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【野球選手の救急対応】ボールが身体に当たった時の対応〜頭部の場合〜

野球現場で起こりえる重篤な事故の1つが、デットボールやピッチャーライナーなどボールが頭部に当たることだ。頭部にボールが当たる怪我は頭部外傷の1つで、重篤な場合はその後の日常生活にも大きく影響を与える。そのため、迅速で的確な救急対応が求められる。
中でも脳振盪は、本人の自覚症状など見た目では大きな問題がないように見えるものの、脳には問題が生じていることが多い。近年では、それが野球の競技パフォーマンスにも強く影響を及ぼすとの報告がされている。そこで今回は、野球現場で起こりえる「頭部にボールなどが当たる」などの強い衝撃が加わった場合のファーストエイドについて紹介する。

競技パフォーマンスに影響を及ぼす脳振盪

メジャーリーガーを対象にした研究報告を紹介する(引用1)。デットボールなどによる脳振盪を受傷した選手の、競技復帰までの日数およびパフォーマンスについて、医学的に脳振盪が認められた場合とそうでない場合における調査結果だ。
医学的に問題のある脳振盪があった群と医学的に問題のある脳振盪がなかった群に分けて調査している。脳振盪が起きたシーズンと翌年のシーズンの、野手のパフォーマンス結果を比較した結果である。

それによると、医学的に脳振盪が認められなかった場合の競技復帰までの平均日数8日であったのに対して、脳振盪が認められた場合の競技復帰までの平均日数は26日であった。
また、医学的に脳振盪があった群となかった群に分け、脳振盪が起きたシーズンと翌年のシーズンの野手のパフォーマンス結果を比較した結果、打率、出塁率、盗塁成功において医学的問題がなかった群の方が脳振盪あり群に比べて有意に低下していた。つまり、脳震盪があった選手は翌シーズン、パフォーマンスが落ちる傾向があるということだ。

脳は認知判断をする重要な機能を持っているため、どのように相手のボールを打つか、ストライクとボールの判断、そして盗塁のスタート判断には脳機能が深く関与すると考えらえる。したがって、脳振盪による脳へのダメージは認知判断機能と低下させ、その結果としてこれらのパフォーマンスに差が生じたと考えられる。
つまり、明らかな脳振盪が医学的に認められる場合には、競技復帰に脳の十分な回復を望むための日数が必要であると同時に、その影響が競技パフォーマンスにも深く関係すると考えるべきである。そして、現場で安易な判断をしないよう努めるよう心がけることが必要となる。

なお、脳振盪含めた衝撃を頭部に受けた後、短期間に再び頭部に衝撃を受けたことで致命的な損傷を受けることを「セカンドインパクトシンドローム」を呼ぶ。これは絶対起こしてはならない。また、脳振盪によって生じる意識障害は経過によって症状は変化する可能性が十分あるため、その後の経過観察を1日必ず怠らないようにすべきである(図1、引用2)。

図1 頭部外傷による意識障害の経過(第2版頭部外傷10か条の提言より引用)

頭部に大きな衝撃が加わった際の対応方法

頭部に大きな衝撃が加わり、頭部外傷が疑われる場合には、選手が仰向け、うつ伏せ、うずくまった姿勢のどの体勢で倒れたとしても、まずは頭部が動かないように固定することを最優先にして行う(図2)。

図2 頭部外傷が起きた際にファーストエイド(固定)

次に、その固定した状態で、脳振盪や頭部外傷、頚部の症状を確認する。そして、それらに問題がなければその場の安全確保して複数名で動かす。なお、頭部への衝撃に対して、なぜ頚部の症状を確認するかというと、頭部への強い衝撃は頚部への負担も生じる可能性もあるため、大事をとって頭部と頚部の両方の確認をすることが必要だからである。

頭部に大きな衝撃が加わった事によってケガをした選手がその場から動けず、現状が正しく評価できない場合や頭頚部外傷の症状が疑われる場合は、頭部を固定して原則救急隊を待って対応する。このような状態の中で、どうしてもその場から動かさなければならない場合は、頭部および身体をしっかりと固定することが可能な脊柱ボードやスクープストレッチャーを用いての搬送をする。

ただし、搬送機材を使用した搬送方法が未熟な者が対応した場合には、症状が悪化することもあるため、搬送方法の技術を保持していること、搬送するための十分な人数がいることが必要になることを忘れてはならない

いざという時の迅速なファーストエイド対応

近年における投手の投球速度は向上し、それに伴い打球速度も著しく向上している。その結果として、その衝撃も増加することを考えると、ボールが身体にあたる衝撃も強くなり、特に頭部への衝撃が大きくなれば、頭部への事故の危険性も高くなる。実際に、頭部外傷による死亡事故や高度障害になってしまう事例は実在し、近年では野球選手の頭部外傷に関するニュースを昔より多く見るようになってきた。

さらに、先述したように医学的な脳振盪症状があると野手のパフォーマンスを低下させる可能性が高いことを考えると、迅速な応急手当は選手の命に限らず、選手生命を守るためには求められてくる。もしものために、速やかな対応ができるようにするためのフローチャートを図3に示した。いざという時の迅速なファーストエイド対応ができる一助となれば幸いである。

図3 頭部外傷が疑われる場合のフローチャートの1例
笠原 政志(かさはら まさし)

国際武道大学准教授、学術博士(体育学)、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、NSCA認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト、日本トレーニング指導者協会公認上級トレーニング指導士、JPSUスポーツトレーナー、専門はアスレティックトレーニング、コンディショニング科学。現在は国際武道大学にてアスレティックトレーナー教育を行いながら、アスリートの競技力向上と傷害予防に関わる研究活動を行っている。

引用文献
1) Ramkumar PN, Navarro SM, Haeberle HS, et l: Short-term outcomes of concussions in major league baseball-a historical cohort study of return to play, performance, longevity, and financial impact, Orthopaedic journal of sports medicine,6(12):1-7,2018.
2) 日本臨床スポーツ医学会学術委員会脳神経外科部会編集第2版頭部外傷10か条の提言,日本臨床スポーツ医学会,2015.