トラックマンでわかる打者大谷のスゴさと弱点【後編】

最高打球速度180キロ超えの大谷翔平。後半戦への活躍に期待が高まる
写真はGetty imageより

メジャーリーグ中継でよく目にするトラッキングデータ。今まで使われていた三振、本塁打といった結果データだけでなく、打球の速度や角度といったプレーそのものを数値化した数々のデータを取得できるようになった。今回は、「トラッキングデータ」を使って大谷の弱点について分析してみよう。※本記事は7月24日発売のslugger9月号に掲載

参考:トラックマンでわかる打者大谷のスゴさと弱点【前編】

弱点はゴロ割合!シフトの網にも…?

打者大谷の弱点もデータから見えてくる。ここで注目するべきは「ゴロ割合」だ。打率3割を超えていた5月上旬まではゴロ割合がメジャー平均よりも低かったものの、調子の下がった5月後半以降ゴロ打球が非常に多くなった。ゴロが増えるとなぜいけないのか。実はゴロ打球とフライ打球では結果に明確な差があるのだ。

図1 大谷のゴロ割合推移。4月後半、5月前半はゴロ割合が低かった

次に、2017年の打球種別ごとの結果をみていく。ゴロと外野フライを比較すると、外野フライやライナーは本塁打の確率はもちろんのこと、安打や長打の確率も高かったのだ(表1)。

表1 2017年メジャーリーグの打球の種類別結果割合。外野フライはゴロよりも安打や長打の確率が高い
打球の種類発生割合安打確率長打確率本塁打確率
ゴロ45%25% 2%0%
ライナー25% 65%23%3%
外野フライ22% 27%23%18%
内野フライ7% 2%0%0%

実は、その背景には「守備シフト」の影響もある。メジャーリーグでは各チームのデータ分析が進み、守備シフトを盛んに敷くようになった。それぞれの打者の打球傾向によって守備位置を配置するため、ゴロ打球で野手の間を抜くのが尚更難しくなったのだ。そして、それらの知見を得たメジャーリーグの打者たちは、より長打になりやすく得点に貢献するフライ打球を狙いはじめた。これがメジャーリーグで流行するフライボール革命が起きた背景だ。

先ほども紹介したように、大谷は平均打球速度が速い。フライ打球を打つことが出来れば長打になる可能性が高く、如何にフライ打球を打てるかがポイントのひとつとなるだろう。

表2 2018年大谷の左右投手別打球割合
月別MLB平均対左投手対右投手
外野フライ22%4%25%
ゴロ45%70%46%
ライナー25%17%25%
内野フライ7%9%4%

また、もう一つの課題として、左投手相手の成績が挙げられる。打球の割合をみると左投手相手になると極端にゴロ割合が増加していることがわかる(表2)。左投手克服のためには、このゴロ割合を減らす努力が必要といえるだろう。

打者大谷飛躍のカギとは!?

ここまでトラッキングデータを使って打者大谷の凄さと弱点を分析してきた。それでは、打者大谷のさらなる活躍のためにどのように弱点を克服すれば良いのだろうか。
先ほど紹介したように、メジャーリーグでは極端な守備シフトを敷く場面が多く、ゴロ割合の高い大谷は守備シフトの網にかかるケースも多い。7月には守備シフトをあざ笑うかのようなセーフティバントを試みる場面もあったが、あくまで暫定的な対処法に過ぎず、ベストな対策とは言えない。やはり多くのメジャーリーガーのように守備シフトの頭を越すような長打を狙うことが必要だろう。

ではどうすれば長打を打てるのだろうか。繰り返すようだが大谷は打球速度が非常に速い。とするとポイントは「打球角度」となる。
メジャーリーグではフライボール革命が起こり、フライ打球を狙う打者が増加した。そして、メジャーリーグのアナリストは膨大なトラッキングデータをもとに「バレル」という新たな指標を創出した。バレルとは打球速度と打球角度の組み合わせで構成されるゾーンの事で、そのゾーンに入った打球は必ず打率5割以上となる。バレルの最低条件である打球速度時速158キロの際には打球角度26°~30°の角度の範囲でバレルとなる。このバレルとなる範囲は打球速度が速くなれば速くなるほど広がっていく。
参考:【打撃特集2】注目の指標バレルとは?打球速度と打球角度の重要性

バレルに代表されるように、打球速度を高めることはもちろん「適切な打球角度」で打つことも非常に重要なのだ。

「当てに行く」よりも「空振り許容でフライを狙う」べき!?

最後に「ボールの投球されたゾーン」に注目して打球の特性をみてみる。2017年のメジャーリーグの全打球のうち、ストライクゾーンを打った打球のデータをそれぞれのコースごとに平均(右打者は反転)した。これをみると、真ん中のコースや高めは打球飛距離が最も大きくなっている。また、高めは打球角度が大きく、フライになりやすい。

そして、低めは打球角度が小さく、ゴロになりやすいこともわかる。細かいコースをみていくと、内角高めは打球速度こそ遅いものの角度がつけやすくなる。外角低めは打球速度も打球角度も高めにくくなっている。このようにコースごとに傾向が分かれており、それらはスイングの傾向とマッチしている。

図2 コース別の平均打球飛距離(メートル)
図3 コース別の平均打球速度(キロ)
図4 コース別の平均打球角度(°)

投球されたコース別に打球特性をみた研究では、高めを打撃する際にはスイングの角度が大きくなりやすい(アッパースイング気味になりやすい)ことがわかっている。同じく低めを打撃する際にはスイングの角度が小さくなりやすく、これが打球角度の低さにつながっているのだろう。サンプルこそ少ないものの、大谷のデータも同様の傾向を示しており、低めを打撃するとゴロになる確率も高まる。

打者大谷さらなる活躍の鍵は?!

それらのデータを踏まえて、大谷のさらなる活躍のためには、低めのボールに手を出さず、高めのボールを狙うことが打球の角度を高め、長打を増やすためのポイントの一つとなるだろう。通常、打球速度が速い打者は空振りの割合も高まりやすい。高い打球速度で打つためには空振りをしてでも「強く振る」事が必要なのだろう。大谷は低めのきわどいボールや、小さく高速に変化する2シームなどのボールに対して「当てられる」器用さを持っている。

しかし、逆に打球の角度をつけにくい難しいボールに対して空振りせずにゴロ打球をフィールド内に打ってしまっているのかもしれない。今後、大谷の打撃をみる際は、空振りや三振の数ではなく、打球がゴロになっているかフライになっているかをみるべきで、それが調子のパラメータとなるだろう。

もちろん「打者」として長期的に見た場合筋量を増加させてスイング速度を高め、アッパー気味のスイングで長打を狙う方法もある。しかしながら、大谷は多くの技術要素を含む「投手」としての活躍も目指さなければならない。本稿では残念ながら「投手」大谷には触れていないが、メジャーでも通用する多くの強みや活躍のための課題を持っており、「投手」としてのさらなるパフォーマンス向上も考えたトレーニングを考えるべきだろう。今後もBaseball Geeks本編では投打にわたる大谷の分析も行っていく。前代未聞といわれた二刀流として活躍するため、必ずしも従来のような方法ではなく、大谷オリジナルの進化を見せてくれることを期待したい。

引用:森下ら:投球コースの違いがバットスイングに及ぼす影響 プロ野球選手と大学野球選手との比較 (野球科学研究会広告集,126-127,2016)

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