投球理論

「胸を張って投げろ」は本当?投手の肩の柔軟性と球速の関係

投球動作において「肩が強い」といえば、ボールを投げる能力が高いことを意味し、パフォーマンスにおいて肩関節の重要性をうかがい知ることができる。また、怪我という観点からみても、肩を痛め手術にまで発展する選手も多い。
野球選手の肩の怪我の発生率の高さや重篤度から考えると、選手にとって肩という部位は非常にデリケートな部位であると言える。

ドジャースの前田健太選手は、ウォーミングアップで肩甲骨を大きく回す「マエケン体操」が有名である。また、エンゼルスの大谷翔平選手は「肩甲骨が柔らかい」と言われており(参考記事1)、肩甲骨の柔らかさがボール速度に貢献するだけでなく、怪我の予防にも寄与すると指摘されている。

そもそも、肩は関節である。しかし、どこからどこまでが「肩関節」なのかはあまり理解されていない。野球において肩に関する様々な見解は多いものの、それについて実際に理解している選手は少ないのではないだろうか。
今回は、野球選手にとって最も重要な体の部位といえる「肩関節」にフォーカスを当て、解剖学的な構造を整理するとともに、肩と投球の関係性について考えていきたい。

「胸を張って投げろ」は本当?投手の肩の柔軟性と球速の関係
人体最大の可動域を有する反面、不安定性も有する肩関節
投球に重要な動き!肩関節の内旋・外旋とはなにか?
「胸の張り」とは、肩甲骨の動きのこと

投球動作の主役!肩関節の「内旋」と「外旋」

投球動作に大きく関わるのが、肩関節の内旋と外旋という動きだ。肘関節を90°曲げ、肩関節を90°外転(側方に挙上)させた姿勢を0°とすると、手のひら側に動かす方向が内旋、手の甲側に動かす方向が外旋となる(図1)。

図1 肩関節の内旋・外旋(参考文献2)

肩関節の内旋動作は、身体動作の中でボール速度に最も影響を与えていることがわかっている(参考文献3)。投球時の関節運動の寄与を調査した研究によると、ボールリリース時のボール速度(100%)に対して、肩関節の内旋で34.1%、手関節の掌屈が17.7%、肘関節の伸展が15.2%、残りの33%はその他の腕や体幹の動きが寄与しており、いかに肩の内旋運動が重要であるかがわかる。

「肩関節」は5つの関節からできている

「肩」とひとことで言っても、肩関節は複数の関節によって成り立っている(図2)。いわゆる“肩関節”は、肩甲上腕関節(狭義の肩関節)のことであり、このほかにも肩鎖関節、胸鎖関節、肩峰下関節、肩甲胸郭関節(肩甲骨と胸郭)が肩関節に含まれる。

図2 肩関節の構造(参考文献4)

このように複合的な関節によって構成されることから、肩関節は人体最大の可動域を有する反面、不安定性も有する関節である。
肩関節の内旋の動きの重要性が明らかになっているが、単純に内旋と言っても、これら5つの肩関節が複雑に影響しあいながらボールを加速しているのである。それらは一体どのように影響しあっているのだろうか。

投球動作における肩関節外旋角度の構成

肩関節が最も外旋した姿勢を「肩関節最大外旋位」(図3)と呼び、ボールへのエネルギー伝達に影響する重要な局面として考えられている。また、最大外旋位が大きくなると、ボールを加速させる時間が長くなり、ボール速度を高める効果も期待できる

図3 肩関節最大外旋位のイメージ 写真:pixabayより

実際の投球動作(大学野球選手19名の平均値)において、肩関節最大外旋角度は145°であった。その内訳を調べると、肩甲上腕関節の外旋角度は105°、肩甲骨の後傾角度は25°(胸郭関節)、胸椎の伸展角度は10°(胸部を後方へ反らす動き)、その他は5°(肘の外反など)で構成される(図4、参考文献5)。
このように肩関節の最大外旋位の内訳は肩甲上腕関節の外旋が最も大きかったが、肩甲骨の後傾も大きく関与していた。

図4 肩関節最大外旋

『胸の張り』に大きく影響する肩甲骨の動き

投球において、肩関節を大きく外旋させるためには肩甲上腕関節と肩甲骨の動きが重要であることがわかった。

最大外旋の局面を指導の現場では、「胸の張り」とも言うことがあり、その効果については、①腕が振れるようになり球速が上がる、②打者に対してボールの出所が最後まで読まれにくい、③「肘下がり」を改善できる、④肩関節に加わる負荷を減少できる、と考えられている。
投球動作中の肩甲骨の動きを明らかにする研究は始まったばかりであり、まだ課題も多い(参考文献6)。今後知見が蓄積されることによって、パフォーマンス向上や障害予防の観点から新たな発見があるだろう。

まとめ
「肩」は複数の関節から構成されている
投球動作では、肩関節の内旋・外旋が最も重要な動き
「胸の張り」とは、肩甲骨の動きのこと

平山大作(ひらやまだいさく)
筑波大学スポーツR&Dコア 研究員。野球の投球動作や野球選手の体力測定について、スポーツ医学およびスポーツバイオメカニクスの観点から調査研究等を行っている。日本野球科学研究会第2回大会・第6回大会実行委員。

参考文献・記事:
1.川村卓:「球速180キロが限界か」専門家が大谷翔平を超える夢の剛速球投手誕生を予言,https://dot.asahi.com/dot/2019060400055.html
2.米本恭三,石神重信,近藤徹(1995):関節可動域表示ならびに測定法,リハビリテーション医学32,207-217
3.宮西智久,藤井範久,阿江通良,功力靖雄,岡田守彦(1996):野球の投球動作におけるボール速度に対する体幹および投球腕の貢献度に関する3次元的研究,体育学研究41,23-37.
4.臨床スポーツ医学編集委員会(2001):スポーツ外傷・障害の理学診断理学療法ガイド 第1版,17-24,文光堂,東京
5.宮下浩二,小林寛和,越田専太郎,浦辺幸夫(2009):投球動作の肩最大外旋角度に対する肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節および胸椎の貢献度,体力科学58,379-386.
6.福嶋祐一,井田元樹,林豊彦,前田義信,田中洋,二宮裕樹,駒井正彦,信原克哉(2015):投球動作における「胸の張り」の定量評価に関する基礎的検討,バイオメカニクス研究19(3),108-117