田中将大2017年分析 ~0.2%の魔球~

13勝12敗

13勝12敗防御率4.74。
これが2017 年の田中将大投手(以下、田中投手)の最終成績でした。抜群の安定感を誇っていた田中投手にとってキャリア初と言っても良いほど浮き沈みの激しいシーズンとなりました。
快投と炎上を繰り返し、その度にニューヨークのファンも称賛と非難を繰り返しました。

今回は、そんな田中投手の投球を昨シーズンと比較し、今シーズンの投球を振り返ります。さらには、それらを踏まえて来シーズンの活躍のカギを探っていきます。

各球種の球速と投球割合

高速変化球は健在

まずは、田中投手の今シーズンの各球種の球速と投球割合を昨シーズンと比較していきます【表1】。

表1 田中投手の各球種の球速と投球割合比較
球種平均球速
(km/h)
平均球速
(%)
投球割合
(%)
4シーム149→1481006→14
2シーム146→14798→9922→20
カットボール140→14197→979→4
スプリット140→14194→9530→25
スライダー136→13691→9228→32
カーブ122→12482→836→6

値は左から、昨シーズン→今シーズン

平均球速をみると、昨シーズンとほぼ同様であることがわかります。しかし投球割合は少しずつ変化を見せています。球速以外の部分に変化が起きていたのでしょうか。
参考:田中将大投手2016シーズン分析

各球種のスピンレートとボール変化

すべてのボールが沈み気味に…?

球速は昨シーズンとほとんど変わらなかった田中投手ですが、ボール変化量は大きく変わっています【表2】。

表2 田中投手の各球種のスピンレートとボール変化量比較
球種スピンレート
(rpm)
縦変化
(cm)
横変化
(cm)
4シーム2248→223350→4130→22
2シーム2024→206333→2439→41
カットボール2145→230637→2819→3
スプリット1586→149020→832→32
スライダー2226→236822→9-2→-9
カーブ2321→2446-13→-19-16→-20

値は左から、昨シーズン→今シーズン

最も注目すべきは、縦の変化量です。表2をみると、全球種でホップ成分が小さくなっているのです。

今年のMLBは過去最多の本塁打が飛び出し、いわゆる「フライボール革命」が加速した年でした。田中投手もリーグ3位となる35本塁打を浴びてしまい、大量得点の大きな原因でもありました。
アッパースイング気味に、ボールを打ち上げるように打撃する打者たちに対し、全ての球種が「沈み気味」であった田中投手のボールが見事にマッチしてしまったのでしょう。
ボールが沈んでしまったことこそが波に乗り切れなかった最大の理由でしょう。

リリースポイントの比較

腕の振りが横振りに?

なぜすべてのボールのホップ成分が小さくなってしまったのでしょうか。リリースポイントを比較してみます【表3】。

表3 田中投手のリリースポイント比較
球種リリース高
(cm)
リリース横
(cm)
エクステンション
(cm)
4シーム162→15948→51180→179

値は左から、昨シーズン→今シーズン

表3をみると、昨シーズンよりもリリース高が下がっていることがわかります。元々リリースポイントが非常に低いのが田中投手の特徴でした(MLB平均182cm)。
しかし今シーズンは、更にリリースが下がり腕が「横振り」気味のフォームになってしまったのでしょう。その結果、ボールの回転軸がよりライフル回転気味となり、ボールのホップが小さくなってしまった(※回転軸と変化の大きさの関係は参考記事に詳細)のです。
低いリリース位置から低めにボールが沈んでくる軌道は、まさにアッパースイングの格好の餌食となってしまいました。
参考:メジャーリーグで投球される球質の特徴

怪我の功名

驚異のスプリットは0.2%の魔球!

腕が横振りになり、ボールのホップ成分が小さくなってしまったことが、成績悪化の原因でした。しかしながら、このことにより手に入れた魔球があったのです。

田中投手の昨シーズンと今シーズンの全投球のボール変化量をプロットしました【図1、2】。
図1、2を比較して、今シーズンに急増した変化量のボールがあります。それは図の原点よりも右下に到達しているスプリットです。

図1 2016年の田中投手のボール変化量
図2 2017年の田中投手のボール変化量

イメージしやすいように、今シーズンのスプリットのみを取り出してみます【図3】。

図3 2017年の田中投手のスプリットのボール変化量

確かに一部のボールが原点よりも右下にボールが到達していることがわかるでしょう。
原点よりも下にボールが到達しているということは、ボールの回転がトップスピンしているということになります。

スプリットでトップスピンと言われてもピンとこない方が多いでしょう。
それもそのはずです。通常のスプリットはバックスピンしているため、図1のように原点よりも右上に到達するのがほとんどだからです。

このようなトップスピンのスプリットは非常に珍しく、なんとMLBの2017年全投球のうち0.2%しか投球されていなかったのです。

今シーズンの田中投手はリリースが横振りになったことで、スプリットを投球する際に「人差し指を最後まで縫い目に引っ掛けながらボールを抜く」ようなリリースが出来るようになり(手元にボールがある方は実演してみてください)、トップスピンのスプリットが投球できるようになったのでしょう。
この0.2%ゾーンのスプリットは、MLBでは「現代の魔球」とも呼ばれています。好不調を繰り返しながら、田中投手は打者が見たことのない魔球を習得したのです。

来シーズン田中将大にかかる期待

浮き沈みの激しい今シーズンでしたが、来シーズンは、どうなるのでしょうか。ポストシーズンの田中投手のボール変化量をから来シーズンの期待がうかがえます【図4】。

図4 ポストシーズンの田中投手の各球種のボール変化量

ポストシーズンでは3試合に先発し全試合で好投しました。
好投を裏付けるように、先ほど紹介したトップスピンのスプリットを多数投球しています。
さらに、4シームのホップ成分が、シーズン中よりも大きくなっています(シーズン平均41cm→ポストシーズン平均44cm)。

田中投手が「ハイブリッドな投手と」呼ばれていた所以は、ホップ成分の大きな4シームと落差のあるスプリットを両方有していたことでした。
今シーズンは4シームのホップが小さくなってしまっていましたが、今シーズン更に落差を増したスプリットに加え、昨シーズンのような4シームを投球できれば、両球種の威力は更に増し、ポストシーズンのような圧倒的な投球を見せてくれるでしょう

シーズン中は非難と称賛を繰り返されてきましたが、ポストシーズンでの大活躍で、ヤンキースファンの期待は再び大きなものとなっています。さらにはナ・リーグ本塁打王J.スタントンの加入もあり、来シーズンのチームに世界一への期待は膨らむばかりです。
世界一、そしてサイヤング賞に挑む田中投手に来シーズンも大注目です。

Baseball Geeks編集部

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