アストロズ世界一の立役者! J. バーランダーは如何にしてモデルチェンジしたのか。

世界一の立役者

2017年ワールドシリーズは、数々の激戦の末にアストロズが球団史上初の世界一に輝きました。その中にあって、ひときわ輝きをみせたのが、J. バーランダー選手(以下、バーランダー)でした。

バーランダーは、昨シーズン惜しくもサイヤング賞を逃したものの、サイヤング賞投票2位と抜群の成績を残しました。

今シーズンは、8月終了時までの防御率が3点台後半と、低調な投球が続いていたものの、8月31日にタイガースからアストロズへ移籍すると、ポストシーズンにかけて9連勝(シーズンは5勝)という大車輪の働きをみせ、世界一の立役者ともいえる活躍でした。

バーランダーはなぜ移籍後にここまで成績を好転させたのでしょうか?
今回は、今シーズンレギュラーシーズンのバーランダーの移籍前後の投球を比較していきたいと思います。

各球種の空振り割合

全球種の空振り割合が急増

まずは、移籍前後で各球種の空振り割合がどう変化したかをみていきます【表1,2】。

全球種で空振り割合が増加していることがわかります。

表1 バーランダー移籍前の各球種の空振り割合
球種投球数スイング数空振り数空振り割合
4シーム170484913816%
スライダー64535710931%
チェンジアップ121601220%
カーブ4931804223%

投球割合1%以下の球種は非表示

表2 バーランダー移籍後の各球種の空振り割合
球種投球数スイング数空振り数空振り割合
4シーム3111673722%
スライダー120682740%
チェンジアップ144250%
カーブ7225832%

投球割合1%以下の球種は非表示

なぜ全球種で空振り割合が急増したのでしょうか。バーランダーが投球したボールを細かくみていきます。

各球種の球速と投球割合

スライダーが低速に

まずは、各球種の球速と、投球割合をみてみます【表3、4】。
投球割合は、移籍後にカーブとチェンジアップが減り、4シームとスライダーが増加しています。特に、右打者に対しては、4シームが5%増加しています。

表3 バーランダー移籍前の各球種の球速と投球割合
球種平均球速
(km/h)
平均球速
(%)
投球割合
(%)
対右投球割合
(%)
対左投球割合
(%)
4シーム154100575657
スライダー14293212518
チェンジアップ14192426
カーブ13084161518

投球割合1%以下の球種は非表示

表4 バーランダー移籍後の各球種の球速と投球割合
球種平均球速
(km/h)
平均球速
(%)
投球割合
(%)
対右投球割合
(%)
対左投球割合
(%)
4シーム153100606157
スライダー13990232718
チェンジアップ14090306
カーブ1298414919

投球割合1%以下の球種は非表示

また、球速では、4シームの球速は変化していません。一方で移籍後はスライダーが約3km/hも低速になっているのが特徴です。スライダーは4シームに次ぐ投球割合の球種であるため、大きなモデルチェンジといえるでしょう。
そしてこのスライダーが低速になったのは、変化量に大きな変化がみられたからなのです。

各球種のボール変化量と成分表

球種間の「差」で4シームが復活

図1、2に移籍前後のそれぞれのボール変化量を示しました(薄色はMLB平均)。

図1 バーランダー移籍前の各球種のボール変化量
図2 バーランダー移籍後の各球種のボール変化量

図1、2を比べると、スライダーとチェンジアップが移籍後は移籍前よりも沈んでいることがわかります。チェンジアップは移籍前よりも約5cm沈み、スライダーは移籍前よりも約10cmも沈んでいるのです。
球速が低下した理由は、ボールに力をかける向きが変わり、回転が変化したからでしょう。そして、このモデルチェンジこそバーランダーが移籍後に活躍した秘密なのです【表5、6】。

表5 バーランダー移籍前の各球種のスピンレートとボール変化量
球種スピンレート
(rpm)
縦の変化量
(cm)
横の変化量
(cm)
4シーム25364434
スライダー250618-3
チェンジアップ18012042
カーブ2796-25-23

投球割合1%以下の球種は非表示

表6 バーランダー移籍後の各球種のスピンレートとボール変化量
球種スピンレート
(rpm)
縦の変化量
(cm)
横の変化量
(cm)
4シーム25674536
スライダー26307-6
チェンジアップ17681446
カーブ2845-26-20

投球割合1%以下の球種は非表示

バーランダーは昨シーズン、MLB平均よりもホップ成分の大きな4シームを投球していました。
しかし、今シーズンはホップがやや減り4シームがシュートしていることで、他の球種との変化の「差」が小さくなってしまったのでしょう。

移籍後はスライダー、チェンジアップのホップ成分が小さくなり(より沈み)、4シームとのホップ成分の「差」が大きくなりました
打者は4シームのホップや、変化球の落差をより感じるようになり、昨シーズンのように空振りを奪えるようになったのです。

バーランダーの方策は全投手に有効なのか

バーランダーは、スライダーやチェンジアップの変化を変えることで4シームと変化の「差」を生み出し、より4シームや変化球の威力を高めることに成功しました。

同様に、各球種の変化の「差」が小さくなってしまうケースは、今シーズン序盤の田中将大投手にもみられました。田中投手は、昨シーズンと比べて2シームとスプリットの変化の差が小さくなり、自慢のスプリットで空振りを奪えず、失点する試合もありました。
参考:田中将大「"サイヤング賞"への道」

このように変化の「差」を生み出す事は有効な方策です。
しかし逆に変化の「差」がない球種では、「4シームと同じような軌道を描くチェンジアップ」のように奥行きの「差」を生み出す事が出来、緩急で勝負する投手にとっては非常に有効な方策となります。

その投手の持ち球や、球質の特徴によっても有効な方策は変わります。
トラッキングデータの普及によって投手の「球質」を定量化することができるようになりました。今後も投手の新たな武器がうまれるにあたり、トラッキングデータは必要不可欠なツールになっていくのではないでしょうか。

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