打撃理論

流し打ち方向への打球はなぜ飛ばない?打球がスライスするメカニズムとは

ロサンゼルス・エンゼルスの大谷選手や、福岡ソフトバンクホークスの柳田選手のように、流し打ち方向へホームランを量産できる選手は非常に少ない。これは、流し打ち方向への打撃は、引っ張り方向へ打撃するときよりもライナー・フライ性の高速な打球が飛びにくいためである。
参考:流し打ちが難しいのはなぜ?バットの打撃面とインパクト位置の関係を考察
しかしながら、実際に流し打ち方向へ高速な打球を放てたとしても、打球がきれて(スライスして)ファウルになってしまったり、思ったよりも打球が伸びなかったりすることがよくある。
なぜ流し打ち方向へ長打を放つことは難しいのか?今回は、「インパクト」と「打球」に着目し、打球がスライスするメカニズムを踏まえてこの疑問について解説する。

目次:流し打ち方向への打球が飛ばないのはなぜ?
流し打ち方向への打球はサイドスピンが多い!
打球にサイドスピンが加わるメカニズム
流し打ち方向へホームランを放つためには?

流し打ち方向への打球はサイドスピンが多い

打球の飛距離は、物理的には、打球の速度、角度、回転によって概ね決まる。しかし、打った瞬間は同じ速度、角度、回転で放たれたように見える打球でも、流し打ち方向への打球はスライスし、伸びないと感じることが多いのではないだろうか。

打球がスライスするのは、ボールにサイドスピンがかかっているからである。ボールが回転しながら空気中を移動するとき、ボールの両側面には圧力差が生じる。このとき、圧力が大きくなる側面から小さくなる側面の方向に揚力が働く。これをマグナス力と呼び、この力は移動速度が同じ場合、回転数が多いほど大きくなるという特徴をもつ。
つまり、サイドスピンしながら移動する打球には、横向きにマグナス力が働き、飛翔軌道は横向きに変化(スライスまたはフック)する(図1)。

図1 上方から見たボールの回転と軌道の変化する方向

打撃されたボールはどんな回転をしているのか?

では、打撃されたボールの回転は実際にはどうなっているのだろうか?左右広角に放たれたライナー・フライ性の打球の回転を調べた研究では、右打者の場合は左中間、左打者の場合は右中間(左右の打球方向が-15°あたり)を境に、引っ張り方向への打球はフック回転、センター、流し打ち方向への打球はスライス回転していた(Nakashima et al., 2018)。
また、その回転数は左中間、右中間から離れた方向に打撃されるほど多くなっていた(図2)。

図2 左右の打球方向とサイドスピンの関係

この結果は、両翼のポール際への打球には、それぞれファウルグラウンド方向へと切れていくような回転がかかっており、直線的に伸びていく打球を打つことが難しいことを示している。
さらに、引っ張り方向と流し打ち方向への打球を比べてみると、流し打ち方向への打球にはより多くのサイドスピン(スライス回転)がかかっていた
そのため、同じ速度、角度で放たれた打球であっても、流し打ち方向への打球には大きなマグナス力が働き、飛翔軌道が横向きに大きく変化(スライス)してしまい、飛距離(落下地点までの直線距離)が短くなってしまうのである。

打球にサイドスピンが加わるメカニズム

では、どうすれば流し打ち方向へ飛距離の長い打球を放てるのだろうか?
それには2つの方策が考えられる。1つは、打球の速度を高めること。そして、もう1つは打球のサイドスピンを減らし、直線的に打球を飛ばすことである。打球の速度を高めるためには、スイング速度を高め、アッパー気味のスイング軌道でバットをボールの中心にインパクトさせることが重要とされている(森下ら,2019)。
参考:スピンをかけた打球は伸びにくい!?スイング軌道を解説

では、打球のサイドスピンを減らし、直線的に打球を飛ばすことは可能なのか?ボールに回転が加わるメカニズムを踏まえて考察してみよう。

流し打ち方向へのホームランもスライス回転がかかっている!?

上方から見て、バットがボールの中心をインパクトした場合、ボールに回転は加わらず、打球はセンター方向へ飛んでいく(図3左)。一方で、バットがボールの中心よりも左側をインパクトした場合、ボールにはバットとの摩擦によってバット上を時計回り方向に転がるような回転が生じ、打球は右側へ飛んでいく(図3右)。

※上記『ボールの中心』とは、『ボールの(左右の)中心』のこと

図3 打球に回転が加わるメカニズム

バットがボールの中心よりも左側をインパクトすればするほど、ボールの回転速度は速くなり、打球はより右側(ファウルグラウンド側)へ飛ぶ
このように、バットがボールをインパクトする位置によって、「打球が飛ぶ方向」と「回転」の両方が決まる。このため、流し打ち方向にサイドスピンの少ない打球を放つことは困難であると言える。
もう一度図2を見てみると、流し打ち方向への全ての打球にスライス回転がかかっていることがわかる。スライスしないように見える大谷選手の流し打ち方向へのホームランにも、実際にはスライス回転がかかっているだろう。大谷選手の打球速度はメジャーリーグでもトップクラスであり、ボールがスタンドインするまでの時間が短いため、スライスしていないように見えるのかもしれない。

流し打ち方向へホームランを放つためには?

上述したように打球の飛距離を最大化するためには、高速な打球を直線的に飛ばす必要がある。
しかし、バットがボールをインパクトする位置によって、打球が飛んでいく方向と打球の回転の両方が決まり、流し打ち方向への打球には必ずスライス回転がかかるため、 ファウルグラウンド方向にきれてしまう。すなわち、物理的に考えて、流し打ち方向への打球を直線的に飛ばすことは非常に難しい
流し打ち方向へホームランのような飛距離の長い打球を打つためには、スライスしたとしてもフェンスオーバーするような高速な打球を放つ必要がある。
そのためには、大きなスイング速度でボールをインパクトすることが重要である。また、流し打ち方向へ打撃する場合、特に日本人選手はダウンスイングでボールをインパクトする傾向にある(森下ら,2012)。スイング開始後の早い段階でバットヘッドを下げ始め、アッパースイングでボールをインパクトするようなスイング軌道を身につけることも必要だろう。

中島 大貴(なかしま ひろたか)

中京大学大学院体育学研究科博士課程在籍中、中京大学硬式野球部パフォーマンスアナリスト。スポーツバイオメカニクスが専門であり、広角に長打を放つための打撃技術の解明、変化球の“キレ”の解明などが主な研究テーマ。

引用
Hirotaka Nakashima, Gen Horiuchi, Shinji Sakurai (2018) Three-dimensional batted ball in baseball: effect of ball spin on the flight distance. Sports Engineering 21 (4): 493-499.
森下義隆, 那須大毅,神事努,平野裕一(2012)広角に長打を放つためのバットの動き.バイオメカニクス研究,16(1),52-59.