トレーニング他

練習前のストレッチは逆効果?野球選手が知っておくべき3つの方法

ストレッチはベーシックなコンディショニング方法の1つであり、投球障害の予防や運動パフォーマンスの向上を目的として多くの選手が行っている。しかしながら、「ストレッチをするとパフォーマンスが低下する」との衝撃的な研究結果が2001年に発表された。この発表以降、同様の報告が数多く散見するようになったため、今、ウォーミングアップ中のストレッチの必要性について、一部の指導現場で混乱が起きている。

よく考えれば、ストレッチと一概に言っても様々な方法が存在するため、それぞれのストレッチの特徴や、利点と欠点を把握した上で実施しなければ逆効果を招く危険性は十分ある。特にウォーミングアップはその後の主運動の大切な準備となるため、実施するストレッチが運動パフォーマンス発揮の一助となるよう心がけなければならない。

そこで今回は、「ウォーミングアップ中のストレッチは有効か?」という点について考えていきたい。また、ウォーミングアップにおけるストレッチの注意点についても併せて解説する。

練習前のストレッチは有効なのか?
ストレッチはハイパワー能力を低下させるのか?
知っておくべき3つのストレッチ
目的に応じたストレッチメニューを考えよう

ストレッチはハイパワー能力を低下させる?

「ストレッチをするとパフォーマンスが低下する」と結論付けられた2001年の論文で用いられているストレッチ方法は、スタティックストレッチであった。スタティックストレッチとは、反動なしのアキレス腱のばしのように、反動をつけずに行うストレッチのことだ。
本来、筋腱のバネがあるほど大きな力を発揮できるのだが、スタティックストレッチによって筋腱を伸張させるとそのバネの強さが低下してしまうというのがパフォーマンスを低下させる理由だと考えられている。

しかしながら、これらの研究結果から、単純にスタティックストレッチ=悪だと結論付けてはいけない。この研究ではストレッチの継続時間が60〜300秒に設定されていた。
スタティックストレッチが運動パフォーマンス低下に及ぼす影響についてレビューした山口ら(文献1)によると、30秒未満のストレッチ時間で実施した場合ではパフォーマンス低下は生じていなかった(図1)。つまり、30秒以上のスタティックストレッチが力発揮にマイナスの効果を引き起こすのだ(図1赤枠部分)。

図1 スタティックストレッチの伸張時間の違いが筋力に及ぼす影響。縦軸は膝を伸ばした時に発揮される筋力。30秒以上のストレッチを行うと筋力が低下してしまう

野球現場で考えると、スタティックストレッチを30秒以上行う場面はそう多くはない。だからこそ「ストレッチをするとパフォーマンスが低下する」ということを現場では過大解釈しないようにしなければならない。そのためには、ストレッチの種類、強度、継続時間を整理し、目的に合ったものを選択することが必要なのである。

野球選手が知っておくべき3つのストレッチ

ストレッチは教科書的には下記の様に3つに分類されている(図2)。

①反動をつけずに実施するスタティックストレッチ
②関節を動かしながら実施するダイナミックストレッチ
③筋を意図的に収縮させてからリラックスさせるPNFストレッチ

図2 ストレッチの分類
スタティックストレッチ

反動なしのアキレス腱のばしのように、反動を付けずに行うストレッチのこと。個人で能動的に筋を伸張させるセルフストレッチとパートナーの力によって受動的に筋を伸張させる方法がある。主には関節可動域を広げることを狙いとした方法であるため、ウォーミングアップにおいて長い時間かけて実施すること避けるべきである。

ダイナミックストレッチ 

屈伸の様に動きを伴ったストレッチのこと。相反性神経支配を利用する方法で2種類に分けられている。
まずは、伸張させたい筋の拮抗筋を能動的に収縮することで関節可動域を広げるアクティブストレッチである。また、反動をあるいは勢いをつけて関節可動内かもしくはそれ以上の範囲で動かせることで筋腱を伸張させ、エネルギー出力系(筋力やパワー)を発揮しやすくすることを狙いとするバリスティックストレッチがある。
いずれもウォーミングアップ中に実施することによって、その後の主運動(主に力発揮)にとってプラスに作用する

PNFストレッチ

パートナーの徒手抵抗を利用し、伸張させたい筋を等尺性や短縮性の筋収縮をした直後に受動的に筋をストレッチする方法。例えば、ふとももの裏を2人組でストレッチする際に、ストレッチされる側(力を入れる)とストレッチする側(抵抗をかける)に分かれて実施する。
こちらもスタティックスストレッチと同様に関節可動範囲を広げるには有効な方法であるが、特にアイソメトリック法(等尺性収縮からストレッチする方法)はバネの強さの低下を引き起こすため、ウォーミングアップには適してはいない

以上のようにストレッチといっても得られる効果は異なるため、何を狙いにするかによってストレッチ方法を選択しなければならない。

目的に応じたストレッチメニューを考えよう

先述したようにストレッチも方法によって狙いとする効果は異なるため、これから主運動をするための準備としてウォーミングアップをする際には、それぞれの目的に応じてストレッチを選択する必要がある。表1はウォーミングアップ中のストレッチ実施の例である。

表1 ウォーミングアップ中のストレッチ活用方法の1例

スタティックストレッチによってその日の身体のコンディションを把握し、普段よりも関節可動域が狭く、張りを感じているようであれば、その部位への関節可動域獲得を狙いとしてスタティックストレッチを実施する。ただし、実施にあたっては1部位30秒以上にならないように考慮する
次に、ダイナミックストレッチによってさらに関節可動域を獲得すると同時に、その後専門的ウォーミングアップ(野球であれば野球特有の動作獲得)に向けて、筋収縮の活性化を図る。その際に速い筋収縮を意識してダイナミックストレッチを実施するよう意識する(文献3)。

このように、その日のコンディションに合わせてストレッチのメニューを組むと、自身の体調の把握や怪我の予防にもつながるはずだ。

笠原 政志(かさはら まさし)

国際武道大学准教授、学術博士(体育学)、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、NSCA認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト、日本トレーニング指導者協会公認上級トレーニング指導士、JPSUスポーツトレーナー、専門はアスレティックトレーニング、コンディショニング科学。現在は国際武道大学にてアスレティックトレーナー教育を行いながら、アスリートの競技力向上と傷害予防に関わる研究活動を行っている。

参考文献
1)山口太一、石井好二郎:運動前のストレッチングがパフォーマンスに及ぼす影響について、−近年のストレッチング研究の結果をもとに−、Creative Stretching,5:1-18、2007.
2)Page P: Current concept in muscle stretching for exercise and rehabilitation, Int. J. Sports Phys. Ther.,7(1):109-119,2012.
3)笠原政志:ウォーミングアップ時のスタティックストレッチングは悪影響を及ぼす?、野球のコンディショニング科学、ベースボールクリニック27(15):56―57、2016.