打撃理論

長打を打つためのメカニズムとは?スイング軌道と投球コースで分析

コースの投げ分けにおいて、「低めや外角は安全」、「高めや内角は危険」、ということがよく言われる。「低めや外角は安全」と言われる所以は、低めはゴロになりやすく、外角は打者の身体から離れているため正確なインパクトが難しいという印象や、実践における経験則などが背景にあるだろう。
しかし、最近のメジャーリーグではフライボール革命の影響か、高めよりも低めが痛打されてしまうため、高めを使って打者を打ち取るという場面が増えているようである。投球コースが打撃に及ぼす影響は時代とともに変化するものなのか?
今回は、投球コースとスイング軌道との関係について説明し、投げ分けることの効果や打者としての対策について再考してみたい。
参考:スピンをかけた打球は伸びにくい!?スイング軌道を解説

目次:長打を打つためのメカニズムとは?スイング軌道と投球コースで分析
高めや内角は判断時間が短い!
外角は長打のリスクが低い
投球コースによってスイング特性が変化する要因とは?

高めや内角は判断時間が短い

投球コースの違いによって、スイングの特性はどのように変化するのだろうか。内角は引っ張り方向に、外角は流し打ち方向に打ち返す、いわゆるコースに逆らわない打撃において、打撃ポイントとスイング特性との関係を調べた研究結果(森下ら、2019)を紹介する。
この研究では、スイング特性を3つの指標で表し、各指標と打撃ポイントとの関係を分析している(図1)。

図1 スイング特性を表す指標

図2に内外角方向および上下方向の打撃ポイントとスイング特性を表す指標との関係を示した。スイング速度とスイング角度についてみてみると、内角ほどスイング速度とスイング角度が大きくなり、高めほどスイング角度が大きく(アッパー軌道に)なることが分かる。このことから、やはり内角や高めは経験則の通り長打のリスクが高いコースだと言えそうだ。

では、安全と言われる低めや外角はどうだろうか。低めほどスイング角度は小さくなるが、スイング速度は意外にも大きくなる。また、外角ほどスイング速度、スイング角度ともに小さくなる。つまり、低めや外角は、どちらもゴロになる確率が高くなるため長打になるリスクが低いコースだが、低めはスイング速度が大きくなる傾向があるため打球速度も大きくなる可能性があると言える。

図2 スイング特性を表す各指標と打撃ポイント(内外角方向、上下方向)との関係(森下ら、2019) 矢印の方向に打撃ポイントがあるほど各指標が増加傾向にあることを示している

次にスイング時間をみてみよう。スイング時間は高めや内角ほど長くなる。スイング時間が長くなるということは、スイングを開始する時間が早まるということを意味する。つまり、高めや内角は、低めや外角に比べて、投手がボールをリリースしてから投球軌道を見る時間(判断時間)が短くなるということだ。

打撃では一旦スイングを開始してしまうと途中でスイング軌道を変化させることが難しくなる。実際、スイング開始後0.1秒までがスイング軌道を調整できる限界だと考えられている(見邨&小池、2016)が、投球されたボールがホームベース上に到達する位置やタイミングなどの予測は判断時間の長さに依存する部分があるだろう。
スイング時間の結果から、高めや内角は低めや外角を打つ時よりも判断時間が短くなってしまうため、正確なインパクトが難しくなると予想される。以上のことをまとめると、高めや内角は、スイング軌道の特性上、長打のリスクは高くなってしまうものの、判断時間が短いために打ち損じを生じさせる確率も高いコースと言えるかもしれない。

スイング軌道からみるスイング特性の変化

投球コースによってスイング特性が変化する要因には、弧を描くスイング軌道の構造が関係している。通常の打撃動作は体幹を中心に回転運動をしているため、バットのスイング軌道は頭上からみると体幹付近が回転中心となるような弧を描くことになる(図3左)。スイング軌道は横方向から見ても弧を描いており、インパクト付近においてバットヘッドが最下点になる(図3右)。

図3 右打者のスイング軌道の典型例  スティックは0.01秒間隔であり、インパクトを0秒としたときの時間を表示している

このような弧を描く軌道では、打撃ポイントが投手寄りになるほどバットの加速距離(バットに力を加えられる距離)が長くなり、アッパー軌道でインパクトしやすくなる。
コースに逆らわない打撃を行った場合、前後方向の打撃ポイントは内角や高めほど投手寄りになることが報告されている(Katsumata et al., 2017)。内角ほどスイング速度、スイング角度が大きく、スイング時間が長くなるのは、このような理由があるからであろう。

一方、上下方向の打撃ポイントではスイング速度だけ内外角方向と傾向が異なっていた。その理由としては、低めは打撃ポイントが捕手寄りになってはいたものの、スイング軌道は高めよりも大きな弧を描くことになる(=加速距離が長くなる)ため、スイング速度は低めほど大きくなると考えられる。

カギは「投げ分け」と「打撃ポイント」

今回紹介したデータは、コースに逆らわない打撃を対象としたものだ。実戦でも内角は引っ張り方向、外角は流し打ち方向に打球が飛ぶ割合が多くなる(図4-1)ため、このデータはスイング軌道の大まかな傾向としては信頼できるものだろう。
ただし、上下方向については研究結果から予想される打球方向とは異なり、高めほど流し打ち方向の割合が多かった。実戦において、スイング開始までの決断時間が短くなる高めを引っ張って安打にするというは、低めよりも難しくなるということを示しているのかもしれない。

図4-1 投球コースと打球方向との関係(内外角方向)
図4-2 投球コースと打球方向との関係(上下方向)

※図4-1、図4-2:MLB 2018シーズンにおいて、単打以上が記録された全打席から算出( 参照:Baseballsavant.com)

投手よりのインパクトが長打を生む

スイング軌道の構造からも分かるように、前後方向の打撃ポイントが投手寄りになることで長打になる確率が高まるということである。そして、前後方向の打撃ポイントは、投球の速度だけではなく、コースによっても変動する可能性があるということだ。したがって、投手として長打のリスクを減らすためには、コースへの投げ分けも大事だが、それによって如何に投手寄りのポイントでインパクトさせないかが重要になるだろう。

打者としては、コースに逆らわない打撃をすることは低めや外角において長打を放つ確率が下がってしまうことになる。どのコースでも長打を放つためには、コースを問わず可能な限り投手寄りでインパクトできるように、スイングのタイミングと軌道を調整すること(コースに逆らった打撃)が重要になる。ただし、そのようなインパクトを目指すことで、決断時間が短くなり、打ち損じる確率が高まることを理解しておく必要があるだろう。参考:「外角低め」は本当に安全!?最も打たれにくいコースをデータで分析

森下 義隆(もりした よしたか)

国立スポーツ科学センタースポーツ研究部研究員。日本女子ソフトボール代表チームの科学サポートを担当。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科にて博士号(スポーツ科学)を取得。バイオメカニクスが専門であり、打撃動作のメカニズムやパフォーマンス評価が主な研究テーマ。

参考文献:
Katsumata, H., Himi, K., Ino, T., Ogawa, K., and Matsumoto, T. (2017): Coordination of hitting movement revealed in baseball tee-batting. Journal of Sports Sciences, 35(24), 2468-2480.
見邨康平, 小池関也 (2016): 一度振り始めたバットの軌道はどこまでなら調整できるのか. 日本野球科学研究会第4回大会報告集, 124-125.
森下義隆, 勝亦陽一, 神事努 (2019): 空間上の打撃ポイントの違いがバットのスイング特性に及ぼす影響,体育学研究,印刷中.