打撃理論

フライボール革命は日本人にも可能か?長打量産に必要なものは?

【こんな人におすすめ】
長打を打ちたい打者、ウェイトトレーニングを取り入れている選手

「フライボール革命」
近年メジャーリーグで巻き起こったこの革命が日本でも着々と広がりを見せている。フライボール革命とは、打者がより得点に貢献する打撃を目指してフライを打ち始めた革命のこと。海の向こうでは近年本塁打が急増しており、2017年には過去最多となる6105本の本塁打が飛び出した。

今回はフライボール革命の有効性を再度紹介するとともに、「日本人選手にも効果的かどうか」をデータの側面から考察していきたい。

フライボール革命は日本人にも可能か 長打量産に必要なものは?
フライボール革命が起きている理由と効果とは?
データ分析から生まれた「バレル」
打球に回転をかけることの是非
日本人選手でも長打を量産できる!

フライボール革命が起きている理由と効果とは?

なぜ、メジャーリーガーたちは皆フライを打ち始めたのであろうか。
その理由が、フライの有効性である。打球の種類別に結果の割合を見てみると、意外な結果が浮かび上がった(表1)。

表1 打球種類別結果割合
イベント発生割合安打割合長打割合本塁打割合
ゴロ45%24%2%0%
ライナー25%62%22%2%
外野フライ23%26%22%17%
内野フライ7%2%1%0%

MLBの2018年シーズンのデータで分析

「長打割合」や「本塁打割合」に注目してほしい。ゴロは長打にはほとんどならず、ライナー、外野フライは同様の長打確率となっている。ゴロの本塁打はもちろん0で、外野フライは他のイベントに比べて本塁打割合が圧倒的に高い。また、意外なのが「安打割合」。“単打狙い、長打狙い”の言葉に代表されるように、外野フライは大味なイメージを持つかもしれない。しかし、データで見ると、安打の確率でも外野フライの方がゴロのそれよりも高かったのだ。

さらに、近年のメジャーリーグでは守備シフトが盛んに敷かれるようになった。トラッキングデータの発展により、どのエリアにどんな打球が飛んできやすいかが分かり、野手は打者の傾向に合わせて守備位置を大きく変更。そのため、ゴロで野手の間を抜くことがどんどん難しくなり、ますますフライ打球の需要が高まった。

データ分析から生まれた「バレル」

フライの有効性が明らかとなり、打者はフライを打ち始めた。しかしながら、ただ漠然とフライを打ってもアウトを増やすだけだろう。そこで創出されたのが「バレル」という指標だ(図1)。
以前説明した通り、バレルとは打球速度と打球角度の組み合わせで構成されるゾーンのこと。ゾーンに入った打球は必ず打率5割、長打率1.500以上となり、簡単に言えば「どんな打球」を「どんな角度」で打ち出せば長打になるのかを示す指標だ。
参考:注目の指標「バレル」とは? 打球速度と角度の重要性

図1 バレルゾーンの説明図【出典『MLB.com』】

バレルになるには打球速度が最低158km/hが必要で、その際には打球角度26〜30度の範囲が該当。バレルになる角度は、打球速度が速くなれば速くなるほど広がり、閾値(しきいち:一線を越える値)とされる187km/hに到達すると、8〜50度の範囲がバレルとなる。
「フライの有効性」に加えて「どんな打球を打てばいいのか」を客観的に表すことができるようになり、メジャーリーガーは漠然とフライを上げるのではなく、バレルゾーンを目指して打球速度と打球角度を意識するようになったのだ。

打球に回転をかけることの是非

では、どのように打球速度や打球角度を高めればいいのか。スイングの観点からも考えたい。打球角度を大きくするにあたり、ボールの下を「切って」バックスピンをかける方法をイメージするかもしれない。しかし、実はこの方法は効果的ではなかった。
たしかに無回転のボールとバックスピンのかかったボールを同じ速度、かつ同じ角度で投射すると、当然バックスピンのかかったボールの方が作用する揚力は大きくなり、遠くに落下する。しかし、過度に回転数を増加させようとすると、ボールの中心から離れた位置を打つ必要があるため、実際には打球速度が低下。飛距離も増加しない(図2)。

