トレーニング他

ピッチングは何歳で教えたらいいの?子どもが上達するメカニズムとは

指導者は少年野球などで子どもに野球を教える際に、すぐに上達する子と、そうでない子がいることに驚くことがあるのではないだろうか。筆者の運動指導の経験からも、どんなに頑張っても運動が苦手な子、日に日に上達していく子がいるように感じる。上達していく子はどうやら指示されたことを自分なりにやってみて、トライ&エラーを繰り返しながら調整してその動作のコツのようなものをつかんでいるように見える。動作のコツを身につけるには、様々な運動体験をさせることが重要なのだ。
今回は子どもたちの運動スキルと競技パフォーマンスとの関係について、ピッチングとバッティングを例に掘り下げて考えていく。
参考:子どもの運動能力は遺伝?それとも環境?

目次:ピッチングは何歳で教えたらいいの?
ゴールデンエイジの理論は本当か?
ピッチング指導の前に「ボールを正しく投げる・捕る」
子どもの成長に合わせて、段階を踏んだ運動指導を

ゴールデンエイジの理論は本当か?

スキャモンの成長曲線は中学の保健体育の教科書や、スポーツ子育て本でもよくみられる、子どもの成長具合をグラフで表しているものだ(図1)。スキャモンはアメリカの医学・生物学者(1883-1952)であり、このグラフを発表してから今年で85年、亡くなってから70年近く経っている現在でもなお、このグラフを元に子どもの発育について語られることが多い。

図1 スキャモンの成長曲線(国立スポーツ科学センター『女性アスリート指導者のためのハンドブック』より出典)

子どもの運動能力に関する本や記事などでは、必ずと言っていいほど登場するこのグラフ。特に幼少期に急激に量が増える「神経系」が着目されていることが多い。
まさに90年代後半に提唱された「ゴールデンエイジ理論」もこの部分を参考にしていて、9~12歳が運動能力の向上に最適な年代であり、それがゆえに運動の早期教育の重要性が説かれている現状がある。

スキャモン理論の問題点

スキャモンのグラフは、身長・体表面積・ 体重・座高などのデータをもとに、神経などの重さを実際に測り、そこから何歳くらいでどの器官の量が増えるかという「イメージ」をフリーハンドで描いたものだ(引用1)。つまり注意しなくてはいけないのが、神経系は動きの巧みさの指標として使われていることが多いのだが、実際に幼少期に増加しているのは「量」であり、神経系機能である「質」ではないところだ。
また、スキャモンは運動指導の専門家ではなく、このようなイメージ図は元々運動能力向上のためにつくられたものではない。現代において、スキャモンの発育成長曲線やゴールデンエイジ理論をどのように扱っていけばよいか、今一度考える必要があるだろう。

ピッチング指導の前に「ボールを正しく投げる・捕る」

日本サッカー協会のJFAキッズハンドブックにはUー10~Uー12年代は心身の発達が調和し、動作取得に最も有利な時期とされている。「集中力が高まり、運動学習能力が向上し、大人でも難しい難易度の高い動作も即座に覚えることができます」と書いてある。
野球だと、この時期にバッティングやピッチングはもちろん、走塁や盗塁などの戦略的要素が強い高度な技術を徹底的に指導されるかもしれない。
しかし最近では、ジュニアアスリート専門のトレーナーが以前よりも増えてきていることもあり、そのような技術指導中心の練習メニューに警鐘が鳴らされている

高度な技術をマスターできる時期だからと言って全員が全員当てはまるわけではない。当たり前のようだが、ピッチング指導の前に「ボールを正しく投げる・捕る」ということ。バッティングの前に「ボールを正しく打つ」動作ができているかということ、そしてベースランニングの前に「正しく走る」動作ができているかをチェックする必要があるのだ。
なぜならボールを狙い通りに投げる運動スキルが乏しければ、内外のコースの投げ分けやスピードの緩急の使用などの戦術面はスムーズに指導は難しくなる。まずは「投げる」という動きの評価を子どもの発育に合わせて行う必要があるということだ。

野球に必要な運動スキル

山梨大学教育人間科学部教授の中村和彦氏が提唱する、幼少期に体験すべき運動スキルは全部で36ある(図2)。運動スキルとは、走る・跳ぶ・投げる・捕る・泳ぐ・蹴る・打つなどの基本的な運動のことを言う。

図2 幼少期に体験すべき36の運動スキル (中村和彦監修 『あんふぁん』 フジサンケイ新聞社 2008年10月号より出典)

