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球速に影響を与える遺伝要因とは?身長、筋力データで検証!

野球選手の競技力には個人差が存在する。小学生チームにおける同学年の選手、またはある球団のプロ野球選手という特定の集団における投、打、守、走などの能力差は何に起因するのか。イチロー選手や大谷選手の活躍は、才能(遺伝要因、先天的)か努力(環境要因、後天的)か、といったことに興味のある方もいるかもしれない。
今回は、過去の研究知見に基づき、特にボール投げ能力の個人差に影響を与える要因について遺伝・環境要因の観点から掘り下げて考えてみたい。
参考:子どもの運動能力は遺伝?それとも環境?

目次:球速に影響を与える遺伝要因とは?
身長は速いボールを投げるための要素のひとつ
身長は遺伝の影響が大きい
筋力は環境の影響も十分ある

身長は速いボールを投げるための要素のひとつ

まずは、投球において非常に重要な投球スピードと身長の関係を見てみよう(図1)。筆者が投球スピードと身長の関係について検討したところ、両者には正の相関関係が示された(著者調査、文献1)。この検証は、幅広い年齢かつ、野球経験者と未経験者それぞれを対象に行った。これらのデータから、身長が高いと投球スピードが速いということがわかる。
参考:打者は体が大きい方が有利!?データで検証!

図1 身長と投球スピードの関係(文献1より)

図2にあるように、関節の回転運動では末端の速度は回転半径×回転の速さで決定する。これを投球動作に当てはめると、身体の末端の手に握ったボール速度は、回転半径(体の長さ)に影響を受けることになる。回転の速さが変わらない場合、身長が高いほど末端のボール速度は速くなる

図2 体の長さと筋力が投球スピードに及ぼす影響の簡易図

これまでの研究(文献1、2)によると、野球選手の投球スピードは、身長1センチあたり0.75から1.16キロ速いことが分かっている。プロ野球投手の平均身長が182センチであることからも、速いボールを投げるために身長が大きな影響を与えていることは理解できる。
一方で、プロ野球には身長が160センチ台でも150キロを超えるボールを投げる選手もいる。また、今回報告した研究データや知見は、限られた対象から得たものであるから、身長は速いボールを投げるための要素のひとつと理解するのがよいと思う。

身長は遺伝の影響が大きい

人間の形質や機能に対する遺伝および環境要因の影響を検討するために、一卵性双生児および二卵生双生児を対象とした研究が数多く行われてきた。様々な国の一卵性双生児を対象とした研究によると、身長の遺伝率は約80%である(文献3)。
さらに、一卵性双子児を対象に、身長が大きく増加するタイミング(早熟、晩熟)の遺伝要因を検討した研究によると、性別を問わず遺伝率は80%を超える(文献4)。このように、身長および身長増加が大きいタイミングには遺伝要因が大きいようだ。

筋力は環境の影響も十分ある

関節の回転の速さは、筋力などの力発揮能力に依存する。また、回転半径(体の長さ)が大きいほど関節は回転しづらくなる(慣性モーメントが大きくなる)ため、関節を動かすための筋力が不足していれば速いボールを投げることはできない。
筋力に影響を与える体重、筋量などの身体組織量は、基本的に身長に比例する。一方、筋力と投球スピードの関係は、体格の影響を考慮した場合においても正の相関関係がある(著者研究、文献5)。筋には大きな力を出すことができる速筋と持久力に優れた遅筋がある。速筋と遅筋の割合(筋線維組成)の遺伝率は45%である(文献6)。

さらに、筋力、跳躍力などの力発揮能力の遺伝要因に関する知見を総括した報告によると、それらに対する遺伝要因の割合遺伝率は49-56%であり、遺伝率は年齢経過とともに小さくなる(文献7)。
このように、力発揮能力は身長よりも遺伝要因が小さく、トレーニングなどの環境要因(後天的要因)の影響も大きいと考えらえる。なお、筋力トレーニングの効果に対する遺伝要因に関する研究報告は少なく、今のところ科学的根拠に基づいて説明することはできない。

表1 各項目別の遺伝率(投球に影響を与えるもの)
項目遺伝率
身長80%
身長増加のタイミング80%
筋線維組成45%
筋力49-56%

遺伝子要因だけでは説明できない複雑な投球動作

速いボールを投げる能力に対する遺伝要因の影響は、回転半径(体の長さ)において高く、筋力などの力発揮能力において中程度であった。しかしながら、図1をみると、同じ身長でも投球スピードには大きな個人差(ばらつき)がある。
また、野球選手と野球未経験者の投球スピードの差は大きい。このような差は身長や筋力だけでは説明することは難しい。投球動作は複雑で習得するのが難しい。それは投球スピ―ドの個人差には技術的な要因、つまり環境要因(後天的要因)が大きいことを意味している。この点については次項にて考察してみたい。

勝亦陽一(かつまたよういち)
東京農業大学応用生物科学部 准教授。野球の能力に影響する環境要因・生まれ月・競技開始年齢・兄弟構成・練習頻度、などの調査研究等を行っている。中・高校生向けのトレーニング指導や講演(「考えてバッティングをするための科学的アプローチ」等)も多数行っている。
【勝亦氏のプロフィールはこちら】http://yo1walker.wixsite.com/katsumata-yoichi
【勝亦氏のTwitterはこちら】https://twitter.com/Katsumata_Yo

参考文献:
1.勝亦陽一 (2019) 成長期野球選手における投球障害と身体発育の関係, トレーニング科学, 印刷中.
2.Sgroi T., et al (2015) Predictors of throwing velocity in youth and adolescent pitchers, J Shoulder Elbow Surg., 24(9): 1339-45.
3.Silventoinen K., et al (2003) Heritability of adult body height: a comparative study of twin cohorts in eight countries, Twin Res., 6(5):399-408.
4.Wehkalampi K., et al (2003) Genetic and environmental influences on pubertal timing assessed by height growth, Am J Hum Biol.,20(4):417-23.
5.勝亦陽一 (2006) 筋形態および機能からみた投球速度の規定因子,学位論文(修士),早稲田大学人間科学学術院.
6. Simoneau JA., and Bouchard C. (1995) Genetic determinism of fiber type proportion in human skeletal muscle, FASEB J, 9(11): 1091-5.
7.Zempo H., et al (2017) Heritability estimates of muscle strength-related phenotypes: A systematic review and meta-analysis, Scand J Med Sci Sports., 27(12): 1537-1546.