ポジション別OPSからみる構成のヒント

NPBは全球団が残り20試合を切り、シーズンもいよいよ終盤に差し掛かってきました。今シーズンの最終順位をかけたせめぎあいはもちろんのこと、ドラフトをはじめとした来季以降の編成もいよいよ本格化してきています。
今回は、これまでと少し視点を変えて、編成や運用といった監督やGM目線で有用なデータを紹介します。
OPSの有効性
今回はポジション別のOPSを使って、編成のヒントとなる考え方を紹介します。
この考え方を紹介するにあたり、まずはOPSの有効性を確認しなければなりません。
OPSは、出塁率と長打率の和で求めることが出来ます。
日本ではまだまだ打率等での評価が多くみられますが、MLBではTV中継でもOPSが表示されるなど、ポピュラーな指標になりつつあります。
打率よりも得点の相関が高いことで知られ、算出方法も容易であることから、打者の能力を測るうえで優秀な指標であるとされています。
得点との相関が高いということは、チームの平均OPSが高いと、得点する可能性が高まることとなります。
つまり、どれだけOPSの高い選手を起用できるかがチームの得点には非常に重要であるということです。
OPSが高い選手を獲得すれば良いわけではない
OPSの高い選手をたくさん獲得すれば良いのかというと、そういうわけではありません。
当たり前のことなのですが、野球のポジションは9カ所ありますが、一塁手しか守れないOPSの高い選手が5人いたとしても、そのうちの一人しか出場することができません。
ですから、それぞれそのポジションをこなせることが条件となりますが、OPSの高い選手を各ポジションにまんべんなく配置することが重要となります。
OPSの高いポジションはどこか
NPB | 捕手 | 一塁手 | 二塁手 | 三塁手 | 遊撃手 | 左翼手 | 中堅手 | 右翼手 | 指名打者 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
OPS | .592 | .765 | .693 | .713 | .694 | .806 | .707 | .743 | .752 |
バラツキ | .054 | .080 | .123 | .078 | .102 | .107 | .108 | 0.092 | .072 |
※バラツキとはOPSの標準偏差のことで、値が大きければ大きいほどそのポジションの選手の差が大きいことになります。
表1をみると、一塁手、左翼手、指名打者といったポジションのOPSが高いことがわかります。
いかがでしょう?イメージ通りではないでしょうか?
これらは、クリーンナップを打つ打者や、助っ人外国人打者を起用しているチームも多く、打線の中心となるポジションです。また、バラツキをみると、一塁手や指名打者はバラツキが小さく、どの球団も強打者を据えているといえるでしょう。
また、これらのポジションに打撃能力が低い選手を起用すると、他球団に大きく差をつけられてしまうことを意味しています。特に左翼手では、平均OPSが高いにもかかわらず、バラツキも大きくなっています。つまり、強打者を据えているチームとそうでないチームの差が大きいということになります。
差がつきやすい二塁手の攻撃力
また、最も注目すべきは二塁手です。二塁手は、捕手に続いて平均OPSが低いにもかかわらず、バラツキが最も大きいポジションです。つまり、言い換えれば、「他球団と大きく差をつけられるポジション」ということになります。
MLBでも、「セカンドベースマンレボリューション」と題して、二塁手に強打者を置くことで打線に強みを作るという取り組みをみせている球団もあります。
NPBでも、今シーズンは巨人のマギー選手や、楽天銀次選手といった攻撃的な選手が二塁手として打線を活性化させています。
多少守備に目をつぶってでも、打撃で大きく差をつけられる二塁手や、そもそも打力の低い選手が多い捕手に、どんな選手を起用するかは、編成で大きなポイントとなるかもしれません。
編成・育成の可能性
捕手や二塁手に打力の高い選手を起用することで、打線が活性化することを紹介してきました。
マギー選手のように、打力の高い選手を「起用する」だけでなく、今後は「打てる捕手」、「打てる二塁手」を「育成」することが求められるでしょう。
先日甲子園でも大きな活躍を見せた広陵高校の中村選手は、捕手という打力の低いポジションなだけに、活躍すれば、チームにとって大きな財産となるでしょう。
一方で、早稲田実業高校の清宮選手は、高校通算本塁打記録で1位になるなどプロでも活躍が期待できる強打者です。しかし、守備は一塁手。プロの中でも強打者ぞろいのポジションで強みを発揮しなくてはなりません。良い打者ではありますが、他球団と大きな差を生み出すにはよほどの結果を出さなくてはならないでしょう。
まだ10代と伸び盛りの選手です。強打の二塁手として育てるといった奇抜な育成プランの球団が出てきたならば、非常に面白いかもしれません。
Baseball Geeksでは、打撃編と題して、打球速度や打球角度の重要性を紹介してきました。
参考:【打撃特集1】上から叩くな!新しいスイング理論
これらの記事は、直接的にプレーヤーや指導者のヒントとなるデータでした。これらと比べると、今回の内容は一風変わった視点かもしれません。
しかし、実は選手自身にも非常に有用なデータなのです。
今後「打てる捕手」、「打てる二塁手」の価値はどんどん上がっていきます。選手が理解し、それらのポジションに取り組む選手が増えることで、日本野球のレベルはますます上がっていくでしょう。
近い将来、二塁手や捕手が打撃タイトルを席巻するような新時代の到来を楽しみにしたいと思います。