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投球後のアイシングは必要?野球選手に効果的なケアの方法

プロ野球や高校野球現場において投手が投球後に肩肘へのアイシングをしている光景を当たり前のように見かける。高校野球選手を対象にした肩肘へのアイシングに関する実態調査によると、アイシングを行なっている投手は84.5%おり、その内約60%の選手が「効果がある」と回答している(参考1、宮下ら)。しかし、アイシングをすると「だるくなる」、「動きにくくなる」などから、それを拒む選手もいる。
投球後に肩肘へのアイシングは本当に効果があるのだろうか。そこで今回は「状況に応じたアイシングの選択」という観点からアイシングの効果を整理し、その活用方法について紹介する。

目次:投球後のアイシングは必要?野球選手に効果的なケアの方法
なぜアイシングをする必要があるのか?
投手によって異なる投球後に感じる筋肉の痛み
投球後のアイシングの活用方法

野球選手はなぜアイシングをする必要があるの?

なぜ投球後に肩肘へのアイシングをするようになったのか?先行研究によると、100球前後の投球を繰り返すと、肩関節の可動域減少や肩関節周囲筋力低下といった肩関節機能が低下すると報告されている(参考2)。
この肩関節機能低下は投球障害発生の要因となるため、投球後にはその抑制および改善を図ることが求められる。その手段として取り組まれるようになったのがアイシングである。肩関節機能の低下は大きく以下の2つの要因に分けることができる。


(1)オーバーワークによって筋疲労したことにより筋や軟部組織が硬くなる場合
(2)肩肘を酷使したことにより痛みや炎症が発生した場合

もし肩関節機能低下を引き起こした要因が(1)であれば、軽運動やストレッチのような循環を良くする方法が必要となり、(2)であれば痛みや炎症を抑えるアイシングが必要となる(図1)。
参考:“練習前のストレッチは逆効果?野球選手が知っておくべき3つの方法

図1 症状に合わせた肩肘へのコンディショニングの捉え方

多くの現場では何が要因で肩関節機能低下が起きているかを確認もしくは推察することすらなく「投球動作の繰り返し→肩肘に炎症発生」という流れが出来上がってしまっているため、「投球後には肩肘へのアイシング」という対応が野球現場において一般化している。

投手によって異なる投球後に感じる筋肉の痛み

投手によって、投球後に感じる症状は本当に異なるのだろうか?筆者は、下記二人の投手に、「80球の投球をした後の肩肘に感じる筋肉痛」についてヒアリングした。

投手A:1年ぶりに全力投球をする
投手B:日々投球練習をしている

投手Bは投球直後に若干肩肘への痛みを感じているものの、一定時間が経過すると症状は鎮静化している。一方、投手Aは直後に筋肉の痛みが増し、その後時間が経過する度にその度合いは増加した(図2、参考3)。同じ投球数だとしても選手の状況によって肩肘の痛みは変わるのである。なぜこのような違いが生じるのであろうか?

図2 投球80球後の肩関節周囲に感じる筋の痛み(縦軸は痛みの程度を表すスケール)

筋肉痛は繰り返すと耐性ができる

筋肉は強制的に引き伸ばされると、その部位には軟部組織の損傷により強い筋肉痛が生じる。ただし、一度このような筋収縮が生じた部位にはそれに対する耐性ができるため、同程度の負荷を与えても一定期間は筋の微細損傷のような筋肉痛は生じない(参考4)。皆さんも久しぶりに運動すると筋肉痛が生じるが、それを繰り返していくと筋肉痛等が発生しなくなることを経験したことがあるであろう。

つまり、毎日のように繰り返しの投球がある場合、同様な負荷であるならば、その耐性が身体に培われているため筋や軟部組織の微細損傷のような炎症症状は生じにくくなり、投手Bは投球後の翌日には通常と同じような状態に戻ったのである。このような投手は、痛みや炎症症状があまり出ないため、アイシングの必要性は低い。一方で、投手Aは久しぶりの投球であったことから肩肘への強い筋肉痛が残存しており、アイシングの必要性は高いと言える。

投球フォームによっては痛みが出ることも

しかし、投球運動が習慣化されても、痛みが軽減されない場合がある。肩肘に負担が生じるような投球動作をしているためである。いわゆる投球動作不良がある場合には肩肘への負担を強いられ、金属疲労と同様に特定の場所への負担増大が炎症や痛みを発生させると考えられる。

普段から投球をしている選手でも、普段と違う環境(マウンドの硬さや傾斜、季節や対戦相手など)や投球内容(強度や球数など)によって普段よりもより大きな負荷が肩肘にかかることもある。そのため、久しぶりに投球をした場合のみに軟部組織損傷が生じているわけではなく、普段から投球している選手でも条件によっては十分肩肘への負担がかかっていることもある(表1)。

表1 投球後の肩肘痛を引き起こす要因

したがって、投球後に実施する肩肘へのアイシングは選手とヒアリングをしながら、様々な視点からその実施について検討してから行うことが必要である。

投球後のアイシングの活用方法

投球後に実施する肩肘へのアイシング方法について具体的にどのように実施したら良いのか先述したことを踏まえた1例について示す。

表2 投球後の肩肘へのアイシング実施方法

まずアイシング実施の有無については、選手の主観的にまず肩肘に熱感・強い張り・痛みを感じているかどうかである。この症状があればアイシングはそれらを鎮静化する役割があるため、適応になる。
次に、アイシング実施時間だが、こちらはあくまで投球後のコンディショニング(トリートメント)であるため、外傷後の応急手当と同様に実施する必要性は低い。したがって、季節や状況にもよるが10分程度でも症状を十分鎮静化させることが可能である。

写真 アイシング実施方法の例

なお、アイシングは熱感や痛みを鎮静化させることが狙いであるため、アイシング実施後には投球によって低下した機能改善を狙いとしたストレッチや軽運動を実施する。アイシング否定者の声としては「アイシングによって肩肘が硬くなる・だるくなる」などがある。
これは肩肘へのアイシング実施後にそれ以外のコンディショニングを何もしない結果として起こることが多い。したがって、選手の症状を確認した上でアイシングを実施し、投球後のコンディショニングをアイシングのみで終わらせないようにすることが必要である。

笠原 政志(かさはら まさし)

国際武道大学准教授、学術博士(体育学)、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、NSCA認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト、日本トレーニング指導者協会公認上級トレーニング指導士、JPSUスポーツトレーナー、専門はアスレティックトレーニング、コンディショニング科学。現在は国際武道大学にてアスレティックトレーナー教育を行いながら、アスリートの競技力向上と傷害予防に関わる研究活動を行っている。

参考文献
1)宮下浩二ら:高校野球の現場におけるアイシング実施の問題点−高校野球選手のアイシングに対する目的とその効果に関する実態調査−、野球科学研究3:1-10、2019.
2)柳澤修ら:高校生投手の投球数増加が身体諸機能に及ぼす影響-いわゆる100球肩の検証-.臨床スポーツ医学17(6):735-739、2000.
3)笠原政志:投球後における肩ヒジへのアイシング〜応急手当としてのアイシング?トリートメントとしてのアイシング?〜、野球のコンディショニング科学、ベースボールクリニック28(10):68―69、2018.
4)Nosaka K et al: How long does the protective effect on eccentric exercise-induced muscle damage last? ,Medicine and Science in Sports and Exercise33(9),1490–1495,2001.