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子どもの運動能力は遺伝?それとも環境?

子どもの運動能力は生まれつきもっているものだろうか。それとも生まれてから様々な体験をすることによって獲得してくるのだろうか。この「子どもの運動能力の決定は遺伝なのか、それとも環境なのか」の議論は古くから存在している。
大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)のスーパーカートリオの1人、高木豊さんのインタビューを拝読したことがある。高木氏は言わずと知れた元プロ野球選手。元陸上短距離選手の妻との間に生まれた3人の子どもはいずれもプロサッカー選手であることは有名な話だ。高木氏の例でみると、遺伝子が優位と言わざるを得ない。

果たして子どもの運動能力は遺伝によって決まるのか、それとも環境なのか、親にしてみればどちらなのか非常に気になるところだろう。今回のBaseball Geeksは、子どもの体力特性について詳しい株式会社ウィンゲートの遠山健太氏と共に、「運動能力は遺伝するのか」をテーマに話を進めていく。

子どもの運動能力は遺伝?育成の環境?
周りを取り巻く環境が運動能力に影響する
速筋・瞬発系タイプは野手向き?!遺伝子でわかる適したポジション
子どものスポーツ選択は焦らずじっくりと

周りを取り巻く環境が運動能力に影響する

同じ遺伝子をもった一卵性双生児の研究は昔から行ってきており、遺伝・環境の両方の影響を受けて運動能力が養われていくことがわかっている。例えば、同じように活発に運動して育った双子を対象にした研究を紹介しよう。
双子のうち、1人は高校卒業後に普通に就職し、日頃あまり運動をしない会社員になった(表中:非トレーニング者)。もう1人は、大学入学後に運動部に入り、選手として活躍した(表中:トレーニング者)。2人の形態・除脂肪体重(筋量)や最大筋力などの体力要素をみてみると、身長以外のすべてにおいて差が出ており、取りまく生活環境が影響を与えていることがわかるだろう。

表1 一卵性双生児の体格・体力比較

子どもの体格・運動能力は両親からの遺伝によるものが大きいと言ってよいのだが、周りを取り巻く環境によっていかようにも変わるということは疑いようがない。

速筋・瞬発系タイプは野手向き?!遺伝子でわかる適したポジション

環境説の方が強くなってきたが、そんな中最近日本では遺伝子ビジネスが急成長をとげている。ニューヨークヤンキースの田中将大選手が遺伝子検査のCMに出演しているのをみたことがある人も多いだろう。
例えば、筋繊維に関わる遺伝子の評価では速筋と遅筋の割合がわかるので野球のポジションの体力特性から野手「速筋・瞬発系タイプ」投手「遅筋・持久系タイプ」という判断ができるかもしれない。
参考:打者は体が大きい方が有利!?データで検証!

・速筋:大きな力を発揮するが、持久性が低い。例)垂直飛びなど瞬間的なパワー発揮
・遅筋:大きな力は発揮できないが、持久性が高い。例)ランニングなど持続的な力発揮

また、骨・関節に関わる遺伝子の評価では怪我の発生リスクを下げるために、野球選手に特に起こりやすい肩や肘のケアや障害予防トレーニングを多めに実施したりすることもできるだろう。
さらに、体脂肪に関する遺伝子リスクが高い場合は、体脂肪蓄積予防のために定期的な栄養サポートが必要になってくるかもしれない。

自分が選択したスポーツは正しかったのか?

筆者も「アスリート用」の遺伝子検査⁽¹⁾を試した経験がある。以前プロゴルファーを目指していた経験から自身が選んだスポーツと遺伝子がどのような関係をもっているか大変興味があった。結果は筋線維的には瞬発系タイプで、心臓血管的には持久力には向かないというものだった。
ゴルフは瞬発力重視と思われがちだが、再現性の高いスイングを完成させるためには豊富な練習量が必要不可欠。またプロになって試合にでれば4日間戦い続ける体力も必要になってくるので、遺伝的にはゴルフには向いていなかったのかなと若干の寂しさを覚えた。

遺伝子検査が怪我の予防に役立つ可能性も

さらに、遺伝的に骨・軟骨・関節的に弱いとあり、肩板損傷が引き金で引退した苦い経験も思い出した。このように自身がやっていたスポーツと重ねると残念な結果となってしまったが、遺伝子検査は怪我の予防に役立つ可能性がある。
ただし、現時点では遺伝子検査は推測でしかないため参考程度に考えた方がよい、ということである。

子どものスポーツ選択は焦らずじっくりと

先述した元プロの高木豊さんは、子どものスポーツ子育てで野球をやらせたいと思ったことはないと言う。どのスポーツをやるにせよ、そのスポーツが好きであることが大事。いろんなスポーツを体験させた結果、3人ともサッカーに興味を持ったということだ。
子どもがやるスポーツを親が決めるのではなく、ガイド役に徹して、まずは子どもの運動意欲をかきたてるような環境を整えてあげるように工夫してみよう
親の方針で、基礎体力と肩周囲の強化を目的に、小学校時代はずっと水泳を習っていた阪神タイガースの岩崎投手が本格的に野球を始めたのが中学生からだと言う。それから10年後、大学卒業後にプロ入りを果たすと、新人としてその年5勝をあげた。メディアは彼を「遅咲き」の選手と評することもあるが、筆者はそうは思わない。
このように、スポーツを決めるのは焦らずじっくり決めたほうがいいのではないだろうか。

遠山健太(とおやまけんた)
株式会社ウィンゲート代表取締役、一般社団法人健康ニッポン代表理事。全米ストレングス&コンディショニングスペシャリスト(CSCS)の資格を保持。ワシントン州立大学教育学部卒業。東海大学スポーツ医科学研究所、国立スポーツ科学センターでのトレーナー経験を経て、全日本フリースタイルスキーチームのフィジカルコーチを2018年まで務める。現在は子どもの運動教室「リトルアスリートクラブ」を展開している。

【リトルアスリートクラブについて】
  http://little-athlete.com/

引用:
Klissouras, V. et al.(2000) Genes any Olympic performance : a co-twin study. Int. J. Sports Med. 21: 250-255
注釈(1):IDENSIL(株式会社グリスタ)
参考文献:
・金メダル遺伝子を探せ!(善 家賢)
・子どものスポーツと才能教育(宮下 充正)
・運動できる子、できない子は6歳までに決まる! (遠山健太)