ランナーがいる場面で投球はどう変化するのか

「満塁だからピッチャーは真っすぐがくるぞ!」や「ランナー1塁だから落ちる球でゲッツー狙いでくるぞ!」というようなアドバイスを監督やコーチに言われた経験はありませんか。これらのアドバイスは本当に正しいのでしょうか。
今回はMLB2017年の全投球約71万球のデータをもとに、ランナーの状況によって投球がどのように変化していくのか見ていきます。これまでの常識が本当だったのか、実際の数値で検証していきましょう。

ランナー有無による投球の変化

まずは、ランナーの有無によって、球種がどのように変化するのかを見ていきます。表1に、ランナーありの場面となしの場面での各球種の投球割合を示しました【表1】。

表1 ランナー有無による各球種の投球割合
球種ランナー無ランナー有
4シーム36.4%34.5%
2シーム19.9%20.4%
スライダー15.6%17.6%
カーブ11.2%10.5%
チェンジアップ10.2%10.0%
カットボール4.8%5.1%
スプリット1.5%1.5%

投球割合順

大きな差がみられたのは、4シームスライダーの2球種です。4シームはランナーありの場面で投球割合が減少し、反対にスライダーは上昇しています。
スライダーは空振り率が高く、4シームは空振り率が低いことを以前のコラムで紹介しました。このことから、ランナーありの場面では空振りを狙い、ランナーなしの場面では打者に打たせようという投手の意図がみえます。
>参考:真っ向勝負は時代遅れ?球種別のイベントの特徴!

続いて球速はどのように変化するのでしょうか。
ランナーありの場面となしの場面での各球種の平均球速を表2に示しました【表2】。一般的に、セットポジションから投球されたボールは球速が減少すると考えられており、ワインドアップとセットポジションの球速を比べた研究では、セットポジションは有意に球速が低かったという報告もあります(蔭山ほか、2015)。
実際にどのような結果となるのでしょうか?

表2 ランナー有無による各球種の平均球速
球種ランナー無
(km/h)
ランナー有
(km/h)
4シーム149.9150.1
2シーム148.1148.5
スライダー135.9136.3
カーブ126.2126.8
チェンジアップ135.6135.4
カットボール142.2142.5
スプリット136.2136.2

投球割合順

意外なことに、チェンジアップ以外全ての球種で球速が上がっています。つまり、球速が減少するどころか、むしろセットポジションのほうが、球速が増加していることがわかります。
この秘密は、のちほど明らかとなります。

場面の変化による投球の変化

次に、さらに細かく場面を分類した表を見ていきます。下の表はそれぞれのランナーの配置による各球種の投球割合を示しています【表3】。
先ほど扱った4シームとスライダーを中心に、ランナーなしと比較しながら見ていきます。

表3 場面別による各球種の投球割合
球種一塁二塁三塁一・二塁一・三塁二・三塁満塁
4シーム36.4%36.0%32.9%33.2%33.7%32.8%32.4%35.5%
2シーム19.9%21.9%18.2%18.5%20.1%20.5%17.9%20.4%
スライダー15.6%16.1%18.5%18.8%18.5%18.9%20.4%18.8%
カーブ11.2%9.2%12.0%12.4%11.3%10.8%11.3%10.1%
チェンジアップ10.2%10.0%10.9%9.9%9.6%9.8%9.9%8.3%
カットボール4.8%5.0%5.2%5.3%5.0%5.0%6.0%5.2%
スプリット1.5%1.4%1.8%1.3%1.6%1.6%1.6%1.4%

ランナー1塁であっても速球の投球割合は高くならない

4シームはランナーなしの場面で最も投球されています。また、ランナー1塁の場面では、「盗塁を警戒する」と言われますが、速球系(4シーム+2シーム)と変化球の割合に、大きな変化はありません。
しかし、MLBの投手は「盗塁させない事」よりも「打たれない事」を優先して投球しているのかもしれません。日本ではクイックや牽制を得意とする投手も多く、日本で検証すると、投球割合は変化するかもしれません。

場面によって変化する4シームの球速

表4に各場面の4シームの球速を示しました【表4】。

表4 各場面における4シームの平均球速
球種
(km/h)

(km/h)
一塁
(km/h)
二塁
(km/h)
三塁
(km/h)
一・二塁
(km/h)
一・三塁
(km/h)
二・三塁
(km/h)
満塁
(km/h)
4シーム149.8149.6149.9150.4150.1150.0150.4150.9

ランナー満塁の場面での4シームが一番速いことがわかります。ピンチの場面で投手の「ギアが上がる」というような表現がありますが、データからも同様のことが言えます。
また、先ほどランナーありの場面では変化球の割合を増やして空振りを狙っていると述べましたが、空振りを奪いにくい4シームでは、球速を上げることで空振りを狙っているのかもしれません。先ほどランナーがいるときほど球速が高かった理由は、ピンチになればなるほど力を入れて投球しているからなのでしょう。

空振りを取りたい場面でのスライダー

スライダーは、ランナー2、3塁の場面で最も投球されています。ランナーありのなかでも特に得点圏での投球割合が高いことがわかります。得点圏にランナーを背負っているほど空振りが高いスライダーで、三振を狙っていると言えます。
しかし、満塁での投球割合は2、3塁に比べてやや低い値となっています。これは、満塁になると、ゲッツーを狙って、ゴロ割合の高い2シームの投球割合を増やしていることが要因だと考えられます。

ランナーなしでは4シームの、得点圏の場面ではスライダーの投球割合が高いことがわかりました。では、これらのどちらにも該当しない「ランナー1塁」の場面はどうでしょうか。

ランナー1塁で投球される2シーム

ランナー1塁の場面では、2シームの投球割合が高くなっていることがわかります。さらに、1、2塁・1、3塁、および満塁の場面でも投球割合が高くなっています。これらの場面に共通することは、ゲッツーが狙える場面であるということです。2シームは高速かつゴロ率が高い球種なので、盗塁を警戒しつつゴロを打たせたい場面で投球していると言えそうです。

まとめ

今回はランナーが投球にどのような影響を与えているかに焦点を当ててきました。多かれ少なかれ、ランナーの配置は投球に影響があることがわかりました。それでは今回のレポートをまとめてみましょう。

まとめ
ランナーなしの場面では4シームの割合が高い。
得点圏場面ではスライダーの割合が高い。しかし、満塁を含めてゲッツーが狙える場面では2シームの割合が高い。
ランナーがいても球速は低下せず、得点圏にランナーを背負うと4シームの球速は大きく上がる。

これらの結果をみてどのように感じたでしょうか。自分の今までの経験や考えと一致していたでしょうか。主観的なアドバイスが必ずしもデータと一致しているとは限りません。
野球を正しく理解していくためにも、今回紹介したようなデータを日ごろから活用してみてはいかがでしょうか。

引用
蔭山ら(2015). ワインドアップポジションとセットポジションからのストレートによる投球のバイオメカニクス的比較:高校野球投手における投球速度および投球動作中の下肢と体幹に着目して. 体育学研究 60:737-757

Baseball Geeks編集部

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