投球理論

ランナーがいた方が球速は上がる? 状況別に投球を分析

「満塁だから真っすぐ中心で攻めてくるぞ!」
「無死一塁だから小さく落ちるボールでゲッツー狙ってくるぞ!」
このように、ランナーの有無または状況によるアドバイスを受けた経験はないだろうか。今回は昨季のメジャーリーグの全投球・約73万球のデータを基に、ランナーの状況によって投球がどのように変化していくかを明らかにする。このような定説・アドバイスは本当に適切なのだろうか。

目次:ランナーがいた方が球速は上がる?
ランナーありの場面と、なしの場面に投球はどう変わる?
ランナーが出ると変化球の割合が増加?!
走者一塁で投球されるツーシーム!

セットポジションは球速が低くなると思いきや…

まず、ランナーの有無によって球種割合がどのように変化するのかを見ていく。下記にランナーありの場面と、なしの場面における各球種の投球割合を示した(表1)。

表1 ランナー有無による各球種の打球割合
球種ランナー無ランナー有
速球36.4%34.1%
ツーシーム19.1%19.8%
スライダー16.3%18.1%
カーブ11.1%10.3%
チェンジアップ10.3%10.4%
カットボール5.2%5.7%
スプリット1.5%1.4%

※2018年MLBデータ

基本的に投球割合は近しいものであったが、特に差が見られたのは速球とスライダーの2球種。
速球はランナーありの場面で投球割合が減少し、スライダーは上昇している。スライダーは空振り率が高く、速球は空振り率が低い。ランナーありの場面では、バットに当たると不運でも失点の可能性があり、投手は空振りを狙いたいという意図を持っているのかもしれない。
また、球速はどのように変化するのか。ランナーありの場面となしの場面で、各球種の平均球速を示した(表2)。

表2 ランナー有無による各球種の平均球速
速球ランナー無
(km/h)
ランナー有
(km/h)
速球149.8150.1
ツーシーム148.1148.5
スライダー135.7136.0
カーブ126.7127.3
チェンジアップ135.6135.4
カットボール142.6142.8
スプリット137.1136.9

※2018年MLBデータ

データを見ると、チェンジアップ、スプリット以外全ての球種で球速が上がっていた。一般的に、セットポジションから投げられたボールは球速が減少すると考えられており、ワインドアップとセットポジションの球速を比べた研究では、セットポジションは有意に球速が低かったという報告もある(蔭山ほか、2015)。
しかし、実際には球速が減少するどころか、むしろセットポジションのほうが増加していた
メジャーリーガーの平均的なボールって?

場面別で投球の変化を見る

さらに細かく場面を分類した表を見ていこう。それぞれのランナーの配置による各球種の投球割合を下記に示した。先ほど扱った速球とスライダーを中心に、ランナーなしと比較しながら見ていく(表3)。

表3 場面別による各球種の投球割合
速球一塁二塁三塁一・二塁一・三塁二・三塁満塁
速球36%35%33%33%33%32%32%36%
ツーシーム19%21%18%18%19%20%17%21%
スライダー16%16%19%20%19%19%21%19%
カーブ11%9%11%12%11%11%12%9%
チェンジアップ10%11%11%10%10%10%10%8%
カットボール5%6%6%6%6%6%6%5%
スプリット1%1%2%1%1%1%2%1%

※2018年MLBデータ

速球はランナーなしの場面で最も投球されており、ランナーが出ると変化球の割合が増加していた。ランナーが一塁の場面では「盗塁を警戒する」と言われる事も多いが、速球系(フォーシーム+ツーシーム)と変化球の割合に大きな変化はなかった
少なくともメジャーリーグの投手は、「盗塁させない事」よりも「打たれない事」を優先して投球しているのかもしれない。

速球の「ギアが上がる」は本当か

次に、各場面の速球の平均球速を示した。ランナー満塁の場面が一番速いことが分かる(表4)。

表4 各場面における4シームの平均球速
ランナー位置球速
(km/h)
149.8
一塁149.8
二塁150.1
三塁150.7
一・二塁150.3
一・三塁150.3
二・三塁150.5
満塁150.8

※2018年MLBデータ

ピンチの場面で投手の「ギアが上がる」という表現があるが、実際にデータでもピンチになるほど球速が上昇している。
ランナーありの場面では変化球の割合を増やして空振りを狙っていると先述したが、空振りを奪いにくい速球においては、球速を上げることで空振りを狙っているのかもしれない。

ランナーがいるときほど球速が高まっていたのは、ピンチになるほど力を入れて投球すること、そして速球に自信のある投手はピンチの場面でも速球を多投できるというのが理由であろう。
ホップ成分が大きい速球は空振りを奪いやすいって本当!?

空振りを取りたい場面でのスライダー

スライダーは、ランナーありのなかでも特に得点圏での投球割合が高かった。ピンチになるほど空振りが高いスライダーで三振を狙っているといえるだろう。
しかし、満塁での投球割合は得点圏ながらやや低い値となっている。満塁になると、1バウンドで暴投になるのを嫌がったり、ゴロ割合の高いツーシームの投球割合を増やしてゲッツーを狙ったりしているのであろう。

走者一塁で投球されるツーシーム

最後に、ランナーが一塁の場面を考察する。先ほどの場面毎のデータをみると、一塁の場面では、ツーシームの投球割合が高くなっている。ツーシームは他にも「一、二塁」「一、三塁」、および「満塁」の場面でも投球割合が高くなっている。
これらの場面に共通するのは、ゲッツーが狙える場面ということ。ツーシームは高速かつゴロ率が高い球種であり、盗塁を警戒しつつゴロを打たせたい場面で投球しているのだろう。

まとめ
ランナーなしの場面では速球の割合が高い
得点圏にランナーを置いた場面ではスライダーの割合が高く、満塁を含めてゲッツーが狙える場面ではツーシームの割合が高い
ランナーがいても球速は低下せず、得点圏にランナーを背負うと速球の球速は大きく上がる

今回はランナーが投球にどのような影響を与えているかに焦点を当ててきた。多かれ少なかれ、ランナーの配置は投球に影響があると言える。
これらの結果は今までの経験や考えと一致していただろうか。主観的なアドバイスが必ずしもデータと一致しているとは限らない。野球を正しく理解していくためにも、日ごろから自身の常識を疑ってみることも必要ではないか。

<引用>
蔭山ら(2015). ワインドアップポジションとセットポジションからのストレートによる投球のバイオメカニクス的比較:高校野球投手における投球速度および投球動作中の下肢と体幹に着目して. 体育学研究 60:pp.737−757