打撃理論

軸足に体重をのせて打てはホント?スイング速度を上げるためのメカニズム

打球速度が大きくなると単打や長打の確率が増加すること、そして打球速度が主にバットのスイング速度で決定することはこれまでの記事で説明されてきた。
このバットのスイング速度は、身体を高速に回転させ、その回転の勢いをバットに伝達させることによって生み出されている。そのため、スイング速度を高めるには、如何にして身体を勢いよく回転させるかが重要なポイントとなる。
参考:バットを短く持つとスイング速度は上がるのか!?理論で検証!

一般的に打撃動作において身体を鋭く回転させるためには、軸足に体重を乗せる、踏出し足でカベを作るなど、下半身の使い方が重要視される。今回は、身体がどのようなメカニズムで回転しているのかを、力学的な視点で考えてみたい。

スイング速度を高める「回転運動」とは?
身体が回転するメカニズム
地面を蹴る力が大きな回転運動を生み出す
踏出し足の地面反力がスイング速度を高める鍵になる

身体が回転するメカニズム

回転運動を引き起こす原動力となっているのは、打者が地面を蹴るときに生じる反作用の力である。この力は『地面反力』と呼ばれ、打者が地面に加えた力と同じ大きさで、かつ逆方向に作用する力である。そのため、地面を蹴った力が大きければ大きいほど、地面反力も大きくなる

右打者の打撃動作を例に説明すると、投手側の足(左足)を踏み込んでスイング動作に入るとき、左足は一塁方向に、捕手側の足(右足)は背中方向へ地面を蹴ることになる。このとき、両足には地面反力が作用するため、左足は背中方向へ、右足は一塁方向へ力を受けることになる(図1)。

図1 身体が投手方向へ回転するメカニズム(右打者を頭上からみた視点)
両足が地面を蹴る力の反作用の力(地面反力)が両足に加わることでモーメントが発生し、身体が投手方向へ回転する。

物体は、回転の中心(重心)から離れた位置に力が加わると回転が生じる。そのことから、回転の中心となる打者の重心から離れた位置に地面反力が加わることによって、重心を回転させようとする効果が発生する。これが、身体が投手方向に回転するメカニズムである。

大きな回転運動を生み出す地面を蹴る力

実際にスイング中に両足が地面を蹴る力を頭上からみてみると図2のようになる。地面を蹴る力は下方向も含まれるが、ここでは分かりやすくするため、前後・左右方向(水平方向)のみに着目する。図2にはスイングの開始時点(ボールインパクトの約0.2秒前)からボールインパクトまでの局面における力の方向と大きさを示している。これを見ると、軸足となる右足はスイング開始直後、捕手方向に地面を蹴っており、その後、インパクトに向けて背中側に地面を蹴っていることが分かる。

図2 打者が地面に加えた力
矢印の長さは力の大きさを表す。矢印先端の数字はスイング中の時間に相当する。

一方、踏出し足となる左足はスイングの中盤あたりで一塁方向に地面を強く蹴っており、インパクト付近ではほとんど力を加えていない。この力の最大値は、左足が体重の約60%、右足が約35%になる。そのため、軸足よりも踏出し足の方が大きな地面反力を受けることになるため、踏出し足の方が大きなモーメントを生み出していると考えられる。矢内(2007)の研究では踏出し足は軸足の約2倍のモーメントを生み出していることが報告されている。

表1 スイング中の両足に加わる地面反力と力のモーメント

物体を回転させようする効果(モーメント)は、物体の重心から力の作用点までの距離と作用する力の大きさで決まる、ということを以前の記事で説明した。
参考:球児必見!自分に最適なバットの選び方

したがって、打撃において大きな回転運動を生み出すためには、踏出し足で強く地面を蹴ることを最大化できるような打撃動作が望ましいと言える。右打者でこのような動作を考えると、重心からより離れた位置に左足をステップしつつ(ステップ幅を広げつつ)、1塁方向へ強く踏み込むことが重要になるだろう。

しかし、闇雲にステップ幅を広げることは危険である。繰り返すがモーメントを大きくするためには、重心から離れた位置に大きな力を加える必要がある。ステップ幅が広すぎると踏み込みの力が小さくなってしまうこともあるため、モーメントが最大化されるステップ幅を個々で見つける必要がある

踏出し足と軸足のバランス

では、軸足が回転運動において重要ではないかとういうとそういう訳ではない。軸足が生み出すモーメントは踏出し足の半分とはいえ、両足で生み出すモーメントの約1/3を占めている。また、踏出し足で地面を強く踏み込むためには、投手方向へ重心を移動させるという動作が必要になる。この重心を投手方向へ送り出すという役割を担っているが軸足になる。
捕手方向に強く地面を蹴ることで重心は投手方向に加速され、それによる重心の移動速度が大きいほど踏出し足で重心移動に強いブレーキをかけることができる、つまり強く踏み込むことができるのである。

左右の足に作用する地面反力の違いから分かるように、打撃における踏出し足と軸足の役割は異なる。力学的には軸足で投手方向へ重心を加速させ、踏出し足で強く地面を蹴ることがスイング速度を高める上で重要な動作と言える。
しかし、投球されたボールの到達位置の予測や予測した位置へタイミングよくバットの芯を移動できないと、強い打球を飛ばすことができない。選手には回転運動のメカニズムを理解した上で、最終的な打撃パフォーマンスである打球の角度や飛距離に着目し、個々に合った動作を獲得してもらいたい

まとめ
身体を回転運動させるためには、地面を蹴ったときに生じる地面反力が必要
踏出し足は軸足の約2倍のモーメントを生み出している
踏出し足で強く地面を蹴ることが、スイング速度を高める上で重要
森下 義隆(もりした よしたか)

国立スポーツ科学センタースポーツ研究部研究員。日本女子ソフトボール代表チームの医・科学サポートを担当。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科にて博士号(スポーツ科学)を取得。バイオメカニクスが専門であり、打撃動作のメカニズムやパフォーマンス評価が主な研究テーマ。

参考文献:
矢内利政(2007):野球のバッティングにおける重心移動と回転運動―Deterministic model を利用した分析―,バイオメカニクス研究,11(3),200-212.