合において、打者はバットを短く持つという対策をとることがある。これは、短く持つことによりスイング軌道がコンパクトになることや、バットをコントロールしやすくなることが期待できるためである。
しかしながら、これらの効果は本当に表れているのだろうか?今回は、バットを握る位置の違いによって、打撃の正確性やスイングの時間がどのように変化するのかについて解説する。ここでは、バットを短く持つことを「Short grip」、長く持つことを「Long grip」として話を進めていく。

目次:バットを短く持つとスイング速度は上がるのか!?
短く持つ方がスイング速度が大きくなるとは限らない
コンパクトなスイングに短いグリップは効果的ではない!?
バットを短く持つことの本当の効果を知ろう

Short gripの方がスイング速度も大きくなる?

Long gripよりもShort gripはバットが軽く感じられる。Short gripは短いバットを用いる場合と同様に、バットを持つ位置からみた「慣性モーメント(※)」が小さくなることが影響している。(※参考:球児必見!自分に最適なバットの選び方)
慣性モーメントは物体の回転のしにくさを表しており、これが大きいほど回転させにくい
ことを意味する。
Short gripは、バットの重さ自体は変わらないが慣性モーメントを小さくすることに繋がる。そのため、バットを握る位置を変えて同じ力でバットを回転させた場合、バットの回転速度(角速度)は短く持ったときほど大きくなり、スイング時間も短縮されることになる。したがって、Short gripの方がスイング速度も大きくなると考えられる。だが、Long gripの方がShort gripよりもスイング速度が大きくなる可能性もある。

スイング速度は回転速度と回転半径で決まる!

なぜ、Long gripの方がShort gripよりも回転速度が小さくなるにも関わらずスイング速度が大きくなるのか?これは、スイング速度が回転速度(角速度)と回転中心からバット先端までの長さ(回転半径)によって決まるためである(図)。

図:バットのスイング速度(ヘッド速度)は、回転速度と回転半径の積によって決定する。
グリップ位置を変えて同じバットを同じ回転速度でスイングした場合、バットを長く持った方がスイング速度が大きくなる。

つまり、Long gripはShort gripよりも回転半径が長いため、Short gripよりもスイング速度が大きくなることもあり得るということだ。ただし、慣性モーメントが異なる同じ長さのバットを同じ位置で握ってスイングした場合は、慣性モーメントが小さいバットほど回転速度が増加し、スイング速度は大きくなる。ノックバットが小さな力でも打球を遠くに飛ばせるのは、バットの重さ自体は軽いが、慣性モーメントが極力小さくなるように設計されているため、回転速度を高めやすく、それによってスイング速度が増大するからである。

短く持ってもコンパクトなスイングはできない?

このようにバットを持つ位置を変えることは、理論上、スイング速度、回転速度、時間に影響を及ぼす。実際にShort gripとLong gripで打撃動作を比較した研究では、Short gripはLong gripよりも回転速度は増加するが、スイング速度は低下することが報告されている(川端&伊藤 2012)。この結果は、Short gripによってバットの回転速度が増加した影響が、回転半径が短くなったことの影響に相殺され、結果的にスイング速度が増加しなかったということを表している。また、この研究では持つ位置を変えてもスイング時間は変わらなかったということも示している。
 
では、ボールを正確に捉える能力は向上するのだろうか?実際に投球されたボールを打撃した実験では、正確性(ボールを強く打撃できたかどうか)はどちらの持つ位置も同程度であることが示されている(DeRenne et al. 2010)。また、インパクトのタイミング誤差を比較した実験では、誤差の大きさとそのばらつきに差はないが、Short gripの方がやや振り遅れる傾向があることも示されている(太田&中本2015)。ただし、ここで紹介した研究結果は投じられたボールの速度やコースがほぼ一定に保たれた環境で計測されたものである。実際の試合では、球速や軌道の異なるボールを様々なコースに投じられるため、試合環境で現れる効果とは違うのではないか、という見方もできる。

バットを短く持つことの効果とは

今回、多くの研究によってバットを短く持つことの効果が検証されてきた内容を紹介したが、その効果は期待していたものと大きなズレがあると言える。Short gripにしたことで体幹の捻りがLong gripよりも小さくなった等、打撃動作そのものに違いがみられることを示した研究(Escamilla et al. 2009)もある。これは、Short gripでは、よりコンパクトにバットをスイングしようと意識するあまり、Long gripでは出来ていた本来の動作とは異なる動作を行っていたと考えられる。理論上、Short gripはLong gripよりもバットの回転速度を高めやすい、すなわちバットヘッドを操作しやすいという点において優れている。そのため、Short gripにおいてもLong gripと同様の意識(打撃動作)でスイングすることができれば、振り遅れや空振りを回避し、バットの芯で捉える能力を向上させることができるかもしれない

打球速度を上げるには、スイング速度を増加させることとバットコントロールの正確性を高めることの両方が重要になる。バットのグリップ位置、重さ、長さなどの違いはこの2つの能力に影響を与える。選手にはこれらの影響をよく理解した上で練習に励んでもらいたい。

森下 義隆(もりした よしたか)

国立スポーツ科学センタースポーツ研究部研究員。日本女子ソフトボール代表チームの医・科学サポートを担当。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科にて博士号(スポーツ科学)を取得。バイオメカニクスが専門であり、打撃動作のメカニズムやパフォーマンス評価が主な研究テーマ。

引用:
・川端浩一, 伊藤章 (2012): グリップ位置と投球速度の違いが野球のバットスイングに及ぼす影響, 体育学研究, 57(2), 557-565
・DeRenne, C., Morgan, C.F., Escamilla, R.F., and Fleisig, G.S. (2010): A choke-up grip facilitates faster swing and stride times without compromising bat velocity and bat control. The Sport Journal, 13(2)
・太田洋一,中本浩輝(2015):バットグリップ位置の変化が野球の打撃タイミングと床反力および筋活動に与える影響,体育学研究, 60(2), 527-537
・Escamilla, R.F., Fleisig, G.S., DeRenne, C., Taylor, M.K., Moorman, Ⅲ, C.T., Imamura, R., Barakatt, E., and Andrews, J.R. (2009): Effect of bat grip on baseball hitting kinematics. Journal of Applied Biomechanics, 25(3), 203-209.