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【野球選手の救急対応②】ボールが身体に当たった時の対応〜胸の場合〜

日本スポーツ振興センターが取りまとめている野球現場における死亡事故事例13年間をまとめると、野球現場で起こりえる重篤な事故で最も多いのが心臓系突然死となっている(1)。
特に野球における心臓系突然死の大多数は、胸部にボールが当たったことで起こる心臓震盪が原因となっている。この心臓震盪とは前胸部に加えられた機械的刺激により発生した心停止と定義されており、その半数以上は野球やソフトボールが占めている(2)。

心臓系突然死に対するファーストエイド方法は、心肺蘇生法とAED実施であることは多くの方は「知っている」であろう。しかし、「多くの人がいる中で、突然目の前で選手が倒れた時に、迅速かつ正確に心肺蘇生法とAEDを実施することはできますか」と問われたら、あなたはどうだろうか?
そこで、今回は胸部にボールが当たったことで生じる心臓震盪に対して”知っている”から”できる”ようにするためのファーストエイドについて紹介する。
参考:【野球選手の救急対応】ボールが身体に当たった時の対応〜頭部の場合〜

野球現場に必要な心肺蘇生とAEDの早期対応

データで見た心肺蘇生とAED対応時の社会復帰率

昨今では、学校やスポーツ現場に必ず1台はAEDが設置されており、その重要性は多くに浸透している。では心肺蘇生法とAED実施の有無が社会復帰率(元の生活に戻れた)にどの程度影響するのだろうか。
図1は総務省消防庁が発表している心肺停止状態を一般市民(医師や救急救命士など以外)がみつけた場合にとった救急対応別の社会復帰率を示したものである(2)。1年間で約25,000人がその対象者になった中で、心肺蘇生法を実施しなかった場合の社会復帰率はたった4.6%であったのに対して、心肺蘇生法を実施した場合だと2.6倍の11.9%になる

図1 心肺蘇生法とAED実施の有無別にみた社会復帰率

さらに、心肺蘇生法に加えてAEDを実施した場合だと社会復帰率は45.7%と心肺蘇生法を実施しなかった場合と比べて約10倍にもなる(図1)。
つまり、心肺蘇生法やAEDを実施するかしないかで、社会復帰率は大きく異なる。特に心臓震盪は高確率で心臓が痙攣状態になる心室細動が観察されると報告されている(2)。

ボールが当たったら1分1秒でも早い心肺蘇生の実施を

AEDはこの心室細動時に有効なファーストエイド方法であるため、迅速にその対応をすることが生死を左右するといっても過言ではない(図2)。なお、この救急対応が1分遅れるごとに7〜10%の蘇生率が低下してしまうことを考えると、いかに早期対応するかが社会復帰に大きく影響すると考えるべきである。

図2 心停止の分類とAED対応となる心室細動

先述したように過去13年間の野球選手の死亡事故の大多数が心臓系突然死であり、そのほとんどが心臓震盪であることから考えると、野球のように頻繁にボールが胸部に当たる可能性がある現場では、その場にいる指導者や選手が、1分1秒でも早く心肺蘇生を実施すると同時に迅速にAED対応ができるよう準備すべきである。

救急対応の実施方法と注意点

心臓震盪に対するファーストエイドを実際に「できる」ようになるためには、その準備(心構え)が重要である。突然事故が起きた場合には、誰しもパニック状態に陥ることは十分予想される。そこで、いざという場面でも「できる」ようにするための心肺蘇生とAED実施のフローチャートとチェックポイントを図3に示した。

図3 心肺蘇生法とAEDのフローチャート

対応法① 倒れている選手を発見した時

まず倒れている選手を発見した場合には、肩を叩くことや呼びかけなどの刺激に対して目的のある反応があるかの確認をする。それがなければ協力者の要請(119番通報とAEDの手配)をする。
ただし、周囲に誰も協力者がおらず、近くにAEDがある場合には、119番通報と同時に救助者がAEDを取りにいく。なぜならば、AEDは心臓震盪に対する重要な救命対応になるからである。