図2 最も飛距離が大きいポイント

研究結果によると、直球を打つ場合はバットが水平面よりも19度上向きの軌道、つまり19度アッパースイングで、ボール中心の0.6cm下側をインパクトすると、飛距離が最大化するとされている。投球されたボールは落下しながら打者へ向かってくる。多くのフライ打球を放ち、かつ遠くへ打球を飛ばすには、アッパー気味の軌道でボール中心のわずか下側をインパクトすることが必要と言える。

体の大きさに着目

フライボール革命に関して必ず巻き起こるのは、「メジャーリーガーに比べて体の小さな日本人選手にはフライ打球は効果的ではないのでは?」という議論だろう。打球が遅く、力のないフライを打ってもアウトになるのが関の山というのが理由だ。そこで、「体の大きさ」に着目し、日本人選手のフライボール革命について考察していきたい。
研究結果によると、筋量の目安となる除脂肪体重とスイング速度は相関関係にあるとされている。やはり筋量の多い打者はスイング速度が速くなりやすいということだ(図3)。

図3 除脂肪体重とバットスイング速度の関係。除脂肪体重が多いとスイング速度は高まる

また、打球速度とスイング速度の相関関係を示した研究結果を使って逆算すると、打球速度を出すためのスイング速度、そして除脂肪体重を推定することができる。

バレルの「最低条件」に注目すると…

例えば、2017年のメジャーリーグの最高打球速度はジャンカルロ・スタントン(当時マーリンズ、現ヤンキース)が記録した196.7km/hだった。これを逆算するとスイング速度が約172km/h必要で、そのスイングを行うためには除脂肪体重が約100kg必要。スタントンの体重は約111kgで、この打球速度で打つために非常に理にかなった体を有している。
だがしかし、誰しもがスタントンのような体になれるわけではない。日本人選手のフライボール革命を考える上で、再度注目してみたいのはバレルの「最低条件」である。

バレルの最低条件として、打球速度は158km/hだった。逆算してみると、必要なスイング速度が約128km/h、スイングを行うために必要な除脂肪体重は約65kgであった。仮に体脂肪率15%だと仮定すると体重約75kgで、日本人選手でも多くの選手がクリアしている数字となる。つまり、実は多くの日本人選手は、適切な角度で打球を打てれば長打を連発できる可能性を秘めていたのだ。
参考:打者は体が大きい方が有利!?データで検証!

日本人選手でも長打を量産できる!

今回は「体の大きさ」に着目して、日本人選手のフライボール革命の可能性について考察してきた。その結果、実は日本人選手でも多くの選手が長打を量産できる体を有していることが分かった。もちろん打撃は多くの技術要素を含むものであり、簡単に筋量や体重だけで説明はできない。しかし、多くの選手が長打を量産できる可能性を有すというデータを示すだけでも、フライボール革命へ挑戦するに値するのではないか。

長打を量産する山田哲人

例えば、トリプルスリー3度の山田哲人選手(東京ヤクルト)は76kgという体重で長打を連発している。本当は山田選手のように長打を量産する能力を秘めているにもかかわらず、体の大きさを理由に自らの可能性を摘んでしまっている選手がいるかもしれない。データやスポーツ科学の力によって、一人でも多くの選手の可能性が広がることを信じたい。

引用
http://m.mlb.com/glossary/statcast/barrel
https://www.fangraphs.com/tht/optimizing-the-swing/
笠原ら(2012): 大学野球選手のバットスイングスピードに影響を及ぼす因子, Strength & Conditioning journal 19(6), 14-18, 2012
城所・矢内(2017):野球における打ち損じた際のインパクトの特徴. バイオメカニクス研究 21(2), 52-64, 2017