さらに、野球というスポーツをみてみると必要なスポーツスキルが4つある。いわきFCアカデミーアドバイザーの小俣よしのぶ氏は、スポーツスキルは「特定の競技に必要な技能」と定義付けしている(引用3)。
・投げる(ピッチング)
・打つ(バッティング)
・走る(ベースランニング)
・捕る(キャッチング)

これらのスポーツスキルは、いずれも図2の36の運動スキルに含まれているようにみえる。ただし、スポーツスキルと運動スキルは全く別のものとして考える必要がある。
ピッチングを例にとってみよう。まず、思い描いたところや力加減で「投げる(スローイング)」ことができていないと、内外のコースに投げ分けることや、スピードの緩急などを考慮したピッチングはできない。つまり、まず基本的な運動スキルである「ものを投げる」ことを様々な体験から習得していくことが重要なのだ。

では、どのように「ものを投げる」という運動スキルをアップさせたら良いのだろう。このスキルアップには様々な方法がある(表)。

表 「投げる」運動スキルの習得方法(例)
方法使用するもの、投げ方
投げるものを変えてみる楕円のボール、棒きれ、木の実など
投げるもののサイズを変えてみる手で握れるもの、握れないもの
投げるものの重さを変えてみる軽いもの、重いもの
投げ方を変えてみる上手投げ、横投げ、下手投げ
片手・両手で投げてみる右手で、左手で、両方で
投げる強さを変えてみる遠くに、近くに

これに運動スキルの1つである「当てる」を加えて考えてみる。例えば、「止まっている目標物に投げて当てる」「動いている目標物に投げて当てる」「動きながらとまっている目標物に当てる」など基本動作を組み合わせていくと「ボールをキャッチしながら一塁に送球する」というスポーツスキルがスムーズにできるようになる。
このようにまずは基本的運動スキルを身につけ、バリエーションが増やしていき、運動のコツのようなものが身につく。そういう経験が野球の技術力の向上につながり、また戦術のバリエーションが増えることになる

同様にバッティングはバットを使って打つ行為はスポーツスキルだが、運動スキルとなるとバットである必要はない。ラケットやゴルフやホッケーのようなスティック状のもの、または木の枝でも「打つ」という運動スキルはマスターできまる。
打つものが何であれこれに「当てる」という運動スキルを加えていくと野球のスポーツスキルでいう「流し打ち」や「引っ張り打法」がスムーズに会得できるはずだ。

子どもの成長に合わせて、段階を踏んだ運動指導を

このように特定のスポーツをやる前に幼少期に投げる、走る、跳ぶなどの基礎的な運動スキルを覚えてから行う必要がある。理論上、高度な技術をマスターできるゴールデンエイジの時期だからと言って、全員が全員当てはまるわけではない。子どもの成長度合いに合わせて段階を踏んで技術を指導していくことが大切なのだ。
運動スキルは運動体験によって自然に身につくものなので、幼少期から外遊びを積極的にさせることが重要と言える。第二次性徴期に入った子どもであれば、スポーツバイオメカニクスを理解しているスポーツトレーナーに動きの評価をしてもらうことも一つだろう。競技力が高い中学生のチームでは、子どもの成長と体力に合わせてこのような運動スキル中心の練習を行っているところもある。今後このようなチームが増えていくことを願っている。

遠山健太(とおやまけんた)
株式会社ウィンゲート代表取締役、一般社団法人健康ニッポン代表理事。全米ストレングス&コンディショニングスペシャリスト(CSCS)の資格を保持。ワシントン州立大学教育学部卒業。東海大学スポーツ医科学研究所、国立スポーツ科学センターでのトレーナー経験を経て、全日本フリースタイルスキーチームのフィジカルコーチを2018年まで務める。現在は子どもの運動教室「リトルアスリートクラブ」を展開している。

【リトルアスリートクラブについて】
  http://little-athlete.com/

引用:
1.発育発達と Scammon の発育曲線,藤井勝紀 (愛知工業大学大学院経営情報科学研究科)スポーツ健康科学研究 35:1 ~16, 2013.
2.女性アスリート指導者のためのハンドブック,国立スポーツ科学センター
3.スポーツをすると「スポーツが下手」になる,小俣よしのぶ,MUSTER https://muster.jp/course/331/,2016
4.専門的なスキルの前に基礎的な運動スキルを身に付ける,遠山健太,小俣よしのぶ,コーチングクリニック 2016年6月号,ベースボールマガジン社
5,スキャモンの発育曲線とスポーツ指導,熊川大介,子どもの発育発達 Vol.12 No.4
6,ゴールデンエイジ理論の誤解と少子化社会で求められる育成力,小俣よしのぶ コーチングクリニック2018年11月号,ベースボールマガジン社