対応法② 反応がなかった時

続いて、反応がなければ胸の動きを見て呼吸の確認をする。重要な点は、胸は動かず口だけが動いている「死戦期呼吸」を見逃さないことである。
本来は呼吸をしていないのに、誤って「死戦期呼吸」を呼吸していると判断してしまう場合があるので注意しなければならない。普段通りの呼吸がなく心肺蘇生法が必要になった場合には、胸骨圧迫(強く:約5cm、速く:100〜120回/分、絶え間なく:30回)と人工呼吸(2回:1秒間に1回)を実施する。
なお、直接口と口を接触する人工呼吸がためらわれる場合(口から出血している、人工呼吸用マスクがないなど)には、胸骨圧迫だけでもよい。
具体的な心肺蘇生法とAEDの実施方法ついては、各種ホームページ等に動画などで紹介されているためご参照されたい。

対応法③ AEDの実施

次に、事前準備としてはAED設置場所の把握と現場にAEDを持ってくるまでの所要時間の把握である。なお、AEDが設置してあっても、部活動時間は夕方なため、AEDが設置してある学校内に鍵が閉まっていてAED対応ができなかったという事例がある。そのため、いつでも取り出せる状況にあるのかの確認は事前にすべきである。
また、心肺蘇生法とAED実施のガイドラインは5年毎に改定される。したがって、指導現場に立つ者としては常にアップデートされることと同時に忘れないよう定期的な訓練をするように心がけるべきである

いざという時に「できる」にするための下記チェックポイントをぜひ参考にしてもらい。

事前準備

1、AED設置場所の把握
・常に取り出せる場所にAEDがあるか
2、場所の把握
・3分以内に持ってこれる場所に設置
3、定期的な心肺蘇生法とAEDの訓練
・5年毎に心肺蘇生法ガイドラインが変更になる

倒れてる選手を発見した場合

1、反応がなければ、119番通報とAED手配
・刺激や声かけに対して目的のある反応かどうか
2、普段通りの呼吸がなければ心肺蘇生法とAED
・口の動きでなく、胸の動きの有無のチェック
3、胸の水濡れ
・AEDパットを貼る場所が濡れていないかチェック

いつ起こるかわからない「いざという時」のために

胸にボールがあたって発症することが多い心臓震盪の半数以上が野球・ソフトボールであることを考えると、それに対するファーストエイド方法である心肺蘇生法とAEDを早期対応できるよう準備をしっかりとすべきである。先進国の諸外国ではスポーツ現場の指導者や学校の先生などの指導にあたるものは必ず、毎年心肺蘇生法とAEDの講習を受けることが義務になっているところがある。スポーツ現場でいざという時に「知っている」から「できる」ようになるために、今一度AEDの設置場所を確認し、心肺蘇生法とAED実施方法について確認するきっかけになれば幸いである。

1) 笠原政志:現場復帰に必要な早期心肺蘇生法とAED実施、ベースボールクリニック(7):66−67、2019.
2) 総務省消防庁平成30年度版救急救助の現状、救急編、https://www.fdma.go.jp/publication/rescue/items/kkkg_h30_01_kyukyu.pdf
3) 輿水健治:内科・その他の疾患とその予防−心臓震盪−、臨床スポーツ医学25(臨時増刊号):358−364、2008.
4) Maron BJ et al: Clinical profile and spectrum of commotio cordis, JAMA,287(9): 1142-1146, 2002.

笠原 政志(かさはら まさし)
国際武道大学体育学部/大学院武道・スポーツ研究科教授、学術博士(体育学)、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー。現在は国際武道大学にてアスレティックトレーナー教育を行いながら、科学的知見を基にした野球現場の安全安心な体制づくりと野球選手の競技力向上から傷害予防に関わるコンディショニングの情報発信を行っている。専門はアスレティックトレーニング、コンディショニング科学。