投球理論

野球選手に必要な筋肉とは?投球動作で重要な大胸筋の働きを解説

投球動作では肩関節を大きく外旋させた後、高速で内旋させることによってボールを加速させている。よって、投球動作時の肩関節の外旋の大きさ(最大外旋角度)や内旋の回転速度は、ボール速度を大きくするために重要である。
参考:投球動作の主役!肩関節の「内旋」と「外旋」とは?
そのような重要な局面で、肩関節に作用する筋肉はどのように働いているのか?今回は肩関節の内旋に作用する大胸筋に着目し、投球動作における大胸筋の働きについて紹介していく。

筋肉が縮まない「筋収縮」って何!?

投球動作時の大胸筋の働きを考えるためには、筋肉の収縮様式を理解しておかなければならない。筋肉は収縮することによって力を発揮するが、筋収縮とは「筋肉がその中心方向に向かって力を発揮する作用」であり、単に「筋肉が縮む」だけとは限らない。よって、筋肉の収縮様式は以下の3つに分類される。

① 短縮性収縮:筋肉が力を発揮して短縮する(縮む)。
② 伸張性収縮:筋肉が力を発揮しながら強制的に伸長される(伸ばされる)。
③ 等尺性収縮:筋肉の長さが変化しない状況で筋肉が力を発揮する。

図1 バーベルアームカールを行うときの上腕二頭筋の収縮様式

バーベルアームカールを行うときの上腕二頭筋を例に、筋肉の収縮様式を考えてみよう。
バーベルを上げる動作(図1-①)において、上腕二頭筋は力を発揮して短縮する(短縮性収縮)。一方、バーベルをゆっくりと下ろす動作(図1-②)では、上腕二頭筋は力を発揮しながら強制的に伸長される(伸張性収縮)。また、バーベルを上下させずに保持する場合(図1-③)、上腕二頭筋は長さが変化しない状況で力を発揮する(等尺性収縮)。

ここまでのまとめ

・筋肉は収縮することによって力を発揮する。
・筋肉の収縮様式は短縮性、伸張性、等尺性収縮の3つに分類される。

「ブレーキ機能優先!」安全性を重視した筋肉の設計とは??

様々な重さでバーベルアームカールを行う場合、上腕二頭筋が発揮する力や短縮する速度はどのように変化するだろうか?図2は筋肉が発揮する力と収縮する速度の関係を示したものだ。収縮速度がプラス(図中水色)とは筋力の発揮方向と筋肉の長さ変化の方向が一致していることを示し、筋肉は短縮性収縮する。
短縮性収縮によって発揮される筋力は、収縮速度が大きくなるほど小さくなることが示されている。つまり、軽いバーベルよりも重いバーベルを上げたときの方が、発揮する力は大きくなるが、収縮速度は小さくなるということだ。

図2 筋肉の力-速度関係

一方、収縮速度がマイナス(図中緑色)とは筋力の発揮方向と筋肉の長さ変化の方向が逆であることを示し、筋肉は伸張性収縮する。伸張性収縮によって発揮される筋力は、短縮性収縮によって発揮される筋力よりも大きいことが示されている。

動力機能とブレーキ機能

筋肉を自動車と考えると、バーベルを上げる動作を担う短縮性収縮は動力機能、速度をコントロールしながらゆっくりバーベルを下ろす動作を担う伸張性収縮はブレーキ機能と考えられる。短縮性収縮よりも伸張性収縮で大きな力が発揮されるということは、筋肉は一般的な自動車と同様に、動力機能よりもブレーキ機能を優先した安全性重視の設計となっていると言える。
そのような設計のおかげで、自力では上げられない重いバーベルであっても、自力でゆっくりと下ろすことができる。また、腕相撲で勝つのがなかなか大変なのは、自分の動力機能(短縮性収縮による筋力)が相手のブレーキ機能(伸張性収縮による筋力)を上回らなければならないためである。

ここまでのまとめ

・短縮性収縮によって発揮される筋力は、収縮速度が大きいほど小さくなる。
・筋肉は短縮性収縮よりも伸張性収縮によって大きな力を発揮する。

投球動作時の大胸筋の働きとは??

筋肉の収縮様式を理解したところで、投球動作時の大胸筋の働きをについて考えてみよう。図3は投球動作時の大胸筋の活動を示したものである。

図3 投球動作時の大胸筋の活動

大胸筋は踏み出し脚の着地から、肩関節最大外旋位までのコッキング後期に大きく活動していることが分かる。大胸筋がどのような収縮をしているかを考えるには、投球動作時の肩関節の角度変化を併せて考える必要がある。

コッキング後期の大胸筋の役割とは?

図4 投球時の肩関節の角度変化

図4は投球時の肩関節の角度変化を示したものである。コッキング後期における肩関節は外旋(図の赤線)し、かつ外転に向かっている(青線)ことが分かる。大胸筋は肩関節の内旋や内転に作用する筋肉であるから、コッキング後期の大胸筋は伸張性収縮をしていることになる。

一方、肩関節の水平内転/水平外転(図の緑線)に着目すると、コッキング後期の肩関節は水平内転をしていることが分かる。大胸筋は肩関節の水平内転に作用することから、肩関節の水平内転/水平外転に関しては短縮性収縮をしていることになる。

筋肉が伸長される伸張性収縮と筋肉が短縮する短縮性収縮が同時に起った結果、筋肉の長さが変化しない等尺性収縮となっている可能性もある。しかし、内旋/外旋の角度変化(図の赤線)が顕著に大きいことから、コッキング後期における大胸筋は伸張性収縮をしていると思われる。そのようなコッキング後期における大胸筋の伸張性収縮は、肩関節の外旋に対するブレーキ機能として働いていると考えられる。

加速期のパフォーマンス向上の準備も

大胸筋の活動はコッキング後期だけでなく、加速期でも大きいことが図3に示されている。図4のように肩関節最大外旋位からボールリリースまでの加速期で肩関節は内旋するが、大胸筋は肩関節の内旋に作用する筋肉である。よって、加速期における大胸筋は短縮性収縮をしており、肩関節の内旋に対する動力として働いていると考えられる。

以上のように、投球時の大胸筋はコッキング後期に伸張性収縮、加速期に短縮性収縮をしていると考えられる。伸張性収縮に続いて短縮性収縮を行う(伸張-短縮サイクル)と、短縮性収縮だけを行うよりもパフォーマンスが向上することが分かっている。したがって、コッキング後期における大胸筋は肩関節の外旋にブレーキをかけるだけでなく、加速期におけるパフォーマンスを向上させるための準備をしていると考えられる。

今回の記事では投球動作時の大胸筋の働きを紹介したが、そのような働きが投球動作にどのくらい大きく役立っているかは、今回紹介したデータだけでは言及できない。その点に十分注意して、今回の内容を投球動作の改善に役立ててもらいたい。

千野 謙太郎(ちの けんたろう)

國學院大學人間開発学部准教授
一般社団法人スポーツおきなわパフォーマンスサイエンティスト

参考文献
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