打撃理論

上から叩くな!新しいスイング理論

「ボールを上から叩け!」。多くの選手がこの指導を受けたことがあるだろう。しかし近い将来、この指導が変わるかもしれない。メジャーリーグではStatcastの出現により、打球速度や打球角度を評価できるようになった。今回は、それらのデータを元に「ボールを上から叩け」という野球指導について考えてみたい。
参考:スタットキャストとは?メジャー最先端技術を紹介!

「ボールを上から叩くな!」新しいスイング理論
OPSから見るフライボールの効果
「バットを最短距離で出す」の真意とは
フライボールの方が成績は良くなる?

OPSから見るフライボールの効果

データを分析していく中でまず最初に分かったのは、フライ打球は「長打率」において非常に効果的ということ。表をみると、ゴロ打球に対しフライ打球は長打率が非常に高い。となるともちろん、セイバーメトリクスの指標であるOPS(出塁率+長打率)も高い成績となる。

表1 2018年MLB:フライとゴロの成績比較
打球種別打率長打率
フライ0.2700.851
ゴロ0.2460.270

続けてメジャー過去10年のデータを分析すると、実はOPSは打率よりも得点との相関が高い事が明らかとなった。つまり、フライ打球は長打率やOPSを向上させ、ひいては得点の向上に大きく寄与すると言えるのだ。

図1 打率と得点の関係性
図2 OPSと得点の関係性

また、打球そのものを分析できるようになったことで、最適な打球角度も浮かび上がってきた。表2を見ると最も高い長打率を記録しているのは、打球角度が20度台のときであった。このようにStatcastによって最適な打球角度を客観的な数値として、目標に設定できるようになった。

表2 2018年MLB:打球角度毎の成績比較
打球角度長打率
-10 ~ -10.362
0 ~ 90.666
10 ~191.055
20 ~291.607
30 ~ 391.008
40 ~ 490.124

「フライ打球の有効性」そして「どんな打球を放てばいいか」が明らかになってきたことで、メジャーリーグではいわゆる「フライボール革命」に拍車がかかった。実際に、2017年にはMLB歴代最多の本塁打数(6105本)を記録することとなった。

バイオメカニクスからみるフライボールの効果

近年、スイングに関する研究も急速に進んでいる。研究結果によると、打球速度が高いほど飛距離は大きくなりやすく、打球の回転速度よりも打球速度を高めた方が有効であることが明らかとなっている(文献1)。

また、直球を打つ場合はバットが水平面よりも19度上向きの軌道、つまり19度アッパースイングでボール中心の0.6センチ下側をインパクトすると飛距離が最大化するとされている。投球されたボールは落下しながら打者へ向かってくる。多くのフライ打球を放ち、かつ遠くへ打球を飛ばすには、アッパー気味の角度でインパクトを迎えるスイングが効果的と言えるのだ(図3)。

図3 最も飛距離が大きいポイント

「バットを最短距離で出す」の真意とは?

日本では長らくダウンスイングやレベルスイングが指導の主流とされてきた。しかし、ほとんどのホームランバッターはこのようなスイングにはなっていない。では指導の現場において、なぜこのような誤解を招く指導がされてきたのか。これは「『主観』と『客観』のズレ」で説明ができる。
たとえば、インタビューに対して「バットを最短距離で出す」と答えるプロの選手は少なくない。しかし、それらの選手のスイングを見ると、決して最短距離ではスイングしていないことが分かるだろう。たしかに振り遅れないようにするには、最短距離でボールをインパクトしたいという意識は理解できる。
しかし、打球速度を高めるためにはスイング速度を高める必要があり、「本当に」最短距離でバットを出しても、ボールは飛んでいかないのだ。つまり、多くの選手の「最短距離でバットを出す」は主観的な感覚であり、客観的な“軌道そのもの”を指す言葉ではないということだ。
選手は「最大速度でインパクトを迎える意識」を「最短距離でインパクトする」と変換して表現しており、「最短距離でバットを出す」を軌道そのものと解釈してしまった結果が、ダウンスイングの指導へとつながったのかもしれない。

指導者は「主観」と「客観」がズレることを頭に入れて指導することが必要で、それは選手自身も同様だ。スイングや打球のデータは、打者の主観的な軌道と客観的な軌道にどれくらいのズレがあるのかをチェックするための大きな助けとなるだろう。

それらの測定は必ずしも高価な精密機器を必要とせず、スマートフォンとセンサーを用いて打者のスイングを測定・数値化するデバイスも登場している。即時的なフィードバックが行えるだけでなく自身のデータを積み重ねていけるため、好不調の要因を探ったり上達の過程を確認したりできる。
こうした活用を積み重ねることで、これまで漠然としていた「あの選手のようになりたい」が、数値として目標に設定できることになる。野球の「見える化」が加速することに伴って、より効率的な努力が出来るようになるのではないか。

フライボールの方が成績は良くなる?!

ここまでフライ打球やアッパースイングについて紹介してきたが、最後にボストン・レッドソックスの主砲J.D.マルティネスの一言で締めくくりたいと思う。

“You still talk to coaches ‘Oh, you want a line drive right up the middle. Right off the back of the [L-screen in batting practice].’ OK, well that’s a fucking single. To me, the numbers don’t lie. The balls in the air play more.”

「バッティング練習の場で、コーチは『ライナーでセンター返しをしろ』と話す。しかしそれではシングルヒットにしかならない。数字は嘘をつかない。フライボールの方が数字は良くなる」
マルティネスは旧来の打撃指導に疑問を持ったことで一流打者のスイングを分析。彼らの多くがアッパースイングであると気づいた。それらのスイングをヒントにフライボールを放つ取り組みを行い、大きく成績を向上させた。
参考:J.D.マルティネスがトップ10にランクイン。MLB打者ランキング

まだまだ多くの人が、これまでの常識を鵜呑みにしているかもしれない。マルティネスは自ら疑問を持ち、アッパースイングに取り組んだ結果、花開いた。いま目の前にあるその常識は本当に正しいものであるのか。選手自身だけでなく、指導者、観戦者も意識を変える時が来ているのかもしれない。

参考文献
1. 城所収二, 野球のバッティングにおける打球飛距離を決定するスイング特性とインパクト