投球理論

捕手のキャッチング技術を評価する指標「フレーミング」とは?

「フレーミング」という言葉をご存知だろうか。近年注目されている捕手の技術であり、メジャーリーグでは評価方法の一つとして獲得基準にしている球団もある。
具体的には、ストライクゾーンに投球されたボールを確実にストライク判定にする、またボールゾーンに投球されたボールをストライク判定に変えるといった捕手のキャッチング技術のことである。今回は、昨シーズンのメジャーリーグのデータを使い、このフレーミングの秘密を探っていきたい。

捕手のキャッチング技術を評価する指標「フレーミング」とは?
勝敗にも関わりうるフレーミング技術
最もフレーミング技術が高いチームは?
ストライクになりにくい球種は何?

トラッキングデータでの分析

メジャーリーグでは全試合でトラッキングデータを測定している。このデータの中には投球がホームベースのどこに到達したかが分かる座標データがある。到達位置がセンチ単位で分かるようになったため、実際の判定とどのような差異が生まれたのかが定量的に示せるようになった。
回りくどい説明になったが、具体的には「ボールゾーンに来たのに見逃しストライクを奪った」や「ストライクゾーンに来たのにボール判定された」事象が毎球分かるようになったため、これまで曖昧であった捕手のフレーミング能力を探れるようになったのである。
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勝敗にも関わりうるフレーミング技術

では実際に、チームごとにフレーミング能力のランキングを見てみよう。まずはストライクゾーンにきたボールをどの程度ストライクにしているのかを比較する(表1)。

表1 チーム別ストライク維持ランキング
順位チームストライクゾーン
→ボール判定割合
1ダイヤモンドバックス10.0%
2ヤンキース11.2%
3インディアンズ11.2%
4レッドソックス11.6%
5ブルージェイズ11.7%
26ジャイアンツ13.9%
27ロイヤルズ14.0%
28ホワイトソックス15.2%
29レンジャーズ15.6%
30レッズ16.0%
メジャー平均-12.8%

※2018年MLBデータ

打撃を除くすべてのストライクゾーンへの投球のうち、最も「ストライクをストライクにした」チームはダイヤモンドバックスであった。なんと最下位のレッズとは約6%も差があり、100球をストライクゾーン内に投球したと仮定すると、6球も判定に差が出てしまう。一球の判定が勝敗を分ける事もあり、大きな差だと言えるだろう。

「ビッグデータ・ベースボール(トラヴィス・ソーチック,桑田健 2016)」によると、現ドジャースのラッセル・マーティンは2007年からの5年間で、フレーミングにより70点の失点を防いでいたとも言われている。これは、フレーミング技術勝敗にも関わりうる非常に重要なデータであることを裏付けている。

続いて「ボールをストライクに変えた」チームを見てみる。ストライクゾーンからボール1個分外れたゾーンを設定し、そのゾーンに投球されたボールの中で最もストライク判定を稼いでいたチームを調べてみると、1位はこちらもダイヤモンドバックスであった(表2)。

表2 チーム別ストライク奪取ランキング
順位チームボールゾーン
→ストライク判定割合
1ダイヤモンドバックス32.3%
2ドジャース29.7%
3ブルージェイズ28.8%
4ヤンキース28.1%
5ブレーブス26.5%
6カージナルス20.6%
7メッツ20.2%
8レイズ20.0%
9レンジャース19.5%
10レッズ19.1%
メジャー平均-23.7%

※2018年MLBデータ

ボールゾーンで見逃しストライクを奪えると、投手有利なカウントに持っていくだけでなく、その後際どいコースで空振りを誘う上でも有効である。最下位のレッズとは10%以上も差がついており、キャッチング技術に差があることがうかがいしれる。

ダイヤモンドバックスとレッズを比較すると、低めのコースや両サイドで判定に大きな差が見られており、それらのコースを上手く捕球することが改善のポイントとなるかもしれない(図1,2)。

図1 ダイヤモンドバックス フレーミング技術
図2 レッズ フレーミング技術

また、興味深い点は、先ほどのランキングと少し違ったチームも登場してきている事である。どちらも好成績を残すダイヤモンドバックスのようなチームもあれば、ドジャースのように「ボールにさせない事」よりも「ストライクに変えること」に注力しているチームもあった。
近年メジャーリーグでは「キャッチングコーチ」を配置するチームも急増してきており、フレーミングの意識や戦略は今後も重要視されていくだろう。

ストライクになりにくい球種とは?

最後に、球種毎にフレーミングの効果をみていきたい。先ほど使ったボールゾーンに加え、ストライクゾーンのボール一個分内側を含めたゾーン、つまりは境界線をまたいでストライクかボールかの境目となる際どいコースを設定し、そのゾーンに投球された際にどれくらいストライクになったかを見てみる(表3)。

表3 きわどいコースでストライク判定された球種
順位球種きわどいゾーン
→ストライク判定割合
1ツーシーム25.3%
2カットボール25.3%
3カーブ23.5%
4スライダー23.3%
5チェンジアップ23.2%
6速球23.0%
7スプリット21.8%

※2018年MLBデータ

ツーシームカットボールに続きカーブストライク判定されやすいという結果であった。ツーシームやカットボールは速球とピッチトンネル(※)を構成しやすく、審判も手元まで球種を判断するのが難しいためフレーミング技術でストライクに変えやすいのだろう。逆に、カーブは低速であるため軌道が読みやすく、審判は判定しやすいボールだと考えられる。

※ピッチトンネル:打者が球種やコース、スイングの判断ができる限界地点に設けられたトンネルのような仮想空間のこと。投手が投球する複数の球種がトンネルを通った場合、打者は球種を判断することが難しくその後の軌道を予測することも困難となる。

最もストライクになりにくかった球種はスプリットやチェンジアップといった落ちるボールや、最もスピードが速い速球であった。落ちるボールはいわゆる「ミットが落ちやすい」のであろう。速球は意外かもしれないが、審判が速球を基準に軌道をイメージして待っているため、判定を覆すのは簡単でないのかもしれない。
球種別にデータを見ていくと、捕手の技術に加えて審判の判定しやすさも影響を与える事が推察できた。捕手はそれらの特性も頭に入れながらコース選択やフレーミング戦略をたてるべきなのであろう。
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ここまで捕手のフレーミングについて考えてきたが、トラッキングデータはこれまで曖昧だったキャッチング能力を定量的に示すことができる点で非常に有用であることが分かった。
また、審判が判定しやすいところを理解することにより、それを逆手に取るようなボールを多投するチームも出てくるだろうし、独立リーグで試験的に実施されている機械判定のための知見にもなりうるだろう。
読者の皆さんも、これまであまり注目されなかった「フレーミング」を野球観戦の楽しみの一つとして注目してはいかがだろうか。
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