「低めに投げろ」ってホント?

「低めに集める」
「ピッチングの基本は低め」
投球指導において「低め」は最も使われる言葉のひとつかもしれません。

しかし本当に低めへの投球は有効なのでしょうか?

それを探るべく、今回は2016年のMLBの全データから、投球されたコースの高低に絞って分析を行っていきたいと思います。

低めは有効なのか

「低めに集めろ」「高めに投げるな」指導だけでなく、試合中の掛け声でもよく聞かれる言葉でしょう。
しかし本当に低めへの投球は有効であるのか明らかになっていません。

有効であるかどうかを分析するうえで、まずは打球の飛距離をみてみます。高めは低めより飛ぶ!とよく言われますが、果たして本当に高めは飛ぶのでしょうか。MLBで2016年に投球された全投球約71万球から、ファールを除いた打球を抽出して、検証しました。

全投球から打者がスイングを行った約33万球のなかで、空振り、ファールを除く打球となったのは約13万球でした。
それらのデータを分析し、ホームベース到達時のボールの高さ1㎝毎に平均打球飛距離を算出しました【図1】。
黄線は2016年全投球の平均ストライクゾーンを示しています。ストライクゾーンの下限の平均は48.6cm、上限の平均は105.5cmでした。

図1 2016年MLBのボールの高さ毎の平均飛距離

図1をみると、高めになればなるほど飛距離が大きくなっています。
やはり高めの方が飛距離が大きく、低めのストライクゾーンぎりぎりと、高めのストライクゾーンぎりぎりではなんと約20mも平均飛距離に差があったのです。

低めを打つと打球速度は高まる?

高めは低めよりも飛距離が大きいことがわかりました。
では続いてさらに細かく打球の特性を見ていきます。
まずは、ホームベース到達時のボールの高さ1㎝毎に平均打球速度を算出しました【図2】。

図2 2016年MLBのボールの高さ毎の平均打球速度

図2をみると、地面から63cmが最も打球速度が速いことがわかります。ストライクゾーンの低めといったところでしょうか。

投球コース別にスイング特性を調べた研究では、低めの打撃は、高めの打撃よりも有意にスイング速度が高くなっています(森下ほか、2016)。
低めはバットヘッドを加速する時間が長くなるため、インパクト時のスイングの速度が高まり、結果打球速度が高まったのでしょう。

飛距離では高めの方が大きかったにもかかわらず、打球速度は意外にも低めの方が速くなっています。
ではなぜ飛距離が右肩上がりになっていたのでしょうか。続いてホームベース到達時のボールの高さ1㎝毎の平均打球角度をみてみます【図3】。

図3 2016年MLBのボールの高さ毎の平均打球角度

図4をみると、高めほど打球角度が大きくなっていることがわかります。
先ほどの研究では、低めの打撃は、高めの打撃よりスイング角度が有意に小さかった(=低めの打撃はダウンスイング気味になった)と報告しています。

つまり、低めのボールは、打球速度は高まりやすいものの、ダウンスイング気味の軌道になりやすいため、打球角度が小さいということです。

これが高めが低めより飛ぶ最大の理由だったのです。
得点との相関は、打率よりもOPSの方が高いことがわかっています(鳥越、2014)。
飛距離が大きくなると長打が増加し、長打率やOPSも高まっていきます。
低めへの投球は、長打を抑え、得点を減らす意味で効果的であるといえるでしょう。

高めは本当に危ないのか?

低めへの投球は、打球角度を小さくし、飛距離を抑えることがわかりました。
従来の指導のように、やはり失点を防ぐうえで一定の効果はあるようです。

しかし上原投手は「4シームを低めに投げない」投球術で活躍しています。
※参考2:上原投手分析2017

このように、かならずしも高めが不正解とは言えません
また、コースや球種の違い、ホップ成分やシュート成分といったボールの特性による影響も考える必要があるでしょう。低めへの投球は有効な手段の一つではありますが、高めが「危険」かどうかは、まだまだこれから検討が必要かもしれません。

今後、投手の投球術の秘密を解き明かすうえで、本項での検討が手立ての一つとなることを期待します。

引用
森下ら(2016). 投球コースの違いがバットスイングに及ぼす影響 プロ野球選手と大学野球選手との比較. 野球科学研究会報告集,p126-127
鳥越規央(2014).勝てる野球の統計学 セイバーメトリクス. 岩波書店:東京,pp.21-31

Baseball Geeks編集部

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