打撃理論

重いバットで素振りをするとスイング速度は低下!?データで検証

試合において次に打席に入る打者は、ネクストバッターズサークルで待機しなければならない。このスペースは円滑に試合を進めるために設けられたものではあるが、集中力を高めたり、投手の動きを観察しタイミングを計ったりするなどの準備を行うスペースとして利用している選手が多いことだろう。

打席に入る前の準備の一つに、通常よりも重いバット(マスコットバットやドーナツ型のリングを付けたバット)で素振りを行うというウォームアップがある。この運動は、直後の打席においてバットが軽く感じられるため、スイング速度やインパクトの正確性の向上を狙ったものと考えられる。
しかし、打席に入る直前に重いバットを振るだけでこのような効果が期待できるのだろうか?このような疑問は、これまで多くの研究で議論されてきた。そこで今回はこれらの研究結果を紹介しながら、打席の直前に行う素振りの意味について考えてみたい。
参考:球児必見!自分に最適なバットの選び方

打撃前に行う素振りの効果とは!
ウォームアップで使用するバットの最適な重さとは!?
素振りの効果が持続するのはいつまで!?
素振りが正確性に与える効果とは

ウォームアップで使用するバットの最適な重さとは!?

素振りによるウォームアップの効果を検証した主な研究を表にまとめてみた。
期待通り、直後のスイング速度が増加するという報告もあれば、反対に低下するという報告もある。つまり、打席に入る前に何気なく行っている素振りはやり方によっては直後のスイング速度に必ず増加するわけではないということが分かる(表1)。
スイング速度が増加したケースと低下したケースを比較してみると、実験で使用されたバットの重さ(表中:通常のバットに対する質量比)が異なっている。中でも、スイング速度が低下したのは、通常のバットより70%以上重いものであった。

表1 素振りのウォームアップ効果を検証した先行研究

打席で使用する通常のバットはおよそ900グラムである。スイング速度が増加した時のバットは、通常のバットの±10%以内、もしくは‐70%の重さであった。繰り返しになるが、スイング速度が低下した時のバットは、通常のバットより70%以上重いものであった。

これらの結果からウォームアップとして素振りで用いるバットを考えると、通常のバットよりも極端に軽いものか、硬式野球の場合では軟式用バットやマスコットバットなど通常のバットから逸脱しない重さのバットを用いることが有効だと言える。

バットに取り付けるリングやパワーラップなどはそれ自体の重さがおよそ600㌘あるため、バットに取り付けて使用すると通常のバットよりも70%以上重くなってしまう。
したがって、このような用具を使って素振りを行う場合には直後のスイング速度が低下する可能性があることを理解しておかなければならない。

素振りの効果が持続するのはいつまで!?

ただし、このウォームアップ効果はいつまでも持続するわけではなく、1分半程度(投球数に換算すると2、3球程度)で消失してしまう(樋口ら、2013)。打席に入って3球目以降も素振りのウォームアップ効果を期待したい場合は、打席を外して再度素振りを行う必要がある。

これらの研究は最大努力による素振りを5回程度行わせた直後に計測された結果だが、実際の試合では最大努力で素振りをする選手もいれば、軽く振り回す程度の選手もいる。
そこで重さの異なる3本のバット(通常のバット、通常より25%軽いバット、通常より30%重いバット)を用いて、50%と100%の努力度で素振りを行った後のスイング速度を比較してみた。

結果としては、100%の努力度で素振りした直後は、どのバットでもスイング速度の向上(約1%の増加)がみられたが、50%の努力度ではウォームアップの効果は表れなかった(森下ら、2015)。
運動生理学の研究では、短時間かつ高強度で運動した後、一時的に筋の力発揮能力が増強されるという現象が表れることが知られている。この現象は活動後増強(PAP)と呼ばれているが、最大努力の素振りにおいて直後のスイング速度が向上する要因の一つにはPAPによるものと考えられるだろう。
参考:打者は体が大きい方がスイング速度が速い!?

通常のバットより70%以上重いバットではスイング速度が向上しなかった要因は、関節運動のタイミングが本来のものに比べて変化したことが影響していると考えられている(Southard & Groomer, 2003)。

素振りによるウォームアップに関する研究結果のまとめ

重いバットでの素振りはスイング速度を低下させる危険性あり

ここまで素振りのウォームアップ効果が直後のスイング速度に及ぼす影響について考えてきたが、インパクトの正確性にはどのような影響を及ぼすのだろうか?

樋口ら(2013)は、通常のバットと加重されたバットで素振りを行った直後のティー打撃において、ボールインパクトの瞬間のボール中心とバットの芯との距離を比較し、両条件間に有意な差はみられなかった報告している。この結果は投球されたボールを打撃したものではないため、これだけでは素振りがインパクトの正確性に影響するかどうかは判断しきれない。しかしながら、少なくとも静止したボールを打撃することにおいては、加重されたバットでの素振りは正確性にプラスの影響をもたらさないと言えるだろう。

素振りのウォームアップ効果について現状で分かっていることは、通常のバットから逸脱した重さでない限り、最大努力で行えば直後のスイング速度が僅かではあるが向上するということである。そして、リングなどで加重したバットを用いた素振りはスイング速度を低下させる危険があるということだ。打席に入る前のルーティンの一つとしてウォームアップも見直すことで打撃パフォーマンスが改善できる可能性があることを知っておきたい。

森下 義隆(もりした よしたか)

国立スポーツ科学センタースポーツ研究部研究員。日本女子ソフトボール代表チームの医・科学サポートを担当。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科にて博士号(スポーツ科学)を取得。バイオメカニクスが専門であり、打撃動作のメカニズムやパフォーマンス評価が主な研究テーマ。

引用:
・DeRenn, C., Ho, K.W., Hetzler R.K., and Chai, D.X. (1992): Effects of Warm Up With Various Weighted Implements On Baseball Bat Swing Velocity, Journal of Strength & Conditioning Research, 6(4), 214-218.
・Otsuji, T., Kinoshita, H. (2002): After-effects of using a weighted bat on subsequent swing velocity and batters’ perceptions of swing velocity and heaviness, Perceptual & Motor Skills, 94(1), 119-126.
・Southard, D., and Groomer, L. (2003): Warm-up with baseball bats of varying moments of inertia: Effect on bat velocity and swing pattern, Research Quarterly for Exercise & Sport, 74(3), 270-276.
・Montoya, B.S., Brown, L.E., Coburn J.W., Zinder S.M. (2009): Effect of warm-up with different weighted bats on normal baseball bat velocity, Journal of Strength & Conditioning Research, 23(5), 1566-1569.
・Higuchi, T., Nagami, T., Mizuguchi, N., Anderson, T. (2013): The acute and chronic effects of isometric contraction conditioning on baseball bat velocity, Journal of Strength & Conditioning Research, 27(1), 216-222.
・樋口貴俊, 永見智行, 宮本直和, 彼末一之. (2013): 野球打撃前に行う加重したバットでの素振りがバット速度と正確さに及ぼす影響, 東京体育学研究, 4, 17-22.
・森下義隆, 谷中拓哉, 矢内利政. (2015): 素振りによるウォームアップの違いが直後のバットスイングに及ぼす効果―バットの質量とスイングの努力度による影響, 日本野球科学研究会第3回大会報告集, 46-47.