打撃理論

速いボールを見ると打撃パフォーマンスは向上するのか?

センバツ高校野球の開幕まで1か月を切った。昨秋の明治神宮大会を制した中京大中京の高橋投手や昨夏2年生エースとして甲子園ベスト4に導いた明石商業の中森投手など、今大会も150キロ前後の速球を投じる好投手が出場する。
このような速球派投手の対策として、試合の直前にピッチングマシンを高速度に設定して、打撃したり、ボールを見たりするトレーニングがよく行われている。普段よりも速いボールを見るトレーニングを行うと、ボールの軌道を予測する能力が向上し、打撃パフォーマンスが向上する可能性がある。
参考:ボールは最後まで見れない!打撃におけるインパクトまでのメカニズム

今回は、普段よりも速いボールを見た後、打撃パフォーマンスが向上するのか?について、トレーニングの効果を検証した研究を参考に解説したい。

目次:速いボールを見ると打撃パフォーマンスは向上するのか?
打ちたいボールよりも速いボールを見るトレーニングが有効!
試合直前のみの練習でも効果はある?
継続的に速いボールを見る練習を行うことが重要!

速いボールを見るトレーニングは効果があるのか?

打者が正確にボールを打撃するためには、投手がボールをリリースした直後に、ボールがホームベース上のどこに・いつ到達するかを正確に予測する必要がある。
投手がボールをリリースしてからホームベースに到達するまでの時間は、150キロの投球の場合、わずか0.4秒程で、予測のために費やす時間は非常に短い。一般的なトレーニングとして、短時間で正確な予測を可能にし、打撃のパフォーマンスを向上させるために、普段よりも速いボールを見るトレーニングが行われている。これは、実際に打撃パフォーマンスを向上させるのだろうか?

一定期間継続して行うトレーニングは”効果あり”

まず、速いボールを見るトレーニングを一定期間継続して行ったときの効果について検証した研究(鈴木ら、2015)を紹介する。この研究には大学野球選手17名が参加しており、そのうち8名が140キロ、9名が150キロの直球を打席で見るトレーニング(15球×2セット)を5週間、週3回のペースで行い、そのトレーニング前後にパフォーマンステストとして140キロの直球を10球打撃している(図1)。

図1 速いボールを見るトレーニングを継続的に行った効果について検討した鈴木ら(2015)の研究の実験手順

その結果、140キロ 、150キロのどちらのボールを見たグループでも、トレーニング前には10球のうち半分近くしていた空振りが、トレーニング後には1回程度まで減少していた。さらに、バットがボールにインパクトした詳細な位置をみてみると、150キロを見るトレーニングを行ったグループの方が、トレーニング後によりバットの芯(スイートスポット)に近い位置でボールをインパクトしていた。パフォーマンステストと同じ140キロ、それよりも速い150キロのどちらを見るトレーニングを行った場合でも、打撃の正確性は向上したと考えられるが、より速いボール(150キロ)を見た方が大きなトレーニング効果が期待できるようである

「打撃ポイントが投手寄りになる」ことのメリット

150キロを見たグループでは、トレーニング後に打撃ポイントが26センチ程度(ボール約3個半分)投手寄りになっていた。これは、投手がボールをリリースした後、より短時間でボールの軌道を予測することが可能になり、スイングを開始するタイミングを早くすることができたためと考えられる。打撃ポイントが投手寄りになるほどバットの加速距離が長くなり、バットヘッド速度が大きくなる(森下ら、2019)ため、痛烈な打球を放てる可能性が高まるとも考えられる。
参考:長打を打つためのメカニズムとは?スイング軌道と投球コースで分析
このことから、速いボールを見るトレーニングは、打撃の正確性の向上が期待できる点、痛烈な打球を放つ可能性を高めることができる点で打撃パフォーマンスを向上させるトレーニングとして有効であると言えるだろう。

試合直前のみの練習でも効果はある?

このように速いボールを見るトレーニングを一定期間継続することで打撃パフォーマンスが向上する可能性があることがわかった。しかし、特にトーナメント方式の高校野球では、対戦相手が決まってから、試合の直前にだけ速いボールを見るトレーニングを行うことも多いだろう。試合の直前にこのトレーニングを行うだけでも効果はあるのだろうか?

次に、速いボールを見るトレーニングの即時的な効果について検証した研究を紹介する(中島と桜井、2019)。この研究では、大学野球選手5名が170キロの超速球を打席で見るトレーニング(15球×2セット)を行い、その前後にパフォーマンステストとして150キロのボールを10球打撃している(図2)。

図2 速いボールを見るトレーニングの即時的な効果について検討した中島と桜井(2019)の研究の実験手順

その結果、トレーニング後には5名全員の打撃ポイントがより投手寄りになっており、その平均値は13センチ程度(ボール約2個分)であった。上述したように、投手寄りでボールをインパクトできるようになったことで、痛烈な打球を放てる可能性は高まるかもしれない。
しかし、トレーニング前に平均で3回程度であった空振りの回数は、トレーニング後にも減っておらず、個別で見ると空振りが減った選手もいれば、増えた選手もいた。このことから、パフォーマンステストよりも速いボールを見ても、即時的には必ずしも打撃の正確性が向上するわけではないことがわかった。そのため、打撃の正確性を向上させるためには、普段から速いボールを見るトレーニングを継続的に行った方が良いだろう。

継続的に速いボールを見る練習を行うことが重要!

速いボールを見るトレーニングを継続的に行うことによって、打撃の正確性の向上が期待でき、痛烈な打球を放てる可能性が高まる可能性がある。また、このトレーニングの効果を最大限に引き出すためには、打ちたい投球よりも速いボールを見ることが大切である。
間もなくセンバツ高校野球が開幕するが、出場する選手は速球派投手との対戦を想定して、直前だけではなく、今から速いボールを見るトレーニングを始めることで好投手を打ち崩すことができるかもしれない。その際、想定する投手が投じるボールよりも速いボールを見ることで高い効果が期待できるだろう。

中島 大貴(なかしま ひろたか)

中京大学大学院体育学研究科博士課程在籍中、中京大学硬式野球部パフォーマンスアナリスト。スポーツバイオメカニクスが専門であり、広角に長打を放つための打撃技術の解明、変化球の“キレ”の解明などが主な研究テーマ。

参考文献:
鈴木智晴,蔭山雅洋,藤井雅文,中本浩揮,前田明(2015)直球を見るトレーニングが野球打撃の正確性に及ぼす影響―150km/hと140km/hを比較して―.トレーニング科学,26(4),185-195.
森下義隆,勝亦陽一,神事努(2019)空間上の打撃ポイントの違いがバットのスイング特性に及ぼす影響.体育学研究,64(2),463-474.
中島大貴,桜井伸二(2019)野球において超速球を見るトレーニングが打撃パフォーマンスに与える即時効果.スポーツパフォーマンス研究,11,481-491.