ヘッドを立てるってどういうこと?打球角度との関係に迫る!

前回(9/1記事)は「ボールを押し込む」という野球言語について解説した。

今回はバットの「ヘッドを立てる」または「ヘッドが立つ」という野球用語について科学的な視点で考えてみる。

目次:ヘッドを立てるってどういうこと?打球角度との関係に迫る!
「ヘッドを立てる」とは感覚を伝える指導言語
ヘッドを下げることは打球角度に影響する

ヘッドを立てるとはどういうことなのか

バッティングにおいて「ヘッドを立てる」ことについて、多くの選手が意識して練習をした経験があるのではないだろうか。これは、ヘッドが立っているスイングの方がヘッドが立っていないスイングよりも強い打球や適正な角度の打球が打てると考えられているからだろう。

この言語をそのまま実践すると、ヘッドがグリップよりも高い位置のままスイングし、インパクトを迎えることになる。しかしながら、インパクトの瞬間におけるバットの角度を観察してみると、よほど高いボールを打たない限り、ヘッドとグリップはそのような位置関係にはならない。基本的にヘッドはグリップよりも下側に位置しているのだ。

インパクトの瞬間バットヘッドはグリップよりも「下がって」いる(写真はpixabayより)

実際にはヘッドは立っていないため、「ヘッドを立てる」ということは「ヘッドを立てるような感覚」でスイングすることが重要ということであろう。つまり、ヘッドが下がり過ぎないようにスイングの軌道を修正するための指導言語であると考えられる。
では、インパクトにおいてヘッドが下がり過ぎないとどのような利点があるのだろうか。

ヘッドを下げると打球にどう影響する?

まず、インパクトのヘッドの角度は打球速度には影響を与えない。前回のコラムでも説明したが、打球の質(速度、回転、角度)は、インパクト直前のバットのスイング速度・軌道とバットに対するボールのインパクト位置によって、ほとんどが決まってしまうからである。
参考:ボールを押し込むと強い打球が打てるって本当?

そこで、ここでは単純にインパクトのときのバットの上下方向の角度が打球にどのような影響を与えるのか考えてみたい。

1.ヘッドが地面と水平であった場合

打撃面がセンター方向を向き、かつ地面と水平になったバットに投球されたボールが正面衝突する場合※、打球はライナー性となりセンター方向に向かって飛んでいく。そして、バットの上側や下側にボールが当たると、打球はフライやゴロになるだろう(図1)。

※バットとボールは互いに水平移動していると仮定

図1 バットが地面と平行かつ打撃面がセンター方向を向いている場合。バットのどこにボールが当たっても打球はセンター方向に飛ぶ

では、ヘッドが下がった場合打球はどのように飛ぶだろうか。

2.ヘッドが下がっている場合

右打者の打球を考えてみる。先ほどと同様にボールとバットが正面衝突すれば、打球はセンター方向に飛ぶ。しかし、バットの上側にボールが当たった場合、打球はフライ性になるだけではなく、ライト方向に飛ぶことになる。反対にバットの下側にボールが当たると、打球はゴロになり、かつレフト方向に飛ぶことになる(図2)。図中の打球方向で示している通り、バットとボールの衝突位置は打球の左右方向にも影響を与えるのだ。

図2 図1の状態からヘッドが下がった場合。ボールの衝突位置の違いによって打球が左右方向に飛ぶ

バットの打撃面が打球方向を向いていないにも関わらず打球が左右方向に飛ぶのは、バットの打撃面が円柱になっているためである。よって、ボールがバットの上側に当たった場合、ヘッドが下がっているほど左右方向への角度がつきやすくなり、打球は上がりづらくなる。同様の場合にヘッドを下げずにインパクトすると、打球が上がりやすくなる

この章では衝突現象をかなり限定したモデルとして説明してきたが、実際の野球選手の打撃動作を分析した研究においても同様の事が確認されている(城所・矢内、2015)。バットの打撃面がセンターやレフトの方向を向いていてもライト方向に打球を飛ばせることが分かっている(「逆方向に引っ張る」ことは感覚的ではなく、実際に可能)。

これらの知見から、インパクトのヘッドの角度は、打球の角度に影響を与えることがわかった。「ヘッドを立てるような感覚」でスイングすることは、ゴロをライナーにしたり、ライナーをフライにするなど、打球の角度を上げることに役立っているのかも知れない。

指導言語を洗練させる

「ボールを押し込む」、「ヘッドを立てる」というような指導言語は主観的であり、多様な解釈が可能である。今回は「ヘッドを立てる」を扱ったが、インパクトで実際にヘッドを立てることが重要なのではなく、ヘッドを立てようと意識することで、別の効果をもたらす場合もある。「ボールを押し込む」も同様であろう。

技術の感覚的な解釈は、単純化されていてわかりやすい一方で、実際とのズレも生じる。しかし、研究活動を通して明らかになったことは、複雑でわかりにくい。だから、わかりやすく咀嚼する必要がある。指導言語の科学的解釈が進み、より洗練されて誤りの少ないものになれば、多くの選手の技術力向上を促すと考える。

森下 義隆(もりした よしたか)

国立スポーツ科学センタースポーツ研究部研究員。日本女子ソフトボール代表チームの医・科学サポートを担当。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科にて博士号(スポーツ科学)を取得。バイオメカニクスが専門であり、打撃動作のメカニズムやパフォーマンス評価が主な研究テーマ。

引用:
城所収二, 矢内利政 (2015): 野球における『流し打ち』を可能にするもう一つのインパクトメカニズム, 体育学研究, 60(1), 103-115